ガチャ439回目:ボスフィールドへ

 階段を登りきると、想定通りというか視界にありえないものが映った。振り返ってみると、下と同様にこちらも階段が隠されているのか、通り抜けられる岩の壁が鎮座しており、同じ見た目の岩が水流の向こう側にもあった。

 恐らく、大瀑布の左右どちらからでもここに辿り着けれるようになっているのだろう。

 そのまま大瀑布の水源を目指して進み続けると、いつしか周囲には森が広がり、水流も縮小。果てには小さな祭壇のようなところに辿り着いた。その祭壇の中央には壺をも持った乙女の像があり、そこから延々と水が流れていた。恐らくこれが、大瀑布の源流なんだろうな。

 明らかに水量が異なるが、多分水流の途中に、追加の噴出口がいくつもあるんだろう。乙女が腰掛ける岩の椅子は、どうやら背面が石碑の様になっているらしく、絵が彫り込まれていた。

 その絵はどいつもこいつも見覚えのあるモンスターだった。


「芋虫、宿借、魚人、海蛇、蟻、鳥、山椒魚……。どれもこのダンジョンにいたレアモンスターだな。恐らく強化体を指しているんだろうが」

「つまり、これがトロフィーの捧げる場所ってこと?」

「たぶんね」


 これに触れたらボス戦が始まるんだろう。

 そう思って周囲を見渡してみると、改めてこの祭壇近辺は景色も良いし、この雰囲気も神秘的な感じがして普通の人が見たら感動を覚えるかもしれないと思えた。観光には十分使えそうだと感じたので、彼女達に記録に残してもらおうと提案してみる。


「写真? それなら心配いらないわよ」

「実は階段を登る前から、カメラを回していたんです」

「ばっちり撮ってますわ!」

「そうだったのか? ありがと。余計な気回しだったか」

「ご主人様もその辺りに意識が向いてくださって何よりです」


 ダンジョン攻略にしか頭が向かないと言われたばかりだしな。

 まあでも、そのくらいなら彼女達がやってくれているというのが分かっただけでも、多少は成長しているのか?


「それじゃ、ここからボス戦になると思う。皆、準備は良いか?」

『はい!』

「兄さん、僕達の手伝いはいるかい?」

「とりあえず見ててくれ。ボスに関してはそれなりに強敵だろうから、俺の実力を見極めるにはいい機会だろ。だから、悪いけど最優先はうちの彼女達の護衛を頼む」

「ああ、任せてくれ」

「ショウタ、頑張って」

「おう、ありがとな」


 全員の意志が確認できたところで、石碑へと手を伸ばした。

 すると石碑に刻まれた各モンスターの絵が共鳴するように輝き、メッセージが表示される。


【全ての鍵の欠片の所持を確認】

【条件を満たしました】

【ボスに挑戦しますか?】


「挑戦する」


【資格者の意思を確認】

【専用エリアに転移を開始します】


 俺達は眩い光に飲み込まれた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 視界が開けると、ダンジョン壁の存在しない真っ直ぐな道が続いていた。

 だが、今までと違うのは、目の前に広がっているのが草原ではなく荒野であるという点か。草原の時は柔らかい風が頬を撫でてくれていたが、今は土っぽく乾いた風が吹きすさんでいた。

 左右には相変わらず半透明な膜のようなものが存在しているし、あれを通れば反対側へと繋がるのだろう。ここで現れるのは何だろうか。

 『アンラッキーホール』では出現モンスターがスライムだからか、ボスもスライム。

 『初心者ダンジョン』では第三層に出たのと同様、荒ぶるクマの神。

 『1086ダンジョン』では海底ダンジョンだからか、現れたのは巨大クラーケン。

 どいつもこいつも、初めて会った時は一筋縄ではいかない相手だったが……。


「ま、何が相手でも倒すだけだ。……あ、そうだ。カスミ達は、アレちゃんと用意してるな?」

「うん、全員準備してるよ!」

「ダメージを与える事よりも、当てる事だけを優先するのであれば問題ないです」

「イズミとイリーナは当てられる方を頑張ってくれな」

「はーい☆」

「頑張りますわ、お兄様」


 カスミ達は全員『激流の三叉槍』を装備していた。

 相手が近付くのすら難しいタイプのボスだったらやばいからな。倒せる予測がついた時点で、彼女達には経験値を得るために遠距離攻撃をしてもらう必要があった。彼女達には『風魔法』と『水魔法』と『泡魔法』をLvMAXまで覚えさせているが、ほとんどのメンバーが魔法にはまだ不慣れだろうからな。


「よし、それじゃ行くぞ」


 俺達は覚悟を決め、真っ直ぐに進み始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらく何もない荒野を進み続けていると、俺達を出迎えるかのように周囲から煙が湧き出て、一カ所へと集まって行く。集まった煙は物質的な存在感が増して行き、最後には巨大な球体へと変化した。そして卵が割れるかのように中心に亀裂が入り、中に入っていた何かがどろりと生まれ落ちた。


「最初はお前か」


*****

名前:黄金鳳蝶

レベル:――

腕力:200

器用:200

頑丈:200

俊敏:800

魔力:400

知力:800

運:なし


ブーストスキル】金剛外装Ⅲ

PBパッシブブーストスキル】魔導の叡智

マジックスキル】風魔法Lv4、魔力回復Lv1

★【エクススキル】魅惑の粉


装備:なし

ドロップ:黄金の種(大)、黄金の蜜、黄金香

魔石:特大

*****


 レアでも強化体でもなく、レアⅡとの再戦パターンは初めてだな。……いや、人によっては再戦ではなく初めての場合もあるか。なにせ、レアⅡはトロフィー入手とはまるで関係ないんだから。

 それを、初手から厄介な初見殺し持ちのこいつから出してくるあたり、このダンジョンの性格の悪さが垣間見えた気がする。


「さて……」


 経験値もスキルドロップもない模倣品ではあるが、アイテムドロップだけはあるからな。有用な『黄金の実(大)』があるし、俺が倒しておかなきゃな。


「……ぐっ!」

「……うぅっ」


 うめき声が聞こえ振り返ってみると、エスとミスティが蹲っていた。


「おいおい、大丈夫か?」

「あ、ああ。なんとかね。このモンスターの香りを嗅いだ瞬間、意識が朦朧とした。けど、次の瞬間には激痛さ。恐らく、誓約に反する何かをさせられそうになったんだろう」


 ああ、なるほど。『魅了』された2人はをしようとして、その瞬間激痛で目が覚めたというわけか。うちの彼女達はこのモンスターの対処法は知ってるし、カスミ達も半分は直接相対したし、もう半分も映像データで見て貰っている。

 だから出現した瞬間鼻と口を手で覆うくらい対策はバッチリだったが、双子はこいつの存在を知らなかったもんな。俺もレアⅡが再出現するとは夢にも思わなかったから、教えてなかったのが災いしたか。

 しっかし、レベルは低いはずなのに、こんな高レベルの2人すら『魅了』するって、どんだけ厄介なんだ『黄金鳳蝶』。

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