ガチャ449回目:デートウィーク③

【休暇七日目】


 夢の国前のホテルでアヤネと過ごし、昼食を2人で食べてからゆっくりと家に戻ると、アイラが玄関前で待っていた。


「おかえりなさいませ。ご主人様、お嬢様」

「ただいま。こんな所で待って、どうしたんだ? 明日のデートの事か?」

「はい、その件なのですが……。アキ様とマキ様の2人とも相談し、私は二泊三日の旅とさせていただきました」

「そうなの?」

「そうなんですの?」


 どうやらアヤネは知らなかったらしい。けど、なるべく平等にっていう条件で立てた計画なのに、あの2人が許可を出しているという事は、ただの二泊三日ではなさそうだな。


「流石ご主人様です」

「はいはい。それで?」

「今回の私とのデートは修行兼、湯治となります。場所は今まで同様の場所ですので、これで3回目になりますね。前回はちょっとした騒動に巻き込まれましたので、ある意味リベンジです」

「湯治かぁ……」


 あそこの温泉はいいよな。

 前回はまあ、嫌なイベントが尾を引いたが、そのおかげで彼女達とはより一層仲良くなれた。なので、完全に悪い思い出でもないんだが、もう1度行くのも悪くはない。


「それで、お二人を丸め込んだ理由はなんですの?」

「はい。今回は今まで同様、5人で行きましょう。ただし、私とご主人様の2人部屋と、他3人の部屋に分かれて貰います」

「むむ、なるほど。考えましたわね……!」


 アキとマキは、その条件で損はないと踏んだらしい。

 アヤネも唸ってはいるが、強く否定する要素が見当たらないといった様子だった。


「わかりましたわ。その条件、飲みますわ!」

「ありがとうございます、お嬢様。では早速今から向かいましょう。荷物は準備してありますし、お二人は先に車で待機しています」

「準備万端じゃん。エンキ達は?」

「もちろん一緒です。彼らも私達の家族ですから」

「そっか。ありがと」


 そうして俺達は三度目の湯治へと向かうのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 車を飛ばし、日が暮れる頃には前回利用した温泉宿に到着。今回は貸切にしたようだ。そのまま全員で混浴し、ゆっくり休まったところでアイラとの戦いを経て1日目終了。


【休暇八日目】

 デート2日目ではあったが、今回のデートは全員で来ていることもあり、アイラと2人っきりというわけではなく、基本的に俺のそばには誰かしらがいた。けれど、要所要所ではしっかりとアイラと2人っきりになる場面が多かった。恐らくアイラ的には、甘えるのは好きだが、ずっとべったりするのは苦手らしく、ほどよく気持ちをリセットする為に彼女達をデートに参加させたんだろう。

 2泊な点といい、自分が最大限楽しむ為の環境を整えている辺り、アイラの一人勝ちな感じが否めなくもないが、まあその点も含め彼女達は皆納得しているんだろうな。


「ご主人様。以前ここで修行した時の事を覚えていますか」

「そりゃ、あの時から2ヶ月くらいしか経ってないしな。鮮明に覚えてるよ」


 俺とアイラは、以前お世話になった道場へと足を運んでいた。今日はここも貸し切りにさせて貰えてるらしい。ここは早乙女家と宝条院家の両家も世話になっている武術の総本山。聞くところによると、ダンジョン発生以前に存在した複数の実戦的道場が合併され誕生した流派だとか。


「流派の名は、『魔闘流』だったか」

「はい。魔物と闘う為の流派です」


 モンスターブレイク、ダンジョン側の通称ではスタンピードと呼ばれるあの騒動発生以降、門下生は爆発的に増加し、各地に道場もあるらしいが、それらは『魔闘流』の起源となった各流派の道場の名残もあるという。もしかしたら、昔俺が通っていた道場も、『魔闘流』に関係しているのかもしれないな。

 んで、そんなダンジョン特化の道場が生半可な造りをしている訳もなく、冒険者の修行に耐えられるよう頑丈な設計になっていた。だから、俺達が修行のために多少暴れるくらいなら、大した損害は出ないはずだ。


