ガチャ460回目:賛成派と反対派

本日は書籍第二巻発売日!

それを記念して、いつものように2話投稿します。これは2話目です。

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 ミスティから『幻想ファンタズマダンジョン』の切羽詰まっている現状を聞いた俺は、攻略の優先度を引き上げた。


「おっと」


 そうこうしているうちにダンジョンの入口まで戻って来ていた。『ダンジョンコア』に用があるし、ここに腰を下ろすか。

 俺は腰巾着から椅子を取り出し、ミスティを抱えたまま椅子に座った。


「……ん? じゃあ、エスもそろそろ戻らないと大変だったり?」

「ん。エスの留守中は別の冒険者チームが対応中のはずだけど、殲滅力が足りない可能性がある。だから近々エスだけ一時帰国する予定」

「そうか。……ミスティ、そのダンジョンの位置だけど、詳しく教えてくれるか?」


 俺は『ダンジョンコア』で撮影した現在のダンジョン情報の地図を見せる。


「ん。ここ」


 ミスティが示した場所は北アメリカ大陸の中部。シカゴよりも少し西の辺りを示していた。

 その場所に仮に『楔システム』を繋げようとした際を想定して、ペンタブで線を引いてみようとしてみたが、どうあがいても結界内部に2箇所のダンジョンが含まれてしまった。まあ、西部の沿岸ならまだしも、内陸部だしな。

 だが、工夫を凝らして変な形で線を結ぶなら、最低1箇所の攻略で繋ぐ事ができるかもしれないな。何も今ある楔システムから、直接『幻想ファンタズマダンジョン』に繋げる必要はないんだから。


「スタンピードを止めるだけなら『幻想ファンタズマダンジョン』の攻略だけで済むけど、『楔システム』を使用する場合、海底ダンジョン1つこなすだけでなんとかなるかもしれないな」

「おおー」


 まあ、だいぶ歪な形の結界になりそうだが、安全のためだ。誰も文句は言うまい。


「ちなみにこの海底ダンジョンもスタンピードを起こした内の1つなんだろ? ここの平定は、2人も参加したのか?」

「ん。海から顔を出した奴らは私が全部蜂の巣にした。エスは水中の奴らを微塵切りにした。大活躍」

「おおー」


 今度はこっちが拍手を送る。ミスティも嬉しそうに鼻高々だ。

 やっぱ、殲滅力で考えればこの2人はとんでもないよな。俺の都合で戦闘に参加させていないのが勿体ない話だけど。


「殲滅後はどうしたんだ?」

「片付けたあとは、ダンジョンの特定や内部の調査は他に丸投げした。ショウタに会いに行きたかったから」

「あ~」

「こんな調子で次から次へと国のあちこちでスタンピードが起きたら、首が回らなくなる。ただでさえうちは、爆弾を抱えてるから」


 いくら『幻想ファンタズマ』級のスキルや武器を出した特別なダンジョンとはいえ、仕様が厄介すぎて協会も国も邪魔に感じてるんだな。

 ……あれ?


「……なあミスティ」

「ん」

「今更だけど、ミスティやエスの要請とはいえ『幻想ファンタズマダンジョン』を俺が攻略しちゃって良いのか? 一応ここアメリカの領土だし、そこに俺が『楔システム』の線を勝手に結んだりしたら、国際問題になるような気がするんだが」

「ん。今更だね」


 珍しくミスティがくすりと笑う。


「正直、アメリカ側の協会は貴重な戦力を常に割り振らされているこのダンジョンの存在を疎ましく思ってる。ドロップもあまり美味しくない分、実入りも少ないから、協会が報酬を負担している現状なのも理由の1つ」

「『幻想ファンタズマ』を2つも排出したのに、他はそんなにしょぼいのか」


 いや、だからこそか?


