ガチャ458回目:虹の器

【休暇十八日目】


 第一エリアに戻って来た俺たちは、1日ゆっくり休んだ。そしてその翌日、最後のデート相手であるミスティの呼び出しに応え、とある場所へとやって来ていた。

 ミスティが希望したデート先を最初に聞いた時、確かに服装なんて何でもいいって返事しちゃうよなぁと思ってしまった。彼女の指定先は、このデートウィークで体験してきた酒蔵巡り・花畑・遊園地・温泉旅行・散策・プール・食べ歩き・修行・映画。という真っ当なデートとはまるで毛色が異なる物だった。

 ……果たしてこれは、本当にデートなのか?

 いや、俺が言えた義理じゃないけども。


「ショウタ、どう?」


 俺が思い悩んでいると、ミスティが服を見せびらかすようにくるりと回る。


「ああ、可愛いぞ」

「そか。良かった」

「ミスティ1人か? どうやって来たんだ?」

「ん。エスにおぶさって来た。帰りはショウタについてく」

「そうなのか」


 あいつ空飛べるけど、人を抱えたままでも飛べるんだなぁ。


「で、なんでココ?」

「私、ショウタのこと何も知らないでしょ」

「そだな」

「ショウタも私のこと、深くは知らないでしょ」

「そだな」

「でも、ショウタはいつかその内、エスと私の原点である『幻想ファンタズマダンジョン』の攻略に来てくれるでしょ?」

「その予定だな」

「だから、私もショウタの原点が見たいと思って」

「……それで『アンラッキーホール』に来たのか」

「うん」


 まあ、ミスティが言いたいことはわかる。

 俺たちはお互いによく知らないし、繋がりがあるとすれば『幻想ファンタズマ』級のスキルや武器を持っている事と、『Sランク冒険者』である事くらいだ。だから、普通に外でデートとかするよりも、こっちで対話した方が良いと踏んだんだろう。

 他の皆が俺とミスティの考えが近いと言ってたけど、的を射てるなぁ。相手のことを知るのならこれが一番手堅いよな。


「ショウタ、今日は1人じゃないんだね」


 ミスティが俺の左肩に目線を送った。


「悪いな。多少狩りをしても良いって話だったから、やりやすい子を連れて来たんだ」

『ポ!』

「ううん、平気。撫でてもいい?」

『ポポ』

「いいって」


 エンリルが俺の肩からミスティの手元に飛び移り、ワシャワシャと撫でられる。


「てか、ダンジョンを見るだけならエスと2人で入っても良かったのに」

「ん。でもここは、権利上ショウタの物。だから勝手に入るわけにはいかない。例えショウタから許可をもらったとしても、何がきっかけで違反扱いになるか分からない。だからデートで一緒に入ることにしたの」

「なるほど」


 そういや忘れてたけど、このダンジョン、名実ともに俺の専用化をしてるんだった。誓約書もあるから変なことはできないのか。エスもミスティもそれを当然のように受け入れてるけど、俺としては行動の自由が奪われてるみたいで、あまり気分は良くないな。

 やっぱり、この制約を満了させるためにちゃちゃっと『幻想ファンタズマダンジョン』を攻略してやんないとな。


「んでミスティ。2人で来れなかった理由はわかったが、今日はここで何したいんだ? 知ってるとは思うが、普通に挑めば最弱のスライムしか出現しない見応えのない場所だぞ」

「ん。できればどんな経緯でショウタのアレを入手したのか知りたい。教えてくれるなら、向こうで私が『ケルベロス』を入手した経緯を教える」

「良いぞ。でもそうだな、『ケルベロス』の件は向こうに入ってからで良いか? 現地でないと想像がつかないこともあるだろうし」

「分かった」


 そうしてミスティに、スライム七変化の過程を説明した。


「……ウパルパの時、ショウタが次の色を予測していた理由がわかった」

「向こうじゃ黒が最後だったけどな」

「それにしても、ショウタはHENTAIなの? 3年間も同じことを続けるなんて」

「それしか、俺にはできることはなかったからな。……あ、スキルの詳細はまた今度な」

「ん。わかってる」

「あと、他所で変態呼ばわりはやめてくれな」

「気を付ける」


 そうして3人で新設されたダンジョンゲートをくぐり、『アンラッキーホール』へと侵入する。前回の潜入からもう60日も経過したのか。

 マップを開いてみれば、幾百も蠢くスライムの群れが映った。これを呼び寄せたら、一体何匹のデカスライムに変化するやら。


「あ、いた」


 ミスティが地面に転がっている1匹スライムに向かって、なんてことのないような足取りで近づき、しゃがみ込む。一応スライムも、無害ではなくしっかりとアクティブなモンスターなのだが、あまりにもステータスが貧弱なので、モンスター相手でもこんな行為を咎める人間はいない。

 それは日本だけでなく、外国でも共通の認識みたいだな。スライムというのはそれほどまでに、世界から最弱と認定されているようだ。


「あっ」


 ミスティがつついた瞬間、スライムが弾け飛び煙となる。いくらミスティのステータスが高いとはいえ、あれで撃破扱いになるほど貧弱ではないはずだが。

 ……ああ。


「ミスティ、雷バリア張ってるだろ。スライム相手にそれはやりすぎだぞ」

「ん。本当に安全なダンジョンなんだね。うちの『幻想ファンタズマダンジョン』とは大違い。……ね、その『虹色スライム』、出現させることはできる? 生で見てみたい」

「あー……」


 どうだろうか? うちにはイリスがいるからな……。けど、あれはもう別個体と言っても良い存在だ。重複出現とはならないかもしれない。ヒュージーシリーズは過去最大6体とか平気で湧いてたし、アリかもなぁ。

 逆に『ダンジョンボス』は試せていないけど、多分あっちは仕様上不可能だろう。なら、『レベルガチャ』の最初の器である『虹色スライム』は……。多分、行ける気がする。

 けど、ここのカラースライムは基本的に無害な存在であることを俺は知ってしまっている。もし今まで通り出現させられたとして、出てきた『虹色スライム』を俺は倒せるだろうか?


「……できないな」


 そしてそうなったら、連れて帰らざるを得なくなる。

 戦力としては増えるかもしれないが、役割が被る以上格段に戦力が増すわけじゃないし、更にはイリスはイリスだ。イリスの代わりを増やしたりしたくない。


「悪い、ミスティ。実はイリスがその器なんだ。だから沸かせたら始末するなり連れ帰るなりしなきゃいけないんだが、俺はどちらもやりたくない」

「ん。わかった。私もイリスとそっくりなスライムは撃ちたくない。わがまま言ってごめんね」

「いいよ、気にすんな」


 ミスティの頭をポンポンする。やっぱ良い子だなミスティは。

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