ガチャ438回目:バングルの数値

 『心のバングル』によって予想外にメンタルが疲弊してしまったが、俺達は第五層に建てた拠点を片付け、そのまま第三層へと移動を始めた。今から『ダンジョンボス』にいく体力も気力もないが、ひとまず下準備の為にも第三層で一晩休んでから、探索をすることにしたのだ。

 場所としてはどこが良いかと思ったが、大瀑布から流れる川。魚なんかを見つけたあの崖下付近は、なんだかんだで道幅が広いし人も来ないので、そこに拠点を建てる事にした。


「この先の湖もデートスポットにできるなら、この辺りに海の家のような協会保有の建物とかあってもいいかもね」

「そうだなー。資材の持ち運びとかはちょっと大変そうだけど、人気スポットになるのは間違いないな」

「あのモンスターさえいなければ、ですね」

「旦那様、まだ湧いていないのですわよね?」

「ああ。結局あれから、もう100時間くらい経過してるはずだが、それでも出てこないんだよな」

「100時間……。というと、兄さんに初めて会った時の事かい?」

「そうそう」

「はは、まだそれだけしか経ってないのか。兄さんとは濃密な時間を過ごしたせいか、もっと長い間行動を共にしているような感覚を受けるよ」

「それ、よく言われるよ」


 マキやアヤネ、アイラとは出会って2ヶ月ほどしか経ってないんだからな。

 カスミのチームメンバーに至っては、まだ2週間しか経ってないのだ。それを伝えると、エスは目を丸くした。


「驚きだね。こんなに仲睦まじいのに、まだそれだけの時間しか経っていないなんて。でも、僕も体験したからこそわかるよ。兄さんとの関係は、時間では測れないんだね」

「……まあ、自分で言うのもなんだが、そうなのかもな。ちなみにアキとはもう3年くらいの仲だけどね」

「そうなのかい? その割には……」

「なによ。文句あるのエス君?」

「あはは、なんでもないよアキ義姉さん」


 なんだかんだと、エスも馴染んできてるな。あの時出会った瞬間からは想像もできないような関係だが、悪くないと思う。


 そうして皆で夕食を摂っている時のこと、カスミが覚悟を決めたような声色で身を乗り出した。


「ね、ねえお兄ちゃん!」

「ん、どうした?」

「きょ、今日はその……。私達と一緒に寝ない?」


 恥ずかしそうにカスミが言う。意味はまあつまるところそう言うことだろう。こういう関係になってから彼女達とは多少のスキンシップが増えたし、そういう行為を経たとはいえ、夜を明かすことはしてなかったからな。

 逆にいつもの4人とは毎日だから、たまには良いんじゃないかと思ってはいた。


「薬は忘れないでくださいね」

「分かってます。そういう約束ですから」


 じゃあ今日は、ちょっと前に危惧した通り6対1の構図になる訳か。

 多勢に無勢だが、今後の兄としての威厳にかかわる。負けられない戦いがここにはあった。……が、寝る前に試したいことがあったんだよな。


「一緒に寝るのはわかった。けどその前に、第四層で手に入れたショットガンの試し撃ちをしておこうかと思うんだけど、見てく?」

「見たい!」


 そうして『魔導銃クイーン・デトネーター』の試射会をし、気持ちを高ぶらせた俺達は別の戦いへと赴くのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 翌朝。

 戦いに勝利した俺は、ふと気になったので彼女達全員に『心のバングル』を再び試してもらってみた。すると、カスミは1。他の面々も2から4ほど上がっていて、レンカとイリーナは80台に突入していた。

 1日でこれだけ増えたということは、つまりはそういうことなんだろう。


「おはようございます、ご主人様」

「おはようアイラ」

「昨晩はお楽しみでしたね?」

「んな宿屋の主人みたいなセリフを……」

「それと、バングルは上がってましたか?」

「俺が使うことは想定済みかよ……」


 けど思い付きではあったが、これで上がるとなると……。


「ご主人様。今懸念されている点は無用な心配です。私達もそうですが、彼女達もそう簡単に心の距離が空くことはありません」

「断言するんだな。俺の甲斐性の見せ所とか言ってくるかと思った」

「確かにそこを気にして頂けると私としては喜ばしいところではありますが、結局ご主人様はダンジョンを優先してしまうでしょうし?」

「うっ」

「ですから、好きになった時点でそこは全員諦めています。ですので大丈夫です」


 女の子としては気に掛けて欲しいけど、俺の特性を把握している以上それはいずれ限界が来るのもわかっていると。……なんとも複雑な気分だ。

 でも、それで諦められるのはなんかやだな。


「まあ、できる限り頑張るよ」

「ふふ。食事の準備ができています。行きましょう」

「ああ」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 朝食後、俺達は大瀑布によって形成された巨大な湖を回り込むように移動していた。

 大瀑布の上部は、高さとしては第二層へ続く山と、第四層へ続く山の山頂付近と同じくらいの高さにはあるが、それらの山とは物理的に繋がっていない。なので、あそこに辿り着くには第四層同様どこかに隠し通路がないとおかしい訳だ。

 そして、それがあるとすれば大瀑布直下の崖付近か、もしくは大瀑布の内部といったところだろう。


「近くで見ると、より迫力があるな」

「ねー」


 大瀑布を横目に、俺達は目的地である左側の崖にやって来た。右は湖で左はダンジョン壁。目視できる範囲では上へと続く階段などはないし、ここでは足元を気にする必要もない。目視で何も発見できないのなら、あとは触って確かめるだけだ。


「……うおっ!?」


 俺がいの一番に壁に触れようとすると、するりとすり抜けてしまい、思わずつんのめってしまった。

 そして見上げれば、俺の目の前には上へと続く階段が存在していたのだった。


「いきなりかよ」

「予想的中ね」

「流石旦那様ですわっ」

「ダンジョン探索においてお兄様の右に出る者はいないわね☆」

「お兄さんすごーい!」


 皆に褒められるのは嬉しいが、そこに義妹達も加わってくると気恥ずかしさがヤバイ。


「さて、『ダンジョンボス』を拝みに行きますかね」

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