ガチャ421回目:兄弟として

 そうして俺が作った弾丸を使って、ミスティは迫り来るアリの群れを全て撃退したところ、結果は一目瞭然だった。

 俺が作った12発の弾丸は高威力かつ、高い貫通性能を誇り、倒されたモンスターはアイテムを全てドロップ。逆に、それが尽きた後にミスティが新たに生み出した弾丸は威力は高いが貫通するほどのものでもなく、ドロップもまた渋い物へとなるのだった。


「えっと……。つまり、どういうこと?」


 その結果は俺の想定通りの物であったが、ミスティは混乱しているようだった。

 エスも困惑しているようだったが、慌てるミスティが珍しいのかこっちはまあ少し冷静というか、鑑賞する事を優先したようだが。


「まあ、簡単に言うと弾丸は作った奴のステータスに依存しきっていて、その時銃を撃った本人のステータスは関係ないって訳だ。いや、一応攻撃だから、撃った本人のスキルはちゃんと反映されてるのかな? まあともかく、ミスティが作れば通常弾、俺が作れば徹甲弾になるみたいな感じかな?」


 そしておまけに、全アイテムドロップの恩恵付き、と。

 おまけが本体みたいだな。


「つまり、ショウタの方が私より強いって事?」

「そうなるな」


 こちとら全ステータスが『統率』込みで32000あるんだ。Sランクがどの程度のステータスを有しているかは知らないが、単純に考えても俺はエンキ達の10倍はあるわけだからな。

 エスやミスティはエンキ達よりは強いだろうけど、圧倒的格差があるようには思えない。俺の予想では、低くて5000、高くて8000から9000といったところだろうか。そんな2人が作る弾丸より、俺が作る弾丸の方が強いのはある意味当然の話だ。


「……全然強いオーラを感じないのに。変なの」

「オーラが全てじゃないって事だ。まあ、指標にはなるかもしれんが、当てにし過ぎるのは良くないぞ」


 特に俺なんかにはな。


「わかった。じゃあ、アイラ。ショウタが作った弾丸なら、私も戦って良い?」

「そうですね……。問題点の一つは解決されましたが、2つほど問題が残っています」

「まだあるの?」


 しょんぼりするミスティと興味深そうにするエスに、アイラは『真愛のネックレス』の経験値共有効果。並びに『真愛の指輪』の討伐者を俺に誤認させる効果を説明し、彼女達の場合とミスティとでは同じ結果が得られないことを説明した。


「なるほど、経験値の共有か。そして100体討伐の判定が、弾丸を製作しただけでは兄さんの判定にならない可能性がある、と」

「むぅ。それ、予備とかはないの?」

「ありません。それに、貴女に対して愛があると?」

「むぅ……」


 俺がいくら流されやすくても、今のミスティに対して深い愛情は流石に持ち合わせてはいないんだよなぁ。可哀想だなとか、大変そうだなという『情』はあるかもしれないけど。

 それに、今あるのは通常版の『愛のネックレス』だけだ。アレは一応経験値の共有化は出来るし、ここのアリは100体討伐とはどうにも違う感じがするから、倍化は有効ではないにしろ、ドロップが出てくれるなら一緒に戦うのも有りなのかもしれない。

 けど、サクヤお義母さん曰く、ネックレスの説明文は『心で通じ合うパートナー』とあったらしい。


 アレの定義は曖昧だが、体を重ねる前のカスミにも有効だったことから、お互いを信頼し、思い合うことが大事なんだと思う。そういう意味でも、まだミスティに渡すのは時期尚早だろう。それに、あれは俺が彼女達を想って贈ったものだ。カスミの時は例外だっただけで、あまりこちらから貸し出すというのは心情的にもよろしくない。

 俺はその点も踏まえてミスティに説得すると、彼女は納得してくれたようだった。


「……わかった。後ろに下がってる」


 自分に出来る事はないと悟ったのか、ミスティが項垂れながら下がって行く。心なしかアホ毛も萎れてる気がするな。


「ご主人様。彼女の事はお任せください」

「ああ、頼む」


 ミスティの事は皆に任せて、俺は引き続き巣の攻略をする事に決めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 入り組んだアリの巣を端から端までマップに埋める事数時間。

