ガチャ470回目:区画全域計画

 その後、集まっていた皆は各々行動を開始した。

 エスは帰国のための準備と、俺を迎え入れるための関係各所への連絡。うちの彼女達は、向こうで何日ダンジョンに潜るかとかを想定しながら、食材や道具の調達。俺は新たな家族達の為にアクセサリー作りに励んだ。

 ちなみにミスティはというと、元いた古巣のメンバーに向けて「もうすぐ帰る」の一言だけチャットツールで連絡したのち、うちでゴロゴロし始めた。ミスティを泊めた一件以降、彼女はエスのいるホテルには帰ろうとはせず、ずっとうちに入り浸っていた。まるで気高い孤高の存在だった野良猫が、懐いてそのまま家猫になったかのような感じだ。

 エスのところに帰らないのかと聞いても、うちの居心地が良くて帰りたくないらしい。それに、エスは普段から忙しく走り回ってる関係か、ホテルにもなかなか帰らないらしい。それで寂しいこともあって、彼女は帰りたくないのだろう。

 まあ、ミスティを迎え入れ、彼女達もそれを認めた以上、今更住人が増えることを拒むつもりはない。外には他に6人も彼女がいるしな。

 ちなみにミスティ専用の部屋を用意する余裕はうちには無いが、リビングのソファーがお気に入りらしく、夜以外は常にそこに陣取っている。


「最初の頃はよかったが、少し手狭になってきたな」


 俺は作成していたアクセサリーから手を離し、現状について思いを馳せる。当初はアキとマキの2人と同居するという、俺の冗談みたいな話をマキが真に受け、アキが悪ノリした結果一緒に住むという流れになり、そしてなんだかんだでアヤネとアイラが参戦して、今の家に落ち着いた。

 その後、リヴァちゃん達ゴーレム4体に加え、エンキ、エンリル、セレンの3人と、イリスという仲間も増えたが……。彼らは小型だ。人間のように場所を取ったりはしない為、増えたところで些細な差でしかなかった。

 だが、ミスティ1人増えただけでこれだ。彼女が邪魔とかそんなことは断じてないが、狭さを感じてしまうようになったのは俺の心の問題だろうか?


「といっても、ここでも結構な一等地だったはずだろ? それ以上を求めるとなると……」

「ご安心ください。準備はできております」

「マジでー? さすが……」


 ついノリで返事をしたが、今日は家から出かけていなかったはずの存在が、そこにいた。相変わらず気配を断つのが巧すぎる。俺はアクセサリーを作りつつも、念の為ゴロゴロしているミスティの気配は常に感じれるように気を配っていたんだぞ。

 そのミスティに細かな変化すら与えずに、俺のそばにやって来るとか、そんなのどう対処しろと言うのだ。俺の微妙そうな顔を察してアイラが微笑んだ。


「ふむ……。さては、ミスティ様を防犯ブザー代わりに視られておいででしたか? 着眼点はお見事ですが、彼女も生き物であり人間です。彼女が反応できない状態を想定しておくべきでしたね」

「む? ……あっ、さっきから気配が動かないと思ってたが、寝てるのかコレ!?」

「はい。日がな一日漫画を見て、ゲームをして、ゴロゴロと怠惰に過ごされている彼女は、まるで穀潰しのよう。あの状態の彼女をSランクであると、初見では誰も見抜けないでしょうね」


 酷いたとえだが、なんだかんだでアイラはミスティの事を気に入ってはいるんだよな。


「幸せそうに寝てた?」

「はい、いつものようにに籠っておいででしたが、気持ちよさそうな寝息が聞こえてきました」

「ならいいや。……それで、準備って?」

「こちらです」


 アイラが目の前に地図を広げてくれた。その中には俺が『楔システム』によって展開した、モンスターを弾き返すバリアエリアもしっかりと映り込んでいた。


「やはり拠点とするのであれば、今私達が住んでいるこの辺りが一番都合がいいです。それはご主人様が各ダンジョンに通う為の冒険拠点としても、バリア範囲内である事。そして何かあった時の為、早乙女家・宝条院家の両家が近いことも高得点です」

