ガチャ418回目:Sランクの実力

 エス達の国にいる他のSランクというのには興味は尽きないが、今はマップを埋める事に集中しよう。

 会話もそこそこに話を切り上げ、俺達は再びアリの巣状に広がる洞窟を進み続けた。


 このダンジョンはどうやら、構成のほとんどが通路と広間で成り立っているらしいのだが、困った事にその作りが人間向けでは無かった。まあ、アリの巣状になっている以上、そうなってる可能性も考えてはいたが、いざ目の当たりにすると困惑もするというものだ。

 なにせ、通路を進んで広間に繋がったと思いきや、その出口が地面から1メートルほどの高さにあったり、酷ければ垂直に落ちて天井に繋がっていたりする。しかも、それが一度通ったことのある広間だったりするからタチが悪い。

 マップスキルか、それに準ずる技能がなければ間違いなく迷子になっていただろうな。そして、通路がそんな位置にあるということは、すなわち敵の出現ルートも正面からだけじゃなく、壁や天井から出現する可能性も加味しなければならない訳だ。探索も大変だし、モンスターの警戒も多方面にしなきゃならない。こりゃ確かに、人がこっちに来ないのも当然だった。


「にしても、平和な第一から第三に比べて、急に探索難易度上がったなぁ。他もこんな感じに難易度が途中から爆上がりしたりするんだろうか」

「ダンジョンによる、としか言えませんね。ただ、今回の場合ですと見え見えの罠に突っ込んだらこうなる、というだけに過ぎません。他の冒険者のように、安全圏で狩りをする場合ならこのようなことにはなりませんから」

「それはそうか。しっかし、安全圏での狩りねぇ。刺激がないのはつまらなさそうだな」

「ショウタさん、彼らは冒険をしていないのではなくて、安全第一なだけですよ」

「そうそう。ショウタ君みたいに一通り試して通り過ぎるならまだしも、彼らはここで生計を立ててるんだからね。自分の実力で出来ることと出来ないこと、それぞれちゃんと把握してるはずよ。だから冒険も、無謀なこともしないわ」

「……ごめん、調子に乗った」

「初心忘るべからずよ」

「うん」


 危険を冒せないからこそ、俺が攻略したデータは安全圏に引き篭もっている彼らにはとてつもなく需要があるわけだな。『初心者ダンジョン』では精巧な地図の利点しか需要が思い浮かばなかったが、ここほど立体的に入り組んでいて、かつモンスターの動きが厄介なダンジョンなら……。例えば、モンスターが最大に出現した状態のデータなどがあれば、どこが安全でどこが危険なのか、一目瞭然だ。

 精巧な地図情報と、モンスターの出現分布図。……やっぱりこのマップスキルが、『レベルガチャ』ででたスキルの中で飛び抜けて優秀だよなぁ。


 そうして更に200匹くらいアリを討伐した頃。俺のマップには、第四層の半分くらいがアリの細道で埋められていた。正直道が全部細かすぎて、これを実体データとして落とし込もうとすると、滅茶苦茶大変そうだな……。俺のマッピングデータをデータ化する際は、俺もアイラを手伝うか。

 俺程度で力になれるかはわからんが。マップからアイラに視線を移すと、素敵な笑顔で受け止められた。


「ご主人様のその気持ちだけで十分です」

「そうか? でも必要あったら言ってくれよ」

「はい。それと1つ宜しいでしょうか」

「うん」


 そう答えると、ミスティが前に出てきた。


「ショウタ、次の広間では私が戦っても良い?」

「え?」

「実は私達で話し合いをしたところ、1度彼女の実力がどの程度の物なのかという話になりまして。彼女を迎え入れる場合、一番のメリットは戦力の増強が目当てになるのでしょうが、それがどれほどのものかご主人様も把握しておくのがベストではあるかと」

「確かにな」


 エスとミスティの2人がSランクというのは雰囲気からしてなんとなくわかるが、どの程度の実力者なのかまるで知らないのも問題ではあるか。エスとは軽く話した限りでは、冒険者歴としては1、2年くらいらしいが、ミスティはもっと長いんだとか。冒険者歴が俺よりも短いエスですら、本気でやっても勝てるか微妙なくらいだし、それより長くやってるミスティの実力は俺も純粋に気になっていた。

 数百と倒してまるでレアが湧く気配がないし、俺としても良いタイミングではあるが……。ここでやるのか?


「ミスティ、得意な戦場ってあるか? ここは狭いし、四方八方から敵が押し寄せてくるから、それなりに大変だぞ?」

「大丈夫。この程度の敵なら警戒は不要だし、私は集団相手の方が得意」


 流石、場数が違うか。


「よし、それじゃ見せてくれ」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そしてミスティとバトンタッチをし、隊列を入れ替えて通路を進み続ける事10分ほど。今まで見た中でも、かなり巨大な広場に到着した。そこには目視可能なだけでも30体近いワーカーアントが蠢いていて、それを守るように10体以上のソルジャーアントが防備を固めていた。天井や壁には所々空洞があって、その奥からも無数の気配を感じる。

 それに対してミスティは、特に気負うことなく何気ない事のように前方へと飛び出し、広間の中心部に降り立った。


『ギチッ!』

『ギチギチ!』


 突然現れた存在に、アリ達は驚き固まることなく本能のままに突撃を始める。

 傍から見ればか弱い少女に群がる数十匹のモンスター。つい目を覆いたくなるような光景だったが、ミスティは懐から紫色の光を放つ物体を取り出した。


『ダァン!』


 ミスティがその場でくるりと回ると、乾いた音が短い間隔で4回鳴ると同時に、最も接近していたワーカーアント達の頭が吹き飛んだ。


「え?」


『ダダダ!!』


 続けてまた同じ乾いた音が鳴り響くと、今度は先ほどより遅れて突撃していた、10体のワーカーアントの頭が吹き飛んだ。

 そうしてミスティがくるくるとその場で回り続けるたびに、周囲のアリ達は的確に頭を打ち砕かれ、煙となって消えていく。あまりに一瞬の出来事に場は静まり返るが、先ほどの騒音を受けてすぐにまた増援が現れた。

 今度は周囲全体ではなく、特定の方向からの侵攻ということもあってか、ミスティは通路に向かってまっすぐ腕を伸ばした。その手には、先ほど見た紫色の光を放つ謎の物体があり、それをミスティが扱うことであの音と共に敵の頭が吹き飛ぶようだ。


『ダダダダ!!』


「音の正体は、アレか。……『真鑑定』『真理の眼』」


 名称:【No.06】魔導銃ケルベロス

 品格:≪幻想≫ファンタズマ

 種別:銃器

 武器レベル:84

 説明:世界に10種あるファンタズマウェポンの1つ。地獄の門番を名に冠する唯一無二の武器。装備者の魔力を消費して専用の弾丸を作成する。弾丸の威力は作成者のステータスによって変化する。装備者の技量に応じて複数の形態変化能力を持つ。装備者の全ステータスに大幅なボーナス。

 形態:二丁拳銃


「……『幻想ファンタズマ』武器」


 初めて目にした最高位の武器。

 その衝撃と共に、踊るように戦うミスティの姿がいつまでも目に焼き付くのだった。

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