ガチャ407回目:Sランクの誓約

「待たせたな、エス」

「ああ、話し合いは済んだかい? ……待て。まさか、それは」

「やっぱ知ってたか。『誓いの誓約書』」


 俺は知らなかったけど。


「ああ。だが、まさかそんな物を準備しているとは思わなかった」

「不安ならやめておくか?」

「いや、むしろ都合が良い。それを使ってくれるという事は、君もその誓約に逆らえなくなる。つまりは、リスク次第ではあるが、ダンジョン攻略をしてくれる可能性が飛躍的に高まる事を意味している。だが、受けるかどうかはそこに提示される条件次第だね」

「まあ、そんなに警戒するほどの事を書くつもりはないさ」


 途中から彼女達に完全に任せちゃってたから、ちょっと自信ないけど。


「では読み上げます。優先度の高いものから条件を伝えていきます。後半になるにつれて優先度は落ちますので、条件の変更であったり削除などの要望は、代案があれば受けましょう」


 そう言ってアイラは、『誓いの誓約書』とは別に用意していた紙を取り出し、上から順番に読み上げていった。

 

 ①:エスとミスティは、アマチショウタの不利益になり得る情報の一切を他者と共有してはならない。

 ②:①について、アマチショウタと当人が許可する人物は対象外とする。また本契約を反故にしようとすると、本来の罰則に加え意識が強制的に刈り取られ、アマチショウタに通知が行く。

 ③:エスとミスティは、アマチショウタの冒険の邪魔をしてはならない。

 ④:エスとミスティは、アマチショウタとその関係者に悪意を持って危害を加えてはならない。

 ⑤:アマチショウタは、エスの指定するダンジョンを1つ、5年以内に攻略し『ホルダー』にならなければならない。

 ⑥:⑤の条件達成時、エスとミスティは自身が持つスキルの全てを開示しなければならない。


 本来の誓約書には甲とか乙とか付けるんだろうけど、今はわかりやすくするために簡潔にまとめてくれたな。特に①と②に関しては、一番大事な部分だからか、罰則の追加も込みで他よりも厳しい感じに仕上がってるな。

 あとは⑦から先は、こまごまとしたものになっていて、外国のダンジョンを攻略するための根回しや、情報工作の協力を求めるといったもので、詳細は省くが人質うんぬんは一切含まれていなかった。

 それを聞いたエスとミスティは、拍子抜けしたような顔をしていた。


「「……え?」」


 うちの彼女達も鬼では無かったようだ。

 まあでも、⑦番以降は結構吹っ掛けてたというか、ダンジョン攻略をするにあたって、全力で支援をしてもらうためのものがほとんどなんだけど、後から地味に効いてくるタイプのものがちらほらあったな。流石専属2名を擁する俺の婚約者達だ。俺の安全圏確保の為に、その辺りにはまるで遠慮がない。

 驚いたまま困惑を続ける2人に対し、アイラは誓約書に記載予定の紙を丸ごと渡した。エスとミスティも、紙に穴が出来るくらいに何度も何度も繰り返し誓約内容を確認して行った。


「……本当に、これだけかい?」

「少ない……」

「なんだよ不満か?」

「まさか! もっと要求されると思っていたんだ。報酬を先払いさせた上で危険な時は僕が身代わりになるとか、捨て駒にするとか、君の命令には絶対服従だとか、それくらいは要求されるだろうと覚悟していた。それがこんな、君の情報を秘匿するだけでダンジョン攻略を誓約するなんて。……本当に、こんな条件で動いてくれるのかい?」


 そんなこと想定してたのかよ。しかも今の言い方からして、そのレベルの誓約なら受けるとでも言いたげだったな。……俺は悪逆非道の魔王か何かか?

 まあでも、自国の『ホルダー』に頼まず、大事な妹を差し出してまで他国に現れた俺を頼って依頼をしてくるくらいだもんな。となると、誓約を交わされそうになったのかもしれないな。

 そんな風に思っていると、ミスティがまだ不安そうにこちらを見つめてきた。


「……ショウタは、私が要らないの?」

「いや、要らないっつーか……。そりゃ、戦力としては滅茶苦茶気にはなるぞ? Sランクなんてコネとかじゃ絶対に辿り着けない境地だろうし、どんな風に戦うのか見てみたいところだ。けどな……。確認するが、ミスティは、俺より年下だよな?」


 多分だけど。『直感』がそういってる。

 そして双子である以上、エスも自分より下になるんだよな。こっちは年下って感じが全然しないが。


「うん、そうだよ」

「なら余計にだ。自分より年下の女の子が最上位の『Sランク冒険者』なんだぞ? 俺なんてこの域にはなったばっかだけど、ここに来れるなんて、並大抵の努力じゃ成し得ないことだ。とんでもない偉業だと思うし、俺は素直に尊敬できると思ってる」


 俺の昇格は、趣味でやりたいことやってたら勝手に上がって行ったようなもんだしな。

 検証が上手くいった結果ではあったが、結局は運任せに遭遇して討伐したレアモンスター情報を次々と公開して、丁度良く目の前にやってきた『スタンピード』を平定しただけだ。あの方法無しに、『Sランク冒険者』の域に達せられる2人は素直に凄いと思う。


「そんな2人に、酷い要求なんて出来る訳ない。あと、女の子に無理やり迫るのは嫌いだしな。もしも仮に、ミスティが彼女達のように俺に惚れたってことなら話は聞くけど、そうでないなら無理して俺に嫁ぐ必要はないさ。だから、こんな人質みたいな真似はやめてくれ。もっと自分を大事にしなさい」

「「……」」

「ではご主人様。今の言葉を誓約に組み込んでみますか?」

「『自分を大事に』って? いやいや、その誓約は曖昧すぎでしょ。なしなし」

「ふふ。はい、畏まりました」


 そう言ってアイラは、二人の前にやって来て改めてこの内容で問題ないか確認をした。2人は少しの間困惑は続けていたが、最終的にエスが了承。アイラが誓約書に清書しなおし、俺とエスとミスティはサインを入れた。

 その瞬間、『誓いの誓約書』から何らかのエネルギーみたいなものが発生し、3人の身体の中に分かれて入ってくるのを感じた。これが誓約かな?

 まあ、俺は5年以内に外国のダンジョンを1つクリアすればいいだけだ。……あれ? そういえば確認してなかったけど、そのダンジョンって……。


「なあ、エス。そのダンジョンって、何階層まであるんだ?」


 2人は困ったように顔を見合わせ、口を開いた。


「すまないがわからないんだ。特定の手順を踏まないと次の階層への入口が現れない特殊なダンジョンでね。僕はソロで挑んだことがあるんだけど、5階層が限界だったし、他の誰もそこより先を見た事が無いんだ」

「Oh……」


 あー……。これは、あれだな。最初に俺が『期限なんて半年くらいで良くない?』って提案した時、彼女達が断固拒否して10倍の5年に変えてくれたんだよな。

 安請け合いしたせいで、危うく約束を違える羽目になるところだったわ。

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