ガチャ452回目:デートウィーク④

 父さんがフリーズし続ける中、俺は彼らに最初の婚約者達を紹介したりして、交流を深めていった。そうしてしばらく経過したところで、ようやく父さんが我に返った。


「ええと、つまり……。カスミはショウタと結婚するんだね?」

「そうだよ」

「もう、何度も言ってるじゃない」

「そうか……。そういうのがあるって話は聞いていたけど、まさか自分のところでそれが起きるなんて思いもしなかったから、驚いたよ。これも時代か。なら、ちゃんと祝福しなきゃだね。おめでとう、カスミ。ショウタも、カスミを頼んだよ」

「うん!」

「ああ。ちゃんと守るよ父さん」


 父さんと抱擁し合った。

 理解が早くて助かる。


「うん。となると、お母さんにも報告しなきゃいけないね。2人は家に帰ってくるのかい?」

「とりあえず今日俺はホテルに泊まるとして、そこからは6人と個別デートをするからどこかのタイミングで……。いや、そうだな。明日帰るよ。それに、うちの彼女達も連れて行きたいから何度か帰ると思う」

「わかった。なら父さんも、ショウタがこっちにいる間は早めに仕事を切り上げる様にするし、日程を教えてくれれば休暇も取るよ」

「ああ、ありがとう父さん」


 母さんのことはほとんど覚えてないけど、ちゃんと手を合わせなきゃな。そうして、気に入られたのかなぜかハヅキのお父さんに積極的に絡まれながらも、俺たちは交流を深め、その日は解散。俺達はホテルに泊まり、カスミ達はそれぞれの家へと戻るのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



【休暇十一日目】


「カスミ、こっちこっち」

「お兄ちゃん、お待たせ!」


 今日はカスミとのデートの日だ。

 カスミ達とのデート時間は、アキやマキ達とは違って1泊2日制ではなく、朝から翌日の朝までとなった。基本的に彼女達にデートコースは任せて、最後はその子の家かホテルなんかで1日を終え、翌日の朝ごはんを一緒に食べるまでがルーティンとなったらしい。


「この日割りはカスミとイズミで決めたんだよな? 俺としては、別に同じ1泊2日制でよかったのに」

「そんなの悪いよ。私達はお兄ちゃんとの関係性はまだまだ新参側だし、なによりまだ何も役に立ててないじゃない。それどころか、経験値をもらう為にスキルや武器やら色々融通してもらってる上に、戦闘でも手間を掛けさせてる。そんな状態で、義姉さん達と同じ様な待遇を求めるなんて、図々しくてヤダよ」

「そうか? ……まあそうか。でもこれからは、色々と頑張ってくれるんだろ?」

「うんっ、そのつもりだよ! その為に、これからまた少しの間離れ離れになっちゃう。だから、今日はいーっぱいお兄ちゃんに甘えるからね!」

「ああ。それで今日はどこに行くんだ?」

「えっとね、ここ数年でこの辺りも、魔石産業のおかげで良くも悪くも大きく変わったわ。だから、昔を思い出しながらゆっくり散歩しようと思うの。……どうかな?」

「良いと思うぞ。エスコートよろしくな」

「うん!」


 そうして子供の頃に遊んだ公園や、ゲームセンター。学校の帰り道に買い食いをした思い出の商店街を巡ったり、ハヅキの道場なんかに顔を出したりして、記憶と変わりのない景色や、変わってしまったものを見る事ができた。

 昼食は実家の近所にある昔馴染みの店で舌鼓を打ち、夜は実家に帰って仏壇の前で手を合わせる。そして数年ぶりに、家族3人で団欒した。その中で、やっぱりというか父さんとは、冒険やアイテム研究、ダンジョンの話で盛り上がった。これはやはり血だろうか? 俺も父さんも、アプローチの方法に違いはあれど、謎を追い求めるのが楽しくて仕方ないんだよな。

 そして風呂に入り、懐かしの自室に入ってみれば、そこは出て行ったあの時のままだった。掃除が行き届いているところを見るに、2人がこまめに掃除をしてくれていたんだろう。

 俺がふとした拍子に、戻ってきても良いように、と。


「はぁ……。ここを出てもう6年と少しか。色々あったな……」


 まあ、世界が動き出したのは、ここ3ヶ月くらいの間であって、他は準備期間のようなものだったけど。

 目を瞑り、これからの事に思いを馳せた俺は、携帯を取り出し電話を掛ける。


「部屋に来てくれ」


 相手が電話に出るや否や、それだけを伝える。すると隣の部屋からゆっくりと気配が近づいてくるのがわかった。

 扉がそっと開かれ、顔を赤らめたカスミが隙間から様子を窺っている。


「お、お兄ちゃん……? なに?」

「別に取って食いやしないから入ってきなよ」


 近くに父さんもいるしな。

 ……まあ、『封音の魔道具』は持ち歩いてるけど。


「そ、そうだよね……!」


 パジャマ姿のカスミが緊張しながら部屋に入り、落ち着かない様子で隣に座った。


「カスミ。だいぶ時間が経っちゃったけど……」

「う、うん」

「約束通り髪留めを直すよ」

「……え? あ、そっか。髪留めね」


 言われて思い出したのか、カスミは髪留めを外して俺に持たせてくれる。……これも懐かしいな。年季が入ってるし、今にも壊れてしまいそうだ。

 せっかく仲直りできたし、新しい関係性も築けたんだ。この髪留めも、新しくしてあげなきゃな。


「修理してくれるんだったよね。でもどうやるの?」

「ああ、修理というより補修って感じかな。やることは単純で、魔鉄でコーティングする感じになると思う。まあ見てて」


 材質はプラスチックか。

 魔鉄でコーティングするとは言っても、メッキみたいにしたらせっかくの輝きも思い出も薄れる。だから、内側の目に見えないところ……。痛みの影響か小さな亀裂があるみたいだから、そこから魔鉄を送り込んで、内側からしっかり補強するイメージで……。


「うん、できた」


 昔の輝きを取り戻した髪留めを、返すついでにカスミの頭につけてあげた。魔鉄もそうだが、スキルを使っての補修だったからか、見た目以上に頑丈になったはずだ。多分今なら、ゾウが踏んだところでびくともしないだろう。

 まあ、レベル100以上のモンスターからの攻撃は耐えられないかもだが。防具じゃなくてアクセサリーだから、そこは問題ないだろう。


「お兄ちゃん、ありがとう!」

「ああ」

「それにしても、こんな事ができるようになったんだね」

「……なあ、カスミ」

「うん?」

「今のお前になら、俺の成長の秘密を教えたいと思う。だから選んでくれないか。聞くか、聞かないかを」


 俺の告白に、カスミは嬉しそうな顔を見せるが、すぐに思案を始めた。


「どうする?」

「……ねえ、それってそれ以外の選択肢はダメ?」

「というと?」

「私は、お兄ちゃんの秘密を聞くなら、チームの皆で聞きたい。けど、メンバーの内誰か1人でも聞きたくないって選択をしたら、話は聞かない。……それでも良いかな?」


 そうか、カスミ達『疾風迅雷』は一蓮托生。

 うちの彼女達の代理メンバーでもあるんだ。そんなメンバーの中で、『レベルガチャ』の存在を知ってるメンバーと知らないメンバーが混在していたら、どうしても扱いに差が出てきてしまう。

 そうなるくらいなら、最初から全員の想いを統一しておくべき、ということか。カスミも成長してるんだなぁ。


「……ああ、いいぞ。カスミは立派にチームリーダーをやってるんだな」

「えへへ」


 さて、他の子達はどっちを選ぶんだろうか。

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