ガチャ408回目:新たな同行者達

「しっかしエス、お前の指定したダンジョンはだいぶ特殊みたいだな。その次の階層への移動ってのは、条件を満たした奴しかできないのか?」

「ああ。チームで動く場合はチームメンバー全員で条件を達成しなければならないし、一定の周期で条件が変化するんだ。だからチームのメンバー全員の条件を揃えても、その間に条件が変わってしまっている場合もある。だから少数精鋭が求められるダンジョンでもあるんだ」

「うへ、そりゃ大変だ。その条件ってのは、どこにもヒントはないのか?」

「いや、ダンジョン内のどこかに出現するようになっていて、分かりやすいものから解明できていないものまで様々だ。特に潜れば潜るほど、答えの見つかっていない条件も増えてくる。そして第五層では、いまだにヒントすら見つかっていない状態なんだ」

「なるほど。そりゃ大変そうだ」


 そして面白そうだ。

 今まで俺が挑んできたダンジョンとは、仕組みも仕様も構成も、何もかも違う雰囲気がある。正直そんなダンジョンが目と鼻の先にあったら、『ハートダンジョン』は放っておいて、真っ先に挑んでいたのは間違いないな。


「今の話を聞いて、ほとんどの冒険者は嫌そうな顔をするんだけど、君は別だね。とんでもなくワクワクしているようだ」

「そりゃあな。ダンジョン攻略が俺の生きがいだしな」

「へぇ……。僕は今まで、ダンジョン攻略に楽しさを見いだせた事は無かったな」


 まあ、あんなに切羽詰まっているようだとな。あんなに強いんだから、もう少し余裕を持てたらいいのに。しっかしここのところ、魅力的なダンジョンが増えてきたよなぁ。

 サクヤお義母さんが運営する『中級ダンジョン』。ゴーレムコアの上位が存在する『機械ダンジョン』。そしてエスが求める謎多き『幻想ダンジョン』。ちなみにこの『幻想ダンジョン』ってのは俺が適当に名前を付けただけだったが、向こうではそれが正式名称らしい。

 『幻想ファンタズマ』を2つも輩出したダンジョンであると同時に、次の階層へ進む条件がまるで幻のように移り変わる事からそう名付けられたとか。うーん、魅力的過ぎるお話だ。

 より取り見取りで実に悩ましいが、まずは目の前の事象から取り掛からねばな。


「それじゃ、話も終わったし、改めて俺らは行くぞ。このダンジョンを攻略しなきゃだからな」

「あ、待って! ……うっ!」


 今度はミスティが待ったをかけた。

 またかよと思ったが、振り返るとそこにはうずくまって頭を押さえるミスティと、心配そうに彼女を支えるエスの姿があった。


「だ、大丈夫か?」


 どうやら俺が『邪魔をされた』と一瞬認識したのが原因のようで、酷い頭痛が彼女を襲っている様子だった。

 幸いにも、そんなミスティの様子を見て『邪魔』という考えが吹き飛んだ瞬間には、もう痛みはなくなったようだが……。早速効果を発揮しているところから、『誓いの誓約書』の効果が本物である事を理解させられたが、③の条件は他と比べるとちょっと条件が曖昧な感じだったからな。どこまでの行動が『懲罰』判定になるんだろうか。少し気になるが、今はミスティだな。


「あー……。ごめんな?」

「い、いいの。私が呼び止めたから……」

「スキルは使えるか?」

「……うん。大丈夫みたい」


 痛みは一瞬だった為か、大丈夫そうではあったがミスティは涙目だった。

 年下の女の子を俺の不注意で痛めつけたくはないし、これからは思考に気をつけよう。


「それで、どうしたんだ?」

「私も、連れて行ってほしい」

「そりゃまたどうして? 今回の誓約上、協力を呼び掛ける事はあっても今のところミスティは必要ないぞ」

「それは……」


 実際戦力に不足は無いからな。第四層や第五層も、最低でもDランクくらいあれば、入る事を許可されてるみたいだし。言い淀むミスティに対して、エスは沈黙を貫いていた。その様子は誓約の関係で邪魔をしないというよりは、ミスティの行動を見守っているようにも感じた。