「あの頃はご主人様のお力は知りつつも、その伸び代を見誤っていた時期でした。果たして満足のいく修行が出来ていたかと、不安に思う日があります」

「あの時の修業は今の俺を構成する上で、なくてはならない根幹が鍛えられたと思っている。だから、アイラは悔いる必要は全くないぞ」


 1回目の旅行では武術の基礎と、周囲の気配を掴む修行を学んだ。

 あれのおかげで、俺は『予知』スキルと合わせて死角からの攻撃への回避率が大幅に向上した。今では『予知Ⅳ』にまで成長したが、現状の回避率はスキルだけのものではないはずだ。


 2回目の旅行では武術の応用と、目隠しした状態での物理と魔法の攻撃を回避する術を学んだ。

 視界に頼らない攻撃を知覚する手段が確立できたことで、俺は苦手意識を持っていた『ラミア』戦を突破する事ができた。


 それ以外にも、あの修業の日々があったからこそ、俺は数々の強敵を打ち倒せたんだ。それ以降は『1086ダンジョン』付近の別荘地と、『ハートダンジョン』の砂浜での修行がメインとなったが、原点回帰も悪くは無かった。


「ご主人様……。ありがとうございます。では早速、修行に入りましょうか」

「おう。……んで、2人して胴着姿になって、何するんだ?」

「今回この修行をすることを決めた理由は2つ。まず、近々向かう事になるであろうエス様が仰っていた『幻想ファンタズマダンジョン』。ここに出現するモンスターの構成を伺ったからです。そしてもう1つは、先日アキ様が操られた際、無様にも一撃を貰った点にあります」

「……あれは効いたな」


 思わずお腹をさする。

 あれ以降、アキはデートでだいぶ持ち直したらしく、今では元気いっぱいの普段の彼女に戻っていた。デート中はまだちょっと引き摺っている感じがしたので、余計な事を考えられないよう徹底的におかげかもしれない。


「いくら至近距離で、アキ様からの攻撃という予想外の一撃とはいえ、回避も防御も、ましてや受け流しすらできずに被弾してしまったのはいただけません。今までは回避の技術ばかり磨いてきましたが、今回は被弾が免れない状況で、ダメージを極限まで受け流す方法の修業となります」

「回避不可避の状況か。確かに、今後はもっと強敵と出会う機会も増えるだろうし、必要なスキルだな」

「はい。完全無敵な『金剛外装』も、無効化される攻撃を我々は目視しましたからね」

「ああ、アレは衝撃的だった」

「ですので、今回は私と組手をして頂きます。武器は互いになし。素手での格闘戦になりますが、最初は互いに外装はありとしましょう。そして互いに被弾したら負けですが、ご主人様は『金剛外装Ⅳ』独特のクールタイムがありますので若干不利かもしれません。よろしいですか?」

「ああ」


 ステータスもスキルも、俺の方が圧倒的に強いが、いまだアイラには技量では手も足も出ない。『金剛外装Ⅳ』のデメリットは影響が大きいだろうし、こんな時のアイラは本気で鳩尾も狙ってくるはず。

 俺の攻撃が当たったとしても、アイラは受け流しの技術があるだろうし、多少本気で行ってもダメージの心配はない。問題があるとすれば俺が被弾した場合だ。回避ができなかった場合は悶絶は必至だし、どうにかして受け流しを……。

 あれ?


「なあ。実戦の前に、まずは俺に受け流しの技術を教えてくれないか?」

「今回は10本勝負としましょう」

「ねえ、聞いてる?」

「ご主人様が勝ち越したら、優しくお伝えしましょう」

「……負けた場合は?」

「今回は二泊三日ですから」

「……」


 丁寧に教えてる時間は無いから、殴られて覚えろと。

 アイラのスパルタ宣言を前に、俺は負けるわけにはいかなかった。


 その後、5発ほどモロに急所を攻撃され悶絶したが、何とか残りの5戦で勝利をもぎ取り、お情けで受け流しの技術を学ぶのだった。

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