ガチャ472回目:新天地
※今回のみ英語会話は『』。日本語会話は「」。
※次話からはいつも通りです。
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俺は日常英会話の本を読みつつ、『並列処理Ⅲ』と『思考加速Ⅱ』を使いながらヘッドセットで別の英会話音声を流していた。正直、この準備期間の数日はほぼほぼアクセサリー作成に費やしていたせいで、俺は英語の勉強がまるでできていなかった。
うちの彼女達は言うまでもなく優秀で、全員が既にペラペラらしく、今更練習する必要はないそうだ。なので全員、準備に時間を掛ける事ができたようだが……。
それはそれとして、アキやアヤネですらペラペラだった事にちょっと驚いたのは内緒である。なので今、俺は一夜漬けも真っ青なレベルで特訓をしていた。
『んー……こんな感じか?』
『ああ、問題ないよ兄さん。ちゃんと喋れてるじゃないか』
『意外と、やってやれないことはないんだな』
『話すだけならね。読み書きも加わるとそれなりに時間がかかるよ。特に日本語は言語の種類が多くて本当に意味が分からなかったよ』
『ん。私は早々にエスに投げた。けど、最近は頑張ってる』
『おー、偉いけど、なんで再開したんだ?』
『ん。ショウタと暮らすのに、読めないじゃやっていけない』
『撫でてあげよう』
『わたくしも撫でますわ!』
『んふ』
そのまま機内でエスやミスティと軽い世間話をしてみたが、特に問題はないレベルに仕上がったらしい。
勉強では読みとリスニングしかしてなかったのに、話す事もそつなくこなせるとは。『知力』補正舐めてた。
「ショウタさん、到着までまだしばらくかかりますし、奥の仮眠室で一眠りしませんか?」
「あー。じゃあそうしようかな」
「布団は例のアレに変えといたから、ぐっすり眠れるわよー」
「旦那様、抱き枕はいりませんこと?」
「いるいる」
「ショウタ、私もなる」
「来い来い。あーでも、一夜漬けで覚えた英語、起きたら忘れてたりして……」
「はは、その時はまた覚えれば良いさ。今はゆっくり休んで来てくれ。着いたらしばらく休む暇は無いと思うからさ」
エスの言葉に従い、俺たちはベッドに入る。
俺の場合、ベッドが変わっても眠れないなんてことはないが、やっぱりこの羽毛布団の存在はありがたいな。睡眠の質は間違いなく上昇してるだろ。そんな事を思っている間に、俺たちはすぐ寝息を立て始めるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ショウタさん、そろそろ到着ですよ」
「んぁ……」
マキに優しく起こされた俺は大きく伸びをした。隣を見ればアヤネも起きたばかりのようで目を擦っている。俺は傍にいた彼女達に、いつも通りおはようのキスをしていると、ふと一人足りない事に気が付いた。
アヤネの反対側にいたはずのミスティがどこにもいないのだ。だが、存在を主張するかのように布団の一部が膨れ上がっている。軽くめくってみると、そこにはコタツで丸くなる猫のように、眠り続けるミスティの姿があった。
「ほんと、この子はよく寝るな」
よく考えれば、ダンジョンにいる時以外、ミスティって基本食べる以外では時折漫画を読むことはあれど、昼寝してることが多かったよな。寝る子は育つというが、ミスティの場合睡眠そのものが好きみたいだ。
この布団もめちゃくちゃ気に入ってるみたいで、うちに来る前はホテルで常に冬籠りする動物みたいになってたらしいし。我が家に来てからもミスティの傍らには常に羽毛布団の存在があった。
彼女が占拠していたソファーには、こんもりと小さな山のように膨らんだ『ルフの羽毛布団』があり、寝てる時はそこに引っ込み、起きていても首だけ出してる状態だった。
布団の効果か、スヤスヤと寝息を立てては時折覚醒し、何か食べたり飲んだり読んだりして、少し経てばまた眠るの無限ループだったし。この子は多分、ダンジョンが世界になかったら一生ぐーたらニート生活をしていそうである。
「この子、さっきショウタ君が勉強してた時も座席で寝てたわよね」
「戦闘中は凛々しくてカッコイイですのに、オフの時は別人ですわ」
「お家ではカタツムリみたいになっていて可愛らしかったですけどね」
「幸せそうに眠られていると起こすのが躊躇われますね」
この状態のミスティはやはり平常運転なのだろう。やって来たエスが、呆れたような顔で呟いた。
「うちのミスティが迷惑を掛けてすまない。しかし、ペナルティが発生していそうなのに、不思議だな」
「ん? そりゃまあ、俺がこの状態のミスティを邪魔に思ってないからだな。もうお前らは俺の家族だからな。ちょっとやそっとじゃ邪険に扱ったりしないよ」
「兄さん……。ありがとう。でも、それに甘えすぎるのはよくないからね、僕が起こすよ」
『パチンッ』
エスが指を鳴らすと、ミスティがくるんと回転し、起きてもいないのに自然な動きで立ち上がった。まるで自分の意志で立ち上がったように見えるが、
そうしてミスティは寝ているにもかかわらずその場で足踏みを始めた。奇妙な光景を見守っていると、次第にミスティの目が開き、恨めしそうな顔でエスを見た。
「ん。この起こし方、嫌い」
「僕がいないところでゴロゴロするのは良いし、甘やかされるのも良いけど、あんまり兄さん達に迷惑を掛けちゃだめだよ」
「……ん。ごめんなさい」
ミスティがぺこりと頭を下げた。
「でも、脱ぎ癖が無くなったのは良い変化だね。何が改善につながったんだろうか」
「ん。ショウタは脱がすのが好き。だから脱ぐのは我慢してる」
「……兄さん?」
「ノーコメント」
エスに背を向け、俺は寝間着から鎧へと着替え始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ここからは新天地であり、俺の事を知ってる奴はほとんどいないだろう。ただでさえ俺はレベルの関係でオーラが低いし、舐められないよう最初からフル武装で行くべきだと彼女達が決めたので、それに従う。まあ、装備だけ立派でも着せられてる感が強いような気もするけど、何もないよりはマシか……?
いやでも、馬鹿がカモを見つけたと寄ってくるかもしれないし、それを蹴散らせば動きやすくもなるか……?
そんなことを考えている内に全員の準備が完了し、ジェット機は予定していた空港へと降り立った。外は明るく、日差しが強い。確か日本を出たのはお昼の13時ごろで、この辺りは日本より14時間ほど遅れてて、12時間ほどかけてゆっくりと飛んできた訳だから……。午前の11時頃になるわけか。
うーん、時差ってめんどくさいな。
そんな事を考えながら扉を開けると、たくさんの人達が歓迎の言葉を書いた看板を掲げていた。
「おお……」
歓迎されてる事に安堵を覚えた俺は、彼女達に背中を押され、ゆっくりとアメリカの大地に降り立つ。横合いからカメラのフラッシュが焚かれ、反射的に目を背けると、集団の先頭にいた女性が『アメリカへようこそ!』のプラカードを掲げながら近付いてきていた。
「ようこそ、アメリカへ!」
彼女は流暢な日本語で挨拶をしてくれた。
危惧していたのは無用だったかな?
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