 途中、何度か洞窟を出て、峡谷に繋がる事があった。上を見ればやはり空が広がっていて、中には真上に赤点や赤丸が表示されることもあった。その峡谷でも、洞窟内の広間同様、いくつもの洞窟へと繋がる分岐路が広がっていて、このマップスキルが無ければ第四層の完全攻略は数週間は要すること間違いなしの複雑さをしていた。

 峡谷ではアリは姿を現さないことから、途中俺達は昼食休憩を取り、再び探索を開始。その結果、15時頃には第四層に広がるアリの巣は、未探索の通路や広場などほとんど残っていない状態まで持って行くことができた。


 しかし、どれだけ狩ろうと探索しようと、一向にレアモンスターが現れる事は無かった。

 俺はエスとともにマップを睨み、原因を探し続けていた。


「……まるで見つからないな」

「そうだね。残っている通路も、構造上からして広間があるようなスペースは無さそうに見える。恐らく、これらの通路を調べても、別の通路に繋がっているだけか、行き止まりになるだけだろう。そんな小さな隙間にレアモンスターが隠れているなら、兄さんが戦う音に釣られて出てこないというのは考えにくい」

「ああ。俺もそれなりにアリの存在は遠くからでも認識できるようになったし、俺より感知能力の高いエスやミスティが、レアモンスターのデカい気配を見逃すとも思えない」

「そうだね……。なら、あと考えられるとしたら……」

「ああ、ここの空白地帯だろう」


 アリの巣は一見不規則かつ縦横無尽に地中を広がっているように思えたが、それでもマップを見れば怪しいところは一目瞭然だった。明らかにとある空間を避けるようにして巣が形成されていたのだ。

 そこに何かがあるのは間違いないのだが……。どれだけ巣を歩き回っても、そこに繋がる道は見当たらなかった。


「問題は、道がどこにあるかだが……」

「間違いなく、ここじゃないのかい?」


 エスがある地点を指した。

 それは、アリの巣とは別枠のはずの、レイヴン達が支配する上の大地だ。


「まあ、それはわかってるんだ。明らかに、その空白地帯の直上に、探索したことのない大地の裂け目があるんだからな」

「じゃあなんで調べに行かないんだい?」

「それは簡単だ。からだよ」


 ダンジョンってやつは、理不尽なところはあるが、それぞれに特徴的なルールや、根底にある基盤が存在している。だから、アリの巣が複数に分かれているのは良いんだが、レイヴンエリアを通らないと辿り着けないというのは納得がいかないんだよな。

 それに、そのレイヴンエリアへの移動方法も、スキルを駆使しなければ常人では辿り着けないというのも違和感を感じている。必ずどこか、上につながる道が用意されていてもおかしくはないんだよな……。


「ふむ。兄さんの考えはわかったけど、昨日みたいに上に飛んで行って、そこで例の裂け目を見に行くのではダメなのかい?」

「ああ、ダメだ。なんかズルしてるみたいだし、負けた気になる」

「……兄さんは誰と戦ってるんだい?」

「強いて言えば、俺の信念かな。それに、ここまで来たら正攻法で答えを得たいじゃん」


 そう告げると、エスは可笑しそうに笑う。


「……はは、ほんと楽しそうにダンジョンを攻略するんだね、兄さんは」

「ああ。この瞬間こそ生き甲斐ってやつだな。それに、エスはこうやって謎を1個1個解いていくのは楽しくないのか?」

「……謎を解く、か。確かに、ちょっと楽しいかもしれないね」

「じゃあ、ここで答えを先に見に行くのは?」

「ナンセンスだね」

「だろ?」


 そうして俺たちは、あーでこないこーでもないと色々と意見を出し合い、可能な限りマップを埋めながら帰路へとつく。流石に日も暮れてきたし、残りの完全攻略は明日に持ち越しとなったのだった。

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