ガチャ469回目:『風』

 俺はこの場にいる全員に、この2カ所……。義母さん達に対処をお願いした海底ダンジョンと、モンスターアイランドと化した無人島にあるダンジョンに、未取得の『幻想ファンタズマ』スキルが残っている可能性を告げた。


「え、そうなの!?」

「ショウタさんに2つ目の『幻想ファンタズマ』スキルが……!」

「では、階層スタンピードを止める為という名目の下、ご主人様が乗り込めば手に入ったも同然では……?」

「夢が広がりますわね!」


 彼女達は目を輝かせて喜んでくれている。てか、もう手に入れる事前提かよ。

 まあそれだけ、俺なら取れるって信頼してくれてるんだろうけど。


「ん。じゃあショウタは、他の人に取られる前に魔女を動かしたの?」

「そんなあくどい事は考えてないよ。実際これは、2人に聞くまでは確証が持てなかったことでもあるし、奥まで進行してしまったら、管理しなきゃいけない階層が増えるトラップがあるのは事実だからね。世界には既に1100個ものダンジョンが存在してるんだ。適度に間引いてさえいれば問題ない他のダンジョンとは違って、常に殲滅を繰り返しながら発見済みの各階層で目を光らせるなんて、とてもじゃないけど負担が大きすぎる。なにより、海底ダンジョンなんて僻地、人員を送るだけでも一苦労だから、負担は少ない方が良いに決まってる」

「確かに僕達が対処に苦労しているあのダンジョンは、街中だからこそ、まだ人が集まれている側面はあるね」

「だろ?」


 だからこそ、その海底ダンジョンは俺が行くまでは、楽にキープできる状態で維持してくれている方が良い。


「しかし、エスが第五層を見つけた事で負担が増したと思ってたんだが、まさか本当にスキルの獲得も負担の原因だったとはな」

「ああ。僕がスキルを獲得したことが原因で、スタンピードが激化したと考えていたが、まさか第五層まで見つけてしまった事も含まれていたとはね。僕はまんまと、二重トラップに引っかかってしまったわけだ」

「……ふむ」

「兄さん、気になるかい?」

「ああ。めっちゃ気になる」

「ははっ、正直だね。でも、今の兄さんになら教えても良いかな」

「いいのか? これは一応、クリアの報酬だろう?」

「構わないさ。兄さんはそんなのなくても、あそこを攻略する気満々なんだろうし」

「おう、当たり前だ」


 あの誓約書は結局、俺達が関係を結ぶためのただのきっかけでしかなかった訳だ。

 正直今からでも、あの誓約書は破棄してしまっても良い気はしてるんだが……。だが、力を持ちすぎてしまった俺達が対等に、かつ安心して約束を交わすには、ああするしかなかったんだよな。


「兄さんは僕が第五層を発見したと思っているようだけど、実は違うんだ。僕は第三層から第五層までを見つけたんだ」

「ん。ちなみに第二層は私」


 ミスティはVサインをした。


「じゃあ、2人の入手方法ってもしかして……」

「ん。ダンジョンが開放されて大体1年くらいたったある日、私が不意に第二層への入り口を見つけて、侵入した瞬間宝箱が目の前にあった。そこでケルベロスを手に入れて、提示される無理難題をクリアしていったら、EXのスキルを貰えた」

「僕はミスティとは周回遅れでね。ミスティの件から1年くらい経ったある日、とある理由でダンジョン内を走り回ることになったんだ。そして気付いたら第三層、第四層と発見して、第五層に辿り着いた。その瞬間、スキルが目の前に現れたんだ」

「お前のが1番謎なんだが」


 なんだよ、その説明は。

 それじゃまるで、無我夢中で走ってたらいつの間にかスキルをゲットしてましたと言ってるのと変わらんぞ。


「すまない兄さん、これが事実であって、嘘ではないことは誓約書の存在で明らかだろう? これ以上説明のしようもないんだ」

「……みたいだな。ちなみに、走っていた理由は?」

「それは恥ずかしいから伏せさせてくれ。誰にだって黒歴史の1つや2つあるだろう」

「それもそうだな」


 流石にその理由が獲得した理由ではないだろうし、ここは聞かないでおいてやろう。

 俺にだって、言いたくないことの1つや2つはあるしな。察しのいいうちの彼女達には、隠し通している秘密すらも読まれている可能性を否めないが、互いに口にしなければバレていないのと同義だ。だから確認はしないし、向こうも突いてこない。

 だが、俺が急に身を引いたことが納得できないのか、ミスティが口を尖らせた。


「ん。エス、この件についてだんまり。私にも教えてくれない。ショウタなら聞き出してくれると思ったのに」

「ミスティ、誰にだって言いたくないことはあるんだぞ。それも、他人ならまだしも妹になら特にだ。お兄ちゃんにだってプライドはあるんだからな」

「また、プライド?」

「そう、プライドだ。でもこっちのプライドは誰も傷つけてないし、迷惑もかけてない。だからそう邪険にせず許してやれ」

「……ん。わかった」


 ミスティの頭をポンポンすると、彼女は頭を押し付けるように撫でられに来る。

 ほんと、猫みたいなやつだな、ミスティは。


「まあ要約すると、エスの場合未発見の第三から第五層までを、最短で駆け抜けた訳だ。それで『スピードスター』とは皮肉が利いてるな?」

「はは、そうだね。といっても、そっちは称号というか呼び名であって、実際のスキル名ではないんだけど」

「ここまで来たんだから教えてくれないか。そのスキル名」

「いいとも。僕のスキル名は……『風』さ」

「『風』?」

「そう。とてもシンプルだろう?」


 たったの1文字のスキル? いや、英語ならWindか。

 今までは強いスキルなら、それだけ強そうなスキル名が付いて回っていたものだが……。随分と、まぁ……。


「……悪いが、とても強そうには思えないな」 

「確かにね。けれど、煩わしい装飾のない、純粋無垢な『風』の力そのものでもあるのさ。だから……」

「だから、風の力であれば、制限も限界もなく、何でも扱える……のか?」

「正解だ。僕の想像力次第で、『風』の力は何でもできるし、何でも斬れる。といっても、威力の上限値はあるみたいで、僕のステータスもだいぶ影響されるみたいだけどね」


 他の魔法スキルと違って、技名とか決まった魔法などではなく、『風』の力が自由自在に操れるのなら……。確かに空だって飛べるし、水中のモンスターを滅多切りにしたり、天使の翼だって両断できるだろう。

 ……なるほど。それは確かに、『幻想ファンタズマ』級のスキルと呼べるほどのチート性能だ。

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