ガチャ430回目:デートの話

「とにかく、エスの言うその3つの合計値以下に抑えた場合は、今のところ危険な兆候は見られないんだな?」

「ああ、その通りさ。僕達冒険者は、自前のステータスでだけで冒険するには、あまりにもステータスが心許ない。我が国ではA……いや。Bランク以上は増強アイテムを使う傾向にあるけど、先程告げた以外で死亡事故は起きていないよ」

「Bランク以上、ですか。日本とはまるで価値観が異なりますね」

「それも増強アイテムの産出地と呼べる場所が、今までこの国で見つかっていなかった影響でしょうか」

「例の黄金計画を実行するにあたって、そこは注意するよう義母さんたちに伝えておかなきゃね」

「そうね……」


 彼女達の視線が、増強アイテムが詰め込まれた腰巾着へと注がれる。まあ、あんな話を聞いた後じゃ、使いにくいよなぁ。


「ショウタ君的にはさ。それをあたし達に使う事に対して、嫌な予感はしない?」

「まあ、全部となれば話は別だけど、小分けにする感じなら今のところ問題ないかな」

「なら、あたしはショウタ君の『直感』を信じるかな。だから遠慮なく渡してちょうだい」

「わたくしもですわ!」

「そうですね。ショウタさんの判断なら信じられます」

「うん、だから遠慮しないでねお兄ちゃん」


 見渡してみれば、他の子達も同じ意見のようだ。


「……ああ、わかった。ありがとな皆」


 ただ、今配るよりもここの『ダンジョンボス』を撃破してからが良いだろう。だから一旦この話は保留だ。スキルも……そうだな。

 この階層の状況を見るに、水系のモンスターで溢れてそうだ。苦戦を強いられそうなら配るべきだが、こちらも必要に駆られてからで十分だろう。


「それじゃ、皆で奥まで向かってみようか」

『はい!』



◇◇◇◇◇◇◇◇



 再び地底湖へと辿り着いた俺たち。

カスミ達は初めて見る光景に感動し、俺とエンリルはアイラが取り出したゴムボートに次々と空気を入れる作業を開始した。数が数であるため、手作業で空気を入れるとなるとかなり大変なのだろうが、『風魔法』と『風雷操作』を使えば空気入れも簡単だった。あまり勢いをつけすぎると破裂するんじゃないかと心配になるレベルで空気を入れてしまったが、そこはアイラが用意したゴムボート。ダンジョン製の素材を使った逸品らしく、耐久性も問題ないようだった。

 これなら多少の攻撃を受けても沈む心配はないだろう。てか、安全圏で使う以上、攻撃を受ける心配もいらないかな?


「勝利」

「ミスティちゃん、じゃんけん強いね」

「また負けましたわ……」

「まあまあ。同じボートに乗れただけいいじゃない」


 実はアイラの用意したゴムボートだが、最大4人まで乗れるサイズのようで、彼女達による熾烈なじゃんけんバトルが開催された。商品は俺。

 そんな中勝利したのはまたしてもミスティで、彼女は俺の隣に。負けはしたけど2位と3位だったカスミとアヤネは俺の正面に座る形となったのだった。完全勝利したミスティは鼻高々といった様子で可愛らしい。


「ミスティ、流石だな」

「むふ」

「前回の着ぐるみ戦でもそうだったけど、やっぱ動体視力が飛び抜けてるよな」

「あ、ショウタ。見えてた?」

「割とバッチリ」


 そう。ミスティは後出ししていたのだ。

 まあ、反則になるような行為ではなく、手を振り切る前のギリギリのラインで、全員の手を見て自分が負けない手を出す。それを繰り返していれば人数はどんどん減って行くという流れだ。それも戦術の一つだし、咎めるほどでもなかっただけだ。

 恐らくアイラが参戦していたら、お互いに延々とあいこが続く戦いになってただろうけど、アイラはこういう場では表立ってベタベタしてこないのが幸いしたな。

 これを実行するには動体視力と反射神経、それから『高速思考』も必要になってくるだろう。側から見ればスキルの無駄遣いだろうけど、本人達はいたって真面目なのが面白いところだな。


「……怒らないんだ?」

「別にズルしてるわけじゃないしな。ステータスもスキルも実力のうちだ。そうだろ?」

「そっか。……ありがと」


 オールを漕ぐ片手間に、ミスティの頭をポンポンすると、彼女のアホ毛が伸び縮みした。


「むぅ。羨ましいですわ」

「ふふ、そうだね。うーん、お兄ちゃんとのデート。こういうところもアリだなぁ……」

「ん。カスミも、ショウタとデートするの?」

「そうだよ。ここが終わったらそれぞれ順番に、だね」

「……ショウタ、私もしたい」


 ミスティが甘えるように上目遣いで見上げてくる。そういえば、皆から認めて貰えたらとか、そんな約束をしてたな。


「……まあ、カスミ達とも仲良くやれてそうだし、良いぞ。でも順番は最後の方になると思うけど」

「ん。大丈夫」

「今の感じだと、義姉さん達4人の後に、私達が個別デートする予定だけど、ミスティちゃんは私たちより前か、最後かのどちらかになるかな? 後で皆に確認しておくね」

「カスミ、ありがと」

「どういたしまして」

「ん? なんでミスティのタイミングがその2つになるのか聞いて良いか?」


 ダンジョンが終わった後のデート日程、俺詳しくは聞いてないんだよな。


「あ、そっか。義姉さん達には伝えたけどお兄ちゃんには言ってなかったね」

「そうですわね。ですが旦那様には、もう伝えてしまっても良いと思いますわ」

「なんだなんだ?」

「義姉さん達とのデートはこっちの第一エリアだけど、その後の私達とは第二エリアでのデートを予定しているの。その時、お兄ちゃんには悪いけどそれぞれのメンバーの親に顔合わせしてもらうから」

「!?」


 そういえば、義母さん達と仲良くなってて忘れてたけど、結婚するならそういうイベントが待ってたな!? 完全に失念してた。アイラのご両親にはまだできてないけど、カスミ達の親……。というと、父さんにも会いに行かなきゃ行けないのか。

 父さん、なんて言うかな? 実の父親に娘さんをくださいって言うシーン、なかなか想像つかないんだけど。


「カスミ、父さんにはもう伝えたのか?」

「ううん、まだだよ。だからサプライズも兼ねて一緒に帰ろ?」

「お、おう……」


 そうして、俺たちは景色を楽しむよりも、今後のデートのことで盛り上がるのだった。

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