ガチャ431回目:アホの子

「お、ここが折り返し地点か」


 オールを漕ぐこと10分ほど。俺たちの視界に対岸と思われる小さな桟橋が見えてきた。ボートがいくつか停泊しているし、あそこから先がモンスターが出るポイントになるんだろう。

 マップを開いて見ても、今の移動では全体の1%もないくらいと言ったところだろうか。

 ゆっくりとした移動だったが、あんなのでもそれなりに距離はあったはずだ。それにも関わらず1%前後となると、この階層かなり広いんじゃないか……?


「ご主人様、お待たせしました」


 殿を務めていたアイラが、全てのゴムボートから手早く空気を抜いて回収した。まあ、使と思うし要らないか。


「……お兄ちゃんの事だから、帰りは水中を歩いて帰ることを考えてる?」

「おう、正解だ」

「やった。えへへ」


 カスミの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「よし、行こうか」


 桟橋から先は砂利道となっていて、狭くもなく広くもない、そんな通路をひたすら進み続ける。

 水が近いダンジョンのためか、全体的に少し湿っぽかった。


「ここも第四層みたいにずっと通路が続くのか?」

「ううん、違うわ。もうそろそろ視界が開けるはず……ほら」

「おお」


 視界が開けると、そこには海底洞窟と呼べる景色が広がっていた。壁や天井には珊瑚が繁茂していて、時折散見される壁の穴からは水がとめどなく流れて来ていて、小さな滝や溜め池も形成されている。この洞窟は光源もないのに明るく、横幅も広い。天井も高いが、奥行きは果てがまるで見えなかった。

 正直、俺としてはさっきの地底湖よりこっちのほうが楽しいかもしれない。

 ……まあ、こっちはモンスターの姿が見える分、観光には向かないかもしれないが。


「ここの構成は簡単よ。ある意味『アンラッキーホール』に近いものがあるわ」

「つまり、ほぼ一本道で、たまに側道がある感じだな?」

「そ。んで、出てくるモンスターも1種類のみ。……今のところは」


 アキが自信なさげに言うが、まあ第四層のような想定外はそうそう起きないだろう。ここは完全に洞窟のみのエリアみたいだし、マップ構成も割れているんなら、抜け道なんて存在する余地もない。あるとすれば……最初のだな。

 そして一種しかモンスターがいない場合、第三層のようにいきなりカギ持ちが現れる場合もあれば、第一層のようにトロフィーが出て宝箱を探させるパターンもある。何が来ても慌てたりしないよう冷静に対処しないと。


「とりあえず、あの変なのがここのモンスターか」


 何組かの冒険者が戦っている姿が見えるが、中々に……キモイモンスターだった。手足が異常に細く短いにも関わらず、直立している魚……。いや、トカゲといった風体で、まるでオタマジャクシからカエルへの進化の途中であるかのような容姿をしていた。

 あれは足ではなく、デカイ尻尾でバランスを整えているのか?


「『真鑑定』『真理の眼』」


*****

名前:アホロートル

レベル:35

腕力:150

器用:150

頑丈:300

俊敏:250

魔力:400

知力:600

運:なし


マジックスキル】水魔法Lv3

★【エクススキル】水鉄砲


装備:なし

ドロップ:アホロートルの水袋

魔石:小

*****


「アホロートル? ……魔法型なのに、アホなのか?」

「ふふ、違いますよショウタさん」

「あれはサンショウウオ。ウーパールーパーの幼名なのよ」

「え? ウーパールーパーって、あんなにキモイの?」

「誤解ですわ。あれは同名のモンスターだからであって、本物はちゃんと可愛いですわ」

「なんだ、安心した」


 あんなヒキガエルのなりそこないみたいなのが妖精扱いされてるのかと思った。


「まあ、あれもウーパールーパーで間違いはありませんが。ご主人様が思い浮かべているような品種改良されたものではなく、原種と呼ばれる個体は、大体あんな感じですよ」

「そうなのか……」


 まあなんにせよ、可愛くなくて良かったかもしれない。モンスターである以上狩りの対象だし、可愛くて狩れないじゃダメだからな。……まあ、綿毛虫すら狩りの対象になる以上、多少の可愛さじゃ俺は止められないが。


「とりあえずここじゃ他の冒険者の邪魔になる。奥に進みながら狩って行こうか」


 そうして俺達はアホロートルを蹴散らしながら洞窟をずんずんと進軍して行った。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 アホロートルは『エクススキル』の水鉄砲を主体に、時折『水魔法』を織り交ぜて戦うスタイルの様で、近接戦闘は苦手といった感じだった。まあ、ステータスからもそれは予想できたことだが。

 水鉄砲と聞くとなんだか可愛らしいものだが、その実態は水の弾丸であり、『頑丈』が200以下なら痣ができ、100以下なら骨が折れるほどの威力らしい。『水魔法』も同様だが、こっちは『知力』補正がかかる影響か、ウォーターカッターのように切断力も有している。

 とまあ、話を聞くだけだと割と恐ろしいモンスターではあるのだが、俺達からすれば痛くもかゆくもない攻撃だった。エンキが避けるまでもなく全身に浴びながら突撃する様を見て、試しに俺も真似てみたのだがまるで痛みは無かった。ただ、『水魔法』は普通の水なのに対して、水鉄砲は奴の口から放たれる分、ちょっとしょっぱかったので、あまり食らいたくない攻撃ではあるのだが。

 カスミ達の中で危ないのは、『頑丈』の成長値が2しかないイリーナくらいかな。次点で成長値が3のハズキ、レンカ、イズミだが……こっちは多分大丈夫だろう。アヤネは最低値の1しかないけど、こっちは『黄金の実』パワーで補強してあるから、レベル300越えとなったアキとマキの成長値3組と同等の『頑丈』さを持っている。

 やっぱり『黄金の実』は偉大だなぁ。


 それはそれとして、危ないから真似はできないけど、豊満な身体を持つイリーナを見ているとよこしまな感情が浮かんでくる。シスター服を濡れ鼠にしてみたくなってしまった。まあ、そんな考えは視線だけで彼女達に即バレして、めちゃくちゃ揶揄われるのだが。イリーナをこよなく愛するレンカからは激しめの同意は得られたが。

 彼女曰く、今度実演してくれるらしいのでちょっと楽しみにしておくか。

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