ガチャ422回目:謎解き1
翌日、目が覚めると、マップにエスの反応はなかった。
「ん?」
普段ならマップなんて特に見る必要はない為、気付かなかっただろうが、今は第三層のあのレアモンスターの件があるからな。いつの間にか湧いていたりしないか、朝昼晩に1回ずつ確認するのが日課になっていた。結局今日もまだ湧いてないわけだが。
エスを探して俺は第四層から遡り、第一層まで確認するが、許可者を示す青点は俺たち以外になかった。一体どこに……!?
「ご主人様。エスをお探しですか?」
「え? ……ああ」
いくらアイラ達が俺の心を読むと言っても、それは会話の流れから俺の考え方を模倣して予測を立てているに過ぎない。それをなんの脈絡もなく、寝起きすぐの俺の行動を即座に言い当てるということは、アイラは何か知っているのかもしれないな。
「一体やつはどこに?」
「お使いを頼みました」
「……え? お使い?」
急激に、気が抜けたのを感じる。
なんだよ全く、びびらせやがって。誓約して義兄弟となって親交を深めたばかりだから、不安になっちゃったじゃんか。
「申し訳ありません、ご主人様。エスの速度ならご主人様が目覚めるよりも早く帰ってくるかと思っていたので、昨日はお伝えしなかったのです」
「まあ、今日はちょっと目覚めは早かったかもな」
昨日は結局、アリの巣の全貌を解き明かすことはできなかったから、正直不完全燃焼なところがあるからな。元気が有り余っているのだ。彼女達からの猛攻を受けても、ケロッとしていられるくらいには。
「んで、お使いって何の?」
「はい。以前お伝えしたかと思いますが、そろそろ『異次元の手提げ鞄』の中身がいっぱいでしたので、余裕のあるうちに在庫の処理をしようかと思いまして。昨日の夜、協会や関係各所に連絡をし、倉庫の一部を間借りさせていただきました。中身をそこに預けた後は、協会が適切に処分してくれるはずです」
「なるほど。倉庫っていうのは810支部の?」
「はい。ご主人様は以前、このダンジョンで得たアイテムの販売権を支部長から譲り受けたという話は聞いていましたが、余っているのはスキルオーブではなく素材ですからね。突然、大量の荷物を引き受けてもらうわけですから、支部長に買い取っていただくことになりました。どの素材もそれなりに需要があるらしく、あの方も喜んでいらっしゃいましたよ」
「そっか、それはよかった」
このダンジョンを攻略すると決めた際、ヨウコさんはトラブルを恐れてちょっと嫌がってたりもしたからな。喜んでもらえるなら何よりだ。
まあ、『黄金の実』の仕様が判明した事で、今後このダンジョンの第一層は、『運』特化にしたことで引退を余儀なくされた冒険者達の救済措置に使われる可能性が高い。彼女達とも相談して、ある程度現場復帰システムが現実的に実行可能であるという予測も立てられた。だから、今後も迷惑をかけると思うから、今の内に恩を売っておいて損はないだろう。
「しっかし、エスは早速良いように使われてるわけだ」
「はい。彼の移動速度は常軌を逸していますからね。お手軽配達員にさせて頂きました」
顎で使われるSランクか……。
そうして噂していると、マップに高速で移動する青い点が出現した。
それは本当にとんでもない速度で移動し、第一層、第二層、第三層と、一直線に階段から階段へと移動している。エスの前に、道なんて物は存在しないんだろうな。
まあでも、この第四層だけは話は別か。ここばっかりは、他の人と同じように狭い通路を進んで階段を見つけるしかできない訳だし。
「ただいま戻ったよ」
「おかえりー」
そうして戻って来たエスと、彼女達。それから寝起きでぼんやりしているミスティと一緒に朝食を摂り、改めて攻略をどうするかを相談し合う。
「それで、ショウタ君。結局どうすることにしたの?」
「通路は全部、探索が終わってしまいましたわね?」
そう。昨日は帰り道で埋め損ねていたマップの隅々まで見渡したが、どこも行き止まりや他の通路へと繋がってしまい、マップ上に存在する空白地帯に辿り着ける道は全てふさがってしまったのだ。
「本来なら手づまりなはずだけど、兄さんの事だ。何か解決策が見つかってるんじゃないのかい?」
「まあな。……この第四層は、初日からずっと違和感があったんだ」
「違和感、ですか?」
「ああ。このダンジョンは、第一層から第三層まで安全なルートが存在するダンジョンだった。それがいきなり様変わりして、アリの闊歩する危険地帯になった。これは変じゃないかってね」
「うーん。確かに変かもしれないけど、そういうダンジョンなんじゃないかって思っちゃうわね」
「まあ何らかのコンセプトがあって、俺の想定とは違うものがあるかもしれないけど、それは一旦置いといて」
だけど、俺はその観点から思考することで、一つの道筋が見えたんだ。
この階層にも、安全に次の階層へと繋がる道があるんじゃないかってな。
「まず現在の状況を整理しようか。ここのモンスターは2種類、アリと鳥だ。こいつらはどちらも互いに干渉することなく、別々に生息域が存在している。けど、現時点で鳥のエリアへの侵入方法と、アリの本拠地に到達するための道は見つかっていない」
「そうですね。現状では、ご主人様が扱う『空間魔法』や、ピックなどを用いたクライム技術などが必須となるでしょう」
「だがそれは、これまでのダンジョン構成を考えると、あんまりだと思うんだよな。滅茶苦茶大変な道程を乗り越えた先に、宝箱が眠ってるとかなら、まだ分かるんだよ。けど、その先に完全に別のモンスターが陣取っていて、そいつらがトロフィーを持ってるというのは違和感がある」
「そういえば、ここの第一層や第二層で手に入れた鍵付きの宝箱は、巧妙に隠されていましたわ!」
「じゃあショウタ君的には、危険な先に別のモンスターの生息域があるなら、必ずどこかに正式な道があるって言いたいのね?」
「そゆこと」
地図に映るアリ達を見る。
第五層に続く道は人通りが多い為に赤点は疎らだが、昨日俺達が討伐したアリ連中はMAXで出現していた。昨日見てる感じだと、アリは場所によって出現時間にばらつきがあるらしく、第五層へのルートは十数分単位。それ以外の場所では数時間で再出現するようだった。ルート外のアリは、危険度が高い為か俺たち以外誰も進入していないようで、倒された形跡はない。
そんなアリ連中は、他のダンジョンで言うところのカメレオンと同類らしく、出現してもその場から動き回ったりはしないようだ。おかげで、分かってくることが1つだけあった。
「このアリの分布状況を見れば見えてこないか? 真に安全に第五層に辿り着けてしまうルートが」
俺は第四層の入口から指でなぞり、モンスターに絡まれないルートを明示した。
「おお……! これは最短ルートに比べると数倍時間はかかるが、このルートを静かに通れば、アリに感知される事なく第五層に侵入できそうだ……!」
「すごーい」
「これがショウタさんの感じていた違和感ですか」
「そしてもう1つ、鳥の配置だ。大地の裂け目に奴らは陣取っているが、裂け目の数が7個あるのに対して、奴らの巣は全部で4つしかない。残りの3つは何なのか、という話だ」
俺は第五層へ繋がる安全ルートの途中から、分岐した別の小道を指でなぞり、アリの密集地を避けながら目的の場所へと指を運んで行く。
「おお……!」
「なるほど、盲点でした」
「すごいですわ!」
「安全ルートで辿り着ける、レイヴンが巣食っていないこの裂け目の直下にこそ、上層へ繋がる道が隠されているはずだ!」
さーて、答え合わせと行きますかね。
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