ガチャ441回目:ハートダンジョンのボス

 一度大きく広がった巨大な煙は、まるで圧縮するかのように中心に集まり、その密度を高めていく。そのヤバそうな気配に、俺は銃をアイラに投げ渡し、代わりにメイン武器である『ハイ・ミスリルソード』を2本受け取った。

 前に出ていたミスティと交代するようにしてエンキ達が横に並び、俺は『金剛外装Ⅳ』を。それ以外の全員は『金剛外装Ⅲ』を起動し、その時を待つ。


 ビシッ……!


 空間が割れるような音と共に密集した煙に亀裂が走り、中から1つの生命が誕生した。

 現れたのは光り輝く鎧に身を包んだ、中性的な顔つきの人間だった。……いや、背中に天使のような羽が生えているし、本物の天使なのかもしれない。

 武装は左右に浮かぶ2本の剣に、圧倒的なオーラを放つあの弓か。


「『真鑑定』『真理の眼』」


*****

名前:天の騎士・クピド(ダンジョンボス)

レベル:280

腕力:2500

器用:4000

頑丈:3300

俊敏:4200

魔力:9999

知力:6000

運:なし


ユニークスキル】天罰の剣

ブーストスキル】金剛外装Ⅳ、剛力Ⅴ、怪力Ⅴ、阿修羅Ⅳ、怪力乱神Ⅱ、金剛力Ⅱ、力溜めⅡ

パッシブスキル】身体超強化Lv3、光耐性Lv5、物理耐性Ⅲ、魔法耐性Ⅲ、思考加速、神弓術Lv2、狩人の極意LvMAX、暗殺の極意LvMAX、空間把握Lv1、曲芸Lv4

PBパッシブブーストスキル】破壊の叡智Ⅲ、魔導の叡智Ⅲ、光の聖印Ⅲ

アーツスキル】予知、鎧通し、急所突き、重ね撃ちLv2、神通力Ⅱ

マジックスキル】飛剣術LvMAX、極光魔法Lv4、聖魔法Lv1、魔力超回復Lv5

スペシャルスキル】魅惑の魔眼、天使の祝福

★【エクススキル】天使の翼


武技スキル:魅惑の矢、破魔の矢


装備:クピドの黄金弓、天翼の兜、天翼の鎧、天翼の籠手、天翼のレギンス、天翼のグリーブ

ドロップ:ランダムボックス、ランダムな装備、管理者の鍵(810)

魔煌石:大

*****


「遠距離型のレアモンスターか。全員、気を引き締め……ッ!?」


『ガィン!』


 嫌な予感がして剣を振ると、奴の近くに浮いていた飛剣の1本が襲い掛かって来ていた。なんとか外装を消費せずに剣で迎え撃つことができたが、いつの間にこんな近くに!?

 気を逸らしはしたが、視界は外さなかったのに。そう思ったのも束の間、もう1本の剣が背後から襲い掛かり、外装の1枚を剝ぎ取っていった。


「なにっ!?」


 勢いは外装が吸収してくれたが、不意の一撃を入れられたことに衝撃を受け、そのまま3秒後に2枚目の外装も剥がされてしまう。だが、タダでやられる俺じゃない。剣の軌道を追っていると、奴の視線に沿って剣が動いている事に気付いた。

 奴がエンキ達からの猛攻を避けたり、攻撃を仕掛けたりする時も剣は動いている様子だが、突然裏に回ったりして来ないところを見るに、手動操作と自動攻撃を切り替えられるシステムなのかもしれない。


「『真鑑定』『真理の眼』」


 名称:天罰の剣

 品格:≪伝説≫レジェンダリー

 種類:ユニークスキル

 説明:スキル『天罰の剣』で召喚された殺戮兵器。地球上には存在しない物質で作られており、『伝説レジェンダリー』以上の武器やスキル以外では破壊は不可能。術者の意思に沿って自在に動き、付近の敵へ自動的に攻撃する追尾機能を持つ。


 やっぱりこれ、スキルから生まれた剣だったのか。どおりで装備一覧に剣が無いわけだ。要するにこれは、敵の近くに配置しておけばあとは自動で攻撃してくれる便利スキルってわけだな。