「私は、ショウタの事、よく知らないの」

「まあ、それは俺もそうだな」

「だから、あなたの事を知る為に、一緒に行動したい。決して出しゃばったりしないし、命令があるまで大人しくしてる。邪魔したりはしないから、お願いします」


 頭を下げるミスティに、俺はどうしたものかと困り果てた。

 そう思っていると、彼女達は俺の横へと並んだ。


「つまりミスティは、ショウタ君がどんな男なのか気になってるって事?」

「ん……。そう、かも」

「それは異性としてですか? それとも同じSランクとして?」

「両方、かな」

「そのバチバチは危ないですわ。消すことは出来ませんの?」

「咄嗟の不意打ちに対処できなくなるけど、可能」

「では消しておいてください。あなたに危険が及ぶ前に、私達が阻みます」

「わかった」


 フッとミスティから感じていた威圧感が取り除かれたのを感じる。おもむろに手を握ってみるが、帯電もしていなさそうだった。


「あっ」

「お、平気だ」

「ご主人様。いくら婚約者候補とはいえ、いきなり掴みにいくのはどうかと思います」

「あ、ごめん」


 先ほどの帯電状態が頭に残っていて、どうなったのか気になり過ぎてしまった。ノンデリがすぎたか。

 しかし、慌てて放すも今度はミスティが俺の手を掴み、ぎゅっと握ってくる。

 

「いいよ。もっと触ってほしい」

「お、大胆。でもショウタ君ハーレムに入りたいなら、あたし達を納得させる必要があるわよ」

「うん、わかってる。……よろしく、アキ」

「よろしくねー」


 そうして順番に皆と握手をしていく。まあ、問題は無さそうだしついてくる分には良いか。誓約の関係上、俺の能力を伝えても問題は起きにくいだろうしな。まあ、まずは様子見の為にカスミ達と同じくらいの情報に留めておくが。

 ミスティと一緒に挨拶していたエスを手招きする。


「エスはどうする」

「そうだね……。兄さんと一緒に行動するのも楽しそうではあるけど、ミスティとの関係を深めてもらいたくもあるし、実に悩ましいね」

「誰が兄さんだ。お前はまだ、俺に妹をあてがわせたいのか? 大事な妹なんだろ?」

「大事な妹だからこそだよ。ミスティはSランクに辿り着けるほど強くはあるが、どうせなら守ってくれる男とくっついてもらいたいからね。兄さんも妹がいるんだ、この気持ちはわかるだろう?」

「まあ言いたいことはわかるが……」


 だからこそ俺は、誰かにやるくらいなら自分が。ってなったわけだし。


「お前じゃダメなのか?」

「僕達は、そういう関係にはなれないかな。どこまで行っても血のつながりを感じるんだ。ほんの数日前、僕達は数年ぶりに再会した。ミスティはより魅力的な女性になった事は認めるよ。けど、それでも兄妹以上の関係にはならないと思う。お互いにね」

「そうか。なら、俺からどうこう言っても仕方ないな」


 世界がそういう風になっても、別にくっつかなきゃいけない訳でもないしな。

 そこは当人たちの感情次第だし、Sランク同士お似合いでも無理に深める必要もないだろう。


「それで、結局どうするんだ」

「兄さんと関係を深めるために、僕達は他のSランクを出し抜いてここまで来たんだ。そろそろ連中が追いかけてきそうだし、牽制しに行こうかな……」

「そういう事でしたら、私が奥様に連絡を入れましょう。このダンジョンを攻略する間なら、時間稼ぎが出来るかと」

「おぉ、『極東の魔女』の協力が得られるのか。敵としては非常に厄介だけど、味方になるならここまで頼りになる存在はいないね」


 確かに、サクヤお義母さんならなんとかしてくれそうという謎の安心感はあるよな。

 まあ例えば、世界中に俺が今『ハートダンジョン』を攻略中であることを公開すれば、攻略専念の為にこれ以上の邪魔はしないように宣言をするだけで、周囲の目を気にして入ってこれなくなるとか。

 一般客も、第三層まで完全攻略済みと伝えてしまえば、今まで通り遠慮なく入って来てくれるだろうし。むしろ集客効果が見込めるかもな?

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