「というより、全体的に渋い。『運』の高い冒険者がトドメを刺すにも、火力不足で倒せない事が多い。呑気に時間をかけていたら飽和するし、結局高火力アタッカーでトドメを刺す事が多くて、トドメをさせたらラッキーって感じ。それでも何も出ない事もあるから、大変」

「当たればでかいがそもそも当てにできないレベルで落ちないと」

「ん。そゆこと」


 まあ、そんなダンジョンでも俺の『運』があれば問題ない気がするけど。


「でも、一部の日和見主義者は他国の協力を仰ぐのは許さないとか言ってる。あんなの馬鹿。プライドで命は守れない」

「まあ、そんなにプライドが大切なら自分でやれよって話だな」

「ん。そういう奴ほど口だけだから、相手にする価値はない。けど、数が多いとその分存在も大きくなって厄介。だから、海底スタンピードの存在は割とありがたい話だった」

「というと?」

「海底スタンピードが起きてしまった事で、本当に私達は戦力的問題で首が回らなくていて、滅亡のカウントダウンが迫ってきている事を、感じ取れた人が増えて来たみたい。だから、ショウタを誘う事に対して賛成してくれる人が増えた。今では反対派は少数。この調子なら、ほとんどの人がショウタの来訪を歓迎してくれるはず」


 結局、痛みをもって分からせないと、自分の幻想に閉じこもって現実を見ない奴ってのは一定数いるよな。


「まあ、でも他国の人間を拒絶というか、警戒する気持ちはわからないでもないよ。仮に俺が、いろんな国に『楔システム』を起動して回って、影からダンジョンを操って無理難題を吹っ掛けるような人間だとしたら、侵略者を国に入れるようなもんだしな」

「ん。でも、モンスターに支配されるよりはマシ」

「そりゃそうだけどさ」

「ん。それに、ショウタは圧政を敷いたりする人種じゃない。彼女達も同様。エスが調べてみたところ、この国にも利益のためにショウタを動かそうと思ってる連中は一定数いるみたい。だけど、ショウタの彼女達の実家や、協会が壁になってくれてるみたい。だから安心」

「そうなのか」


 日本の第一エリア協会長である早乙女家、国内外の裏社会から恐れられてそうな宝条院家。更にはそこに、アメリカのSランク冒険者2名が傘下に加わり、『魔闘流』の流派の1つである白峰家も加わった訳だ。そんな人たちが間にいたら、国でもおいそれと手出しできないよなぁ。

 そういう暗躍関係の話は俺の領分じゃ無いし、処理してくれるというのならこれからも丸投げしていこう。

 

「ショウタがいくらダンジョンで強くても、冒険者は国という機関や政治が絡んでくると、思うように動けなくなることは往々にしてある。だけどそんな事で『幻想ファンタズマダンジョン』が攻略されず、故郷がモンスターの大群に呑まれるなんて、私は嫌だったの」

「ミスティ……」

「だから、会って話をするまで、本当は不安だった。私達の身を捧げても、ダンジョンを攻略してもらえるのかって。けど、ショウタは想像以上に強くて、それに力に溺れず女の子にもちゃんと優しくて、家族を大事にしてる。あと、彼女達からの評価も高くて、周りからもダンジョンに専念できるようしっかりサポートもされてる。そんなショウタになら、任せられる。『幻想ファンタズマダンジョン』のことも、私の事も」

「……」

「誓約書には無かったけど、この身だけじゃなく、ショウタに捧げたい。私の心」

「……ああ。もらうよ、ミスティの全部」

「ん」


 ミスティと唇を重ねた。


「それに、俺もミスティやエスが酷い目に遭うのは看過できないしな。ミスティも大事だし、エスだって、今じゃもう大事な弟だ」

「ん。ありがと。けど、反対派は減ったけど、ショウタが来ることを相変わらず良しとはしてない。先日ショウタの記者会見で、エスが宣言したことで賛成派は大喜びしてたけど、反対派はすごく怒ってるみたい。あの連中、普段は口だけだけど強硬策に出てくる可能性がある。もしかしたら、攻略中に邪魔してくるかもしれない。でも、私たちがショウタを守るから、心配しないで」

「おう」


 もう1度ミスティと唇を重ねる。


 しっかし、邪魔、ねえ?

 そんな口だけのやつに何ができるんだ? 最悪目の前に来たら、『恐慌の魔眼』をぶっ放して追い払っちゃっても良い気がするんだが……。

 あとでエスとも話してみるか。

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