ガチャ473回目:シルヴィアさん
ブロンドヘアの美人さんが、日本語で挨拶をして来た。
どうやら本当に、エスやミスティの言うように歓迎されているようで安心した。ならここは、リーダーとしても率先して挨拶を返さねば。
「こんにちは。これからお世話になります」
握手を求められたのでその期待に応えたのだが、女性は少し訝しげな顔をしたのちすぐに笑顔に戻った。よく見れば、背後でプラカードを掲げている人たちも、一部は不思議そうな顔をしている。やっぱ、オーラがないと不自然だったか?
彼らの場合、エスやミスティを間近で見慣れている分、特にオーラのあるなしに敏感なのかもしれないな。どうにかして彼らの不安を払拭しないと不味いか……?
そう思っていると、彼らが歓声を上げた。その視線を追ってみると、どうやら彼らはエスとミスティの登場に喜んでいるようだった。
「ん。皆、ただいま」
「やあシルヴィ、ただいま戻ったよ」
「エス! 元気そうでよかったわ!」
シルヴィと呼ばれた彼女は、俺から離れるとすぐにエスに飛びついた。
おやおやおや??
エスはしっかりイケメンなのに、ミスティからは浮いた話を聞かなかったが……。なんだ、ちゃんと彼女がいるじゃないか。
俺達は2人を生暖かい目で見守っていると、シルヴィさんはその視線に気付き、我に返った。
「あっ。失礼しました、皆さんこちらへ!」
そうして通されたのは、空港のとある一室。居心地の良い落ち着いたデザインのインテリアと、清潔で上品な気配を感じさせる調度品。部屋の外にはボディーガードと思われる強面のお兄さん達が並んでいたし、VIP用の部屋か何かだろうか。
そうして部屋の中をキョロキョロと見回っていると、部屋の隅に移動したエスとシルヴィさんがコソコソと内緒話を始めた。
「もうっ、全然連絡寄越さないから心配したじゃない! それで、見つけた助っ人っていうのは彼女達の事? 結構強そうに見えるけど、ミスティちゃんほどじゃないわよね?」
「ああ、彼女達は本命の彼の婚約者達さ。戦力としてもかなり期待はできるけど、あくまで彼のサポートがメインだと思うよ」
「彼? っていうと、1人しかいないけど……。まさか、さっき挨拶したあの人じゃないわよね?」
「ああ。彼で間違いないよ」
「うそでしょ!? オーラが感じられにくい人だって報告は受けていたけど、アレはそんなレベルじゃないわよ。装備は良いかもしれないけど、あんな実力じゃ壁役にもならないわよ!?」
「僕も最初は目を疑ったさ。でも、冗談のようにオーラがほとんどない人だけど、実力は本物だよ。ステータスで言えばミスティより格上なのは間違いないね」
「エス。あなたは冗談も言うしユーモアもある人だけど、そんな与太話を言う人じゃないことくらい知ってるわ。けど、それでも信じられないわ。彼が、ミスティちゃんより、格上ですって?」
「ああ、断言しよう。兄さんはミスティより強いよ。ちなみにこの会話も、彼には丸聞こえだし、英語も完璧だから理解もしているよ」
バッとシルヴィさんが顔をこちらに向けたので、軽く手を振ってみる。
まあ、期待のエースであるエスが連れて来た男が、装備と侍らせている女性だけは優秀な、弱そうな男じゃあ、彼女が落胆する気持ちもわからんでもない。こうなるくらいなら、ガチャを回さずに200超えレベルのまま渡米してきた方がよかったように思えなくもないが……。
俺がガチャを我慢?
むりむり。
「まあ俺が弱く見られるのは慣れてるし、その問題は今は置いとくとしてだ。そんなことよりもエス、その子を紹介してくれよ。彼女はお前の恋人か?」
「ああ、すまない兄さん。彼女はシルヴィア。僕達はシルヴィって呼んでる。ただ、彼女は素敵な女性だけど、僕の彼女じゃないんだ。いわゆる腐れ縁……。幼馴染ってやつだね。そして僕の専属でもあるんだ」
「ふーん?」
エスはそう言って否定したが、俺は見逃さなかった。
俺が『恋人』というワードを告げた一瞬、シルヴィさんが嬉しそうな気配を発していたのを。そしてエスが断った瞬間、落胆したような気配を発していたことも。
俺はこれでも11人も婚約者がいる身だ。それくらいの機微は分かるつもりでいる。しっかし、まさかエスが鈍感系の奴だったとは……。
「じゃあエス、お前に彼女とかいない訳?」
「ああ、残念ながらね」
「モテそうなのになぁ……。じゃあ一応募集はしてるんだな?」
「そうだけど……。どうしたんだい兄さん、急にそんなこと言い出して」
「いや何、弟の幸せを願うのも兄の役目だろ」
「兄さん……。お節介がすぎるよ」
このまま放っておいても進展はしなさそうだしな。エスの言う通りお節介だろうが、無理やり関係値を進めてやろう。それに、エスは『運』が低そうだから、こういうところで手助けしてやんないと、悪い方に転がりかねん。
「それなら、シルヴィさんは彼女にしないのか? 彼女ならお前にお似合いだし、専属と恋人になるのは定番だろ」
「ええっ? 確かに専属を恋人にするのはよく聞く話ではあるけど、僕よりもっと素敵な人が……」
「Sランクでこの街の人達に期待されているお前よりか? そんなのいないだろ」
「いや、それなら兄さんだって……」
「おいおい、俺は美人なら誰だって良いような節操無しに思えるのか?」
まあ傍からはそう見えてるかもしれんが。
「それに、俺にそう言うってことは彼女のこともある程度気に入ってるんだろ? ちなみにシルヴィさんは、今はフリー?」
「ええ、フリーよ!」
「だそうだ。ならちょうど良いから、とりあえず今ここでアタックしてみろよ」
「そ、そんな急に!?」
エスは珍しく狼狽した様子を見せたが、シルヴィさんは期待するような目でエスを見つめていた。
「……えっと、シルヴィ。その……急で悪いんだけど、また僕と……付き合ってくれないかな?」
「喜んで!」
2人が抱き合い、シルヴィさんがエスの唇を奪うと、見守っていた彼女達と俺は盛大な拍手を贈った。それを受けてシルヴィさんは喜びの涙を流したが、エスはというと、突然のキスと衝撃の展開について来れていないのか、目を白黒とさせていた。
しばらくそうしていた2人だったが、シルヴィさんは俺と目が合うと、エスから離れて俺のそばまでやってきた。
「ショウタお兄さん。あなた、とっても良い人ね!!」
「どういたしまし――!?」
突然、シルヴィさんが頬にキスをしてきた。アメリカの人はスキンシップが激しいとは聞いてたが実際に体験する事になるとは……。
一応確認するが、これは浮気じゃないよな??
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