第十五章 696幻想ダンジョン 前編

ガチャ471回目:空へ

「ご主人様、忘れ物はございませんか」

「無い。っていうか、忘れててもアイラが持っててくれてそうだしな……」


 そもそも、荷物類は全部うちの彼女達が担当している訳で、俺は何もしてないんだがな。

 そんなことを考えながら、俺はサクヤお義母さんが用意してくれた自家用ジェットに乗り込んだ。機体には世間に疎い俺でも見た事のある宝条院家の家紋が刻まれてるし、これなら向こうに行っても一目でわかるはずだ。


「ショウタ、忘れ物だよ」


 そう言ってミスティが腕を絡めてくる。


「ミスティの事は別に忘れてないぞ」

「ん。そう?」


 隣に並ぶ彼女を見下ろすと、胸元には『真愛のネックレス』が輝き、その指には『真愛の指輪』が嵌められていた。まだダンジョンに入って試せてはいないが、多分効果は問題なく発揮される気がする。ちなみにこの数日間、部屋に籠って作ったのは彼女の分だけでなく、エスや、カスミ達6人分も作ったりした。

 エスには機能を集約したバングルを送り、カスミ達には少し機能の違うネックレスと指輪を贈っておいた。


 名前:親愛のバングル

 品格:≪遺産≫レガシー

 種別:アクセサリー

 説明:義兄弟に贈られた唯一無二のバングル。付近にある『愛』シリーズの効果をコピーし、同等の効果が得られる。コピー対象が付近に無い場合でも、強力な状態異常への抗体と破壊耐性を持つ。

 製作者:アマチショウタ


 名前:真愛のネックレス ナンバーズ

 品格:≪遺産≫レガシー

 種別:アクセサリー

 説明:邪気を払い、心で通じ合うパートナーが身に着ける事で特殊効果が発動。ナンバーズ所有者が戦闘で得た経験値を、付近にいる全てのナンバーズ所有者が共有する。同一モンスターでの経験値重複は起きない。強力な状態異常への抗体を持ち、いかなる存在もこのアクセサリーを破壊、または簒奪する事は不可能。

 製作者:アマチショウタ


 名前:真愛の指輪 ナンバーズ

 品格:≪遺産≫レガシー

 種別:アクセサリー

 説明:邪気を払い、心で通じ合うパートナーが身に着ける事で特殊効果が発動。ダンジョンシステムに介入し、他のナンバーズ所有者が倒したモンスターの判定を、ナンバーズ01が倒したものであると誤認させる効果がある。

 ★装着者はいかなる強奪・簒奪の危機からも回避される。

 製作者:アマチショウタ


 ナンバーズシリーズは、元の『真愛』シリーズと見た目は全く同じだが、元との違いは効果が俺を中心に作用しなくなったという点だ。

 『ナンバーズ』という名の通り、彼女達に送ったネックレスと指輪には、No.1からNo.6までが設定されていた。けど、誰が1番だとか6番だとか区別するつもりは毛頭ないし、それを彼女達には知らせるわけにもいかなかった。

 だが、イズミが倒したのと同じ扱いにするという都合上、イズミにはNo.1の指輪を選んで身につけてもらう必要があった。それぞれのメンバー宛に個別の小箱に入れて送りつけてもよかったんだが、見た目が全く同一である以上、混ざるとわからなくなることもあるだろう。

 そういうこともあり、何かしら分かりやすく識別できる要素を考えた。だけど、どれか1つに特別感を出すと他の子に申し訳が立たないし、全てに特別感を出そうとすれば、俺にセンスが求められるだろう。残念ながらそんなものはないし、作るとなると最初の4人の分も変更してあげなきゃいけない。流石に無理だ。

 そして長考の末、結局今傍にいるうちの彼女達同様、指輪の内側にそれぞれの名前を刻むことで落ち着いたのだった。

 カスミ達の反応を直接見る事は叶わなかったが、ミスティが存外喜んでくれたのは嬉しい誤算だった。


 俺は座席の一つに腰掛け、窓から見える景色を眺める。

 膝の上に乗ったエンキ、エンリル、セレン、イリスが同じように窓に張り付いて外の光景を眺めていた。


「あのアイテムで、カスミ達の冒険がより一層やりやすいものになればいいけど」

『ゴゴ~』


 このジェット機が向こうに到着する頃には、あの子達の手元に届くだろうか。俺たちの冒険が海外に進出するというのは感慨深いが、帰ってきたらカスミ達の冒険譚を聞くのも良いだろうな。

 俺の呟きはうちの彼女達の耳には届かなかったようで、誰もが搭乗前に起きたイベントごとについて語り合っていた。


「それにしても、すごい人の数だったわねー。急な発表だったのに、あんなに人が押しかけて来るなんて」

「大々的な海外支援の施策は初めてですからね。冒険者が海を渡ることは、基本的に移籍を意味していましたから」

「それだけ、ショウタさんは期待されているんでしょうね。惜しむ声も聞こえてきました」

「テレビではどこも前向きなコメントが多いですわね。それなりの数の反対意見を持つ人たちもいたそうですが、お母様が有無を言わさず黙らせた時の姿はカッコ良かったですわ!」

「僕もその当事者だから会議に呼ばれたけど、あの威厳と迫力は中々だったね。彼女が味方にいるだけで、安心感が桁違いだよ」

「ん。私も行くべきだった?」

「いや、来なくて正解だったよ。ミスティなら3分と経たずに銃を取り出していただろうから」


 あー、なんか裏方の話かな?

 やっぱミキ義母さんもそうだけど、特にサクヤお義母さんには色々と便宜を図ってもらってるし、何かの形でお返ししてあげないとなぁ。このジェット機だってそうだし、俺に何ができるだろうか?

 でも低レベルの時に会うのはちょっと怖いから、ボスクラスを倒した時にガチャを我慢して会いに行くしかないよな? 俺の都合で、『魅了』されるからという理由で避けるのは可哀想だしな。

 でも、そうなってくるとガチャを我慢できるかどうかが問題になってくるんだよな。


 ……やっぱ無理かも。

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