ガチャ468回目:トリガー

 俺はホワイトボードに張られたダンジョン情報付き世界地図に、次々と赤いピンを刺していく。


「僕達が苦労しているのと同じダンジョンが、こんなに……!」

「ここは確か、第一次スタンピード事件の際、モンスターに呑まれてそのままモンスターランドになってしまった島ね。確かにここは、スタンピードが発生するタイミングが他より早かったわね」

「ここの海域は、前回発見した海底ダンジョンの1つですね。そうですか、ここも階層スタンピード型……。となると、担当区域の国々には注意を促す必要がありますね」


 さすが義母さん達だ。指し示したダンジョンを一目見るだけで、そこがどういうダンジョンなのか瞬時に把握している。


「……そう。この国のダンジョンも階層スタンピード持ちだったのね。どおりで秘密にしたがるはずだわ」

「あの国は他国のダンジョンは饒舌になるくせに、自国のダンジョンの事となると急に口が重くなるものね。その上冒険者を外には出させないよう封鎖もしてるし。その理由がコレか。サクヤ、どう料理するの?」

「ふふ、いけませんわミキ姉さん。私、アマチさんに嫌われたくありませんもの」

「あら、残念ね」

「えーっと、続き話して良いですかね?」


 相変わらず物騒な感じの話をしてるけど、別にこの情報くらいなら利用してもらっても構わないと思ってるんだよね。サクヤお義母さんは他からは恐れられていても、俺の事は大事に扱ってくれてるし、その行動によって俺らが危険に晒されるとは思えない。むしろ守るために色々と行動してくれているように思える。

 まあアヤネに対する愛情が少なすぎるのはちょっと考えものだけど。


「あら。ふふ、ごめんなさいね」

「続けて、アマチ君」

「はい。んで、今から伝える事はエスにとってはちと辛い話になるんだけど……」

「どういうことだい? 攻略は、してくれるんだろう?」

「ああ、そこは大丈夫だ。それとはまた別に、ちょっとな……」

「なら、必要なことなんだろう。臆さず話してくれ」


 言うとは決めたが、これはあんまりな話だよなぁ。まあでも、エスなら乗り越えられるだろう。


「今回、階層スタンピード型ダンジョンについて『ホルダー』の権限で知り得た秘密がもう1つあるんです。それが、一度も侵入していない階層は、階層スタンピード機能が有効にならない、というものです」

『!?』


 これには流石に全員驚いたよな。

 そりゃ、こんな設定のダンジョンが目の前にあったら、強者でないと踏み込むことが難しいような階層のモンスターを抑えるために、できるだけ奥へと潜入して、平和な時間を稼ごうとするはずなんだ。

 だから、この設定は逆にトラップとも言える。


「では、僕が力を手にした事で、今の苦しい状況を生んでしまったと……?」

「エス、それは違う。遅かれ早かれ、あのダンジョンは誰かが先を見つけ出していた。そうなってしまったら、今のエスの力は誰も手に入れられなかったかもしれない。そうなったら、あのダンジョンはもっと手がつけられなくなっていた」

「ミスティ……。そうだね、確かにその通りだ」


 エスは落ち込んだと思ったらすぐに吹き返した。妹に鼓舞されるとお兄ちゃんは落ち込んでられないもんな。


「すまない兄さん、僕はもう大丈夫だ」

「……わかった」


 にしても、力を手にした事で、か。あの言い方だと、第五層にたどり着いた事で今の力を手に入れたのか? だが、ミスティが言うように普通の手段じゃ手に入れられない可能性があるアプローチだったと。

 それが事実なら、入手チャンスは一度きり。その重い条件を対価に、得られる報酬が破格のスキルや武器となる『幻想ファンタズマ』なわけか。契約上、クリアしたら教えてくれるんだろうけど、気になるな。


「義母さん達、そういうことなんで、大変かもだけどよろしくおねがいします」

「わかったわ。現状モンスターランドと化した島は手出しができないけど、何とかしてみるわ、ちなみに確認だけど、階層スタンピードが起きてしまった状態でそのまま放置したら、本来のスタンピードも起きうるのかしら?」

「可能性はあると思います。そのモンスターアイランドになってしまっている島のモンスター分布図を知らないので、ハッキリとは言えないですけど」


 そして入らなかったら入らなかったで、今回のように普通のスタンピードは起きてしまう訳だ。階層スタンピードによる被害が最低限になるようにするには、第一層に入るだけにとどめておく必要がある。


「そうよね。あの島は現状、飛行型も水生型も出現していないのが救いだわ。サクヤ、彼が教えてくれた海底ダンジョンの管理国への通達、任せたわよ」

「ええ、勿論です。恐らく掃除の為に進行をかけてる最中かもしれませんが、すぐに留まるよう伝えなくては。アマチさん、もっとお話がしたかったところだけど、今日はお暇するわね。また今度、ゆっくりお話ししましょう」

「はい、是非。あ、でも、2人っきりは勘弁してもらえると……」

「ふふ、わかりました。では」

「あっちでも頑張ってねアマチ君。それじゃ」


 そう言って2人の義母は帰って行った。

 これで問題の海底ダンジョンは、爆弾の導火線に火が付きはしたものの、火薬の削減はできただろうか。さて、ここから本題に入るか。


「エス、ミスティ。2人には黙っていたんだが、もう1つ確認したいことがあるんだ」

「ん。何?」

「ああ、何でも言ってくれ」

「まずミスティ。あのダンジョン、階層スタンピードの発生頻度は緩やかだったんだな?」

「ん。そう。最初は都市の近郊に出現した事もあって、人も大勢集まってた。低レベルとはいえ数の暴力もあって、当時はモンスターが全体的に枯れ気味だった」

「当時、僕はあの街にはいなかったけど、噂には聞いてたよ。大人気だったんだってね」


 ということは、その時2人は別々に暮らしていたのか。


「ん。けど、あの時の殲滅力程度では、今の出現速度なら枯れる事はまずない。そしてあの時は2層が発見されていなかったから、人でごった返していたのを覚えてる」

「なるほど。ここからは俺の仮説で、『ホルダー』の権限で聞き出せなかった事だが……。出現速度が激化したのは、お前たちが『幻想ファンタズマ』スキルを取ってからか?」


 2人がビクリと身体を強張らせた。

 なるほど、やっぱりそうか。

 実は『ダンジョンコア』で階層型スタンピードの対象ダンジョンを聞いた時、微妙に世界地図に反映された赤いマークには、色の違いがあったんだよな。エスとミスティが攻略を願う『ダンジョンNo.696』はドギツイ赤色で、最近出現したばかりの海底ダンジョンや、義母さん達が言っていたモンスターアイランドの孤島は薄ピンクだったのだ。ちなみに某国のダンジョンは、赤が少し強かったのを覚えている。

 この赤い輝きの違いについて、『ダンジョンコア』は権限不足で教えてくれなかった。

 けど、恐らくこの出現速度には、段階がある。そしてそのトリガーとなるのが、『幻想ファンタズマ』スキルを獲得したか否かだ。つまり、少なくともその2つのダンジョンには、未取得の『幻想ファンタズマ』スキルが眠っている事を意味していた。


 流石にこの情報は秘匿すべき情報だったので、写真には収めずに赤いピンを刺す事で説明を済ませたんだが……ボロは出してないよな?

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