無料ガチャ035回目:サンダース兄妹2
自分たちの拠点へと戻ってきたエスとミスティは、各々で寛いでいた。エスは紅茶を淹れ、ベッドに腰掛けるミスティと並んで座る。紅茶を一口飲んだエスは、改めて今の自分達の状況を振り返っていた。いつもなら、安全地帯の拠点内であろうとも、いつでも戦えるように装備は外さず、最低限の警戒はしているところだ。
けれど、ここは平和な国の平和なダンジョンであり、隣にはこの国で最も有名かつ、実力と信頼を兼ね備えた義兄がいる。
ダンジョン内でも気の抜けるこの状況に、エスは不思議な感覚を覚えていた。
「それで、どうだったミスティ。彼らを間近に見た感想は」
その感覚は妹のミスティも同様だったようで、装備を外して部屋着でいる事が落ち着かない様子だった。それでも紅茶を口に含むと、少しずつ緊張がほぐれていく様子だったが。
「……うん。個々の強さもそうだけど、団結力が強い。それに、皆すっごく優しい」
「ああ、そうだね」
「いくら誓約書があっても、怪しい相手にあそこまで気を許してくれたりはしない。それに、いつ寝首を掻いてくるかわからない相手を、別の拠点で寝泊まりさせるなんてもっとありえない。本来なら、監視下に置かれてもおかしくはないはず。けど、そんな素振りはまるでない」
ミスティはきょろきょろと部屋を見回すが、探りを入れられている雰囲気も無ければ、危険な気配も無かった。
「あの地図スキルがあれば監視カメラは不要かもしれないけど、あの様子だと使わない可能性が高いね」
「ショウタはそもそも、覗き見るという発想が無かったみたい。それに、あの誓約書だけど……」
「ああ、ミスティも気付いたかい? あの
「うん。露骨すぎて隠し文字とか疑った」
しかし、何度確認しようともはっきりと記載されている条項以外に誓約文は盛り込まれていなかった。エスとミスティは、こっそりと専用のスキルまで使って秘密を暴こうとしたが、それでも何も無かったのだ。
「あれでは、やろうと思えば簡単に情報を持ち出すことも出来てしまうだろう。……ただ、これは用意した向こうも気付いているはずだ。なにせ彼らの背後には『極東の魔女』が控えてるくらいだ。きっと、僕達の知らないところで違反行為を感知して取り締まる手段があるはずだ。もしくは、この契約に穴があることは承知の上で、この程度の情報流出は問題ないと踏んで、僕達の忠誠心を確認しているのかもしれない」
「……エス、今も痛いんでしょ。やせ我慢してる時の顔してる」
「あれ、バレたかい? はは、ミスティには通じないか。まあでも、ちょっと思考に浮かべるだけでこのレベルの痛みを発生させる『誓いの誓約書』か。相当品質の高いものを用意していたようだ」
優しさだけでなく、きちんと用心深さも持っている義兄の婚約者達に、エスは素直に感嘆した。
「エスが時々痛みを我慢しているのは、ショウタは気付いてないようだったけど、気を付けてね。私は、ショウタを裏切る気は無いんだから」
「それはもちろん、僕もだよ。今日彼らと行動を共にして改めて理解した。彼ら……いや、兄さんほど、ダンジョン攻略に向いている人間はいないよ」
「ん。今日のショウタ、なんてことのないように3種類のレアモンスターを討伐してたけど、そのどれもがこのダンジョンでは未発見だったんだよね?」
「ああ。僕が事前に集めたこのダンジョンに、鳥モンスターの情報はなかった。まさか、目の前に広がっている道よりも、空にぽっかりと開いた隙間を真っ先に調べようだなんて、普通思いもしないよ」
「普段自由に飛び回ってるエスでも、その発想は出なかったんだ?」
「恥ずかしいことにね。あの空は高度限界が設定されていて、あそこまで高くは登れないだろうと、飛ぶ前から結論付けてしまっていたよ。つまりは僕も、凡人の域を出なかったということだね」
「どんまい」
ミスティはエスの肩をポンポン叩いた。慰めているつもりなんだろう。
「……ねえ、エス。ショウタって、本当に強いの?」
「どうしてそう思うんだい?」
「昨日、初めてエスと遭遇した時は、エスがちびるくらい覇気を出したんでしょ? でも、今日見てる限りでは、そんなに強くなさそうに思えたの」
「別にちびってないんだけど……。でもそうだね、確かに兄さんは強さを誤魔化すのが上手いのか、傍から見たら弱く見えるのもわかるよ。僕も始めは混乱した」
「ショウタの強さ、よくわからない。レアモンスターとの戦いが終わった時にちょっと反応があるけど、すぐ薄くなっちゃうし。私からしてみれば、ペットの子達の方がよっぽど強いオーラを放ってるよ。ステータスもオール3200だし、ドラゴン並みの脅威」
「そうだね。あれも兄さんの秘密なんだろうけど、『確定ドロップ』と合わせて謎が多い人だよね」
「うん」
ショウタの不可思議な強さに、兄妹の話題は尽きなかった。
「そういえばミスティ、兄さんに貰ってもらうってさっき宣言してたけど、あれはそういうことで良いのかな?」
「うん。能力と強さがあって、『征服王』みたいに性格が終わってなくて、うるさくなくて、ユーモアがあって、私と会話できる人なら誰でもって思ってたけど……」
「……その条件、割とシビアだよね?」
「ショウタなら……。うん、私を対等に扱ってくれそう。強さはまだよくわからないけど」
エスは、ミスティの口角がいつもの数ミリ上がっている事に気付いた。
「好きになった?」
「……たぶん」
「そっか」
妹が異性を気にしたことは過去に何度かあったが、いずれも好きとまでは行かなかった。
今度こそ上手くいってほしいとエスは願う。
「あのね、エス」
「うん? なんだいミスティ」
「今回の遠征……。ついてきてくれて、ありがと。故郷のためとはいえ、ショウタに会いに来るの、最初は不安だった。私、口下手だし、愛想もよくないから、他の子より可愛くないし」
「そうかい? 確かにミスティは、感情を表に出さないけど結構わかりやすいところがあるし、そこがまた魅力なんじゃないかな。僕からすれば十分可愛いと思うよ。妹への贔屓目をなくしてもね。兄さんも、ミスティの機微は見抜いてくれてると思うな」
「……そうかな?」
「うん、きっとそうだよ。だから、兄さんに認めてもらえるよう、今後は恥じらいを覚えなきゃね」
「……むずかしい。エス、教えて」
「それは僕の領分じゃないと思うなぁ……」
それに、ミスティの裸癖が直るように、昔は色々と矯正を施してみたが、いずれも失敗に終わっていた。その点においては、エスは自分ではミスティのソレは直せないと諦めていた。
「そうだ、兄さんの婚約者達に頼った方が良いよ。彼女達に認められるのが兄さんとの関係を進める上で、一番の近道だと思うし。一石二鳥ってやつだよ」
「ん、わかった……。頑張る」
ミスティが兄さんと結ばれますように。そう、エスは心から願った。
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アンケート結果が出ましたhttps://twitter.com/hiyuu_niyna/status/1747089838183190740
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