 見ていない時の自動攻撃もパターンがある程度把握できたし、視線での動きもなんとか読めそうだ。あとは『予知』と『思考加速』の力も併せれば、この剣はもう邪魔でこそあれ、脅威ではなくなるだろう。

 そう思った矢先、奴は次の手段に出ていた。そう、エンキ達の攻撃を避けながら黄金の弓をこちらに構えたのだ。


『######』


 言語の種類が違うのか、何を言ったのか分からない。だが、奴がそれを口にした瞬間、つがえる矢はドきついピンク色の光を放ち、全身の毛が逆立つのを感じた。

 あれはヤバイ!!


「くっ!」


 飛剣を弾き飛ばした俺は、自分が『金剛外装』を纏っている事すら忘れ、全力で横に回避した。

 視界スレスレをピンクの光線が突き抜け、外装の3枚目が持っていかれた次の瞬間、背後から悲鳴が聞こえた。


「きゃあっ!?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、アキの外装に先ほどの矢が着弾している様子が目に映った。幸いにも、矢そのものは外装に阻まれ消失し、身体にダメージは負っていないように見えるが、アキはうつ伏せに倒れてしまった。


「アキ!! エンキ、少し任せた!」

『ゴゴ!』

『ポポー!』

「アキ、大丈夫か!?」

「姉さん!」


 アキを抱え起こすが、その目は虚ろだった。いつもなら軽口が飛んでくるはずだが、様子がおかしい。呼吸はしているし体温もある。なのになぜか、アキの瞳からはを感じていた。


「……ッ!?」


 そして全身からごっそりと、何かが抜け落ちる感覚と共に、アキの『金剛外装Ⅲ』が

 まだ1発しかダメージを受けていないはずなのに、なぜ?

 そう思っているとアキが虚ろな目のままこちらを見て来た。


「姉さん?」

「アキ?」

「……『破拳』」

「がはっ!?」


 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 加速した思考と回転する視界の中で、虚な目をしたまま俺に敵意を向けるアキの姿と、驚くマキ、慌てるアヤネ、そして素早く行動に移すアイラの姿が目に映った。胃液を撒き散らしながら数メートル後ろへと転がった俺は、現実味のない光景に混乱するも、遅れて襲いくる腹部からの激痛によって現実に引き戻された。崩れ落ちそうになる身体をなんとかこらえ、俺を吹き飛ばした張本人へと目を向けると、既にアイラによって制圧されていた。


「アイラ、ナイス……!」

「旦那様、すぐ治療しますわ!!」

「手伝います!」


 アキは目隠しと猿ぐつわをされ、手足を縛られてモゾモゾとしていた。無言でジタバタしている様子を見る限り、まだ正気じゃなさそうだな。

 改めてボスの方を見れば、天使の翼を使って縦横無尽に空と大地を自在に動き回り、エンキ達とのバトルで大立ち回りをしていた。奴のヘイトは今のところエンキ達に向いているようだが、いつまたこっちに向くか分からんな。だが、アキをこのままにしておくわけには……。

 彼女の身に何が起きたんだ。


「ご主人様、奴は特殊な能力を持っていませんでしたか。この症状、重度の洗脳状態に酷似しています」

「洗脳!? ……もしかして、あの『魅惑の矢』か!」


 『黄金鳳蝶』と同系統かと思って勝手に問題ないと判断していたが、もしアキがこうなった理由がアレなのだとしたら、えげつない効果だぞ。まず『直感』が回避をしなければならないと命令してきた以上、俺の指輪じゃ防げない事は間違いない。それに、アキを見る限り外装を貫通して状態異常を与えてくる技なのも確かだ。自前で回避できないメンバーは、奴の魔の手に落ちる可能性がある。カスミ達には経験値を分けてあげたいが、攻撃させればまたアレが飛んで来るかもしれない。

 エンキ達に対しては使ってこないところを見るに、人間にしか効果が無いのか? あぁ、どうしたものか……。


「兄さん、手伝いはいるかい?」

「困ってるなら助けるよ」


 そうだった、今の俺には心強い双子がいたんだったな。

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