「ふむふむ?」

「そしてカスミ様達を迎え入れる判断をした際、私達4人は急ぎ各家と協会長にこの話を持って行きました。その結果、とある区画を協会がまるごと接収し、それを私達が格安で買い取る形となりました。ある意味これは、日本ダンジョン協会からのお礼のようなものですね。なにせ、その時点でダンジョンを3つも無力化していたのですから、その影響は計り知れないものでした」

「なるほどね。それで、こんなクソデカイ区画が、丸々俺達の新拠点になると」

「はい、現在鋭意建築中です。今の技術なら、小型の家程度数日で組み立てられるのですが、なにせ規模が規模ですからね。数十人余裕で暮らせる大豪邸となると、日数も嵩むというものです。ちなみに、現在の完成度は4割ほどだそうです」

「いや、はやいな?」


 まだ建築開始して1ヵ月くらいだろ? 何十人暮らすことを想定してる豪邸なのかは知らないが、その規模のサイズをこの工程で進められてること自体凄い事だと思うんだが。ダンジョン技術による進歩、半端ないなぁ。


「ちなみに、今はどのくらいの人数が住めそうな規模になってるんだ?」

「少なくとも、50はくだらないかと」

「……え?」


 なんだその数は。


「もしかして、皆して5人は産む計算をしてる?」

「これ以上増えなければ、そうなりますね?」

「それ、俺が気を付けてどうにかなるものなの?」

「分かりかねますね」

「ですよね」


 どうしようもないんじゃ、後は流れに身を任せるしかないよな。


「あ。それで思ったんだが、アイラ」

「はい」

「お前に対して、俺はすっごく申し訳ない事をしていた事実に気付いてしまったんだが」

「はて?」

「俺、お前の親にだけ挨拶してない」


 なんだかんだで先送りにしていたら、完全に忘れてた。

 こんなザマでよく愛想尽かされないなと思ってしまう。


「ああ、そのことですか。ご安心ください、愛想は尽きませんし、離れるつもりは毛頭ありません」

「ああ、ありがとう」

「私の一家は宝条院家にお仕えしていたのですが、両親ともにダンジョン騒動以前で亡くなっておりまして、奥様に拾っていただいたのです。そこでメイドの仕事に就き、ダンジョン出現初期から奥様の部隊に混ざって戦いに身を置いてきました。ですから、私にとって親は奥様ということになります」

「つまり……」

「もう挨拶は済んでるかと」

「……そうなの?」

「そうなのです。ご理解いただけましたか?」

「……ああ」


 そうか、アイラには親と呼べる存在はあの人だけだったのか。

 んで、あのサクヤお義母さんから英才教育を受け、10年前のダンジョン出現当初から潜っていたと……。それなら、出会った時のあの強さも納得だな。

 そう考えていると、アイラが甘えるようにしな垂れかかってくる。アクセサリー作成も行き詰ってたし、このまま休憩するか。

 

「それじゃ新居の話に戻るけど、俺が『楔システム』を起動したあと、この辺りにもなんか影響あったの?」

「そうですね。まずはご主人様もご存じの通り、ここら一帯の地価が上昇しました。ですが爆発的に上がったのは最初だけで、今はある程度まで下がって落ち着いています。今回、ご主人様が短期間で結界を広げた影響ですね。慌てて巨額を動かす必要はないと皆察したのでしょう。更に、地価の上昇は結界の範囲内だけにとどまらず、今後結界の内側になりそうな全ての土地で変動が見られています。ただ、今はまだ交通の通りが良い都市部に限られますが」

「まあ世界中は無理でも、この国の全域くらいは結界で埋めてやりたいよな」

「そしてご主人様は興味ないでしょうが、日本の株価は全体的に好調ですし、円高になっていますね」

「うん、よくわからんからパス」

「ふふ、さようでございますか。あとは、第二から第四までの冒険者が、『初心者ダンジョン』でのスキル獲得を求めて、遠路はるばるやって来ているようですね」

「おー。それはいいこと、なのかな?」

「強くなってくれるのであればいい事でしょう。ですが、今後自分達のエリアに戻らなければ、彼らが元々いたダンジョンにて、スタンピードの発生率が高まってしまいますね」

「なるほど」


 俺がいつかその内攻略する事はおいといて、それまでキープはしてもらわないとだもんな。

 そうして俺はアイラとくっつき合いながら、色々な情報を教えてもらうのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る