ガチャ405回目:もう1人の
第三層へやって来ても、俺達は無言で進み続けた。
デートコースから外れ、人通りの少ない第四層へ続く道へと侵入し、尚も前進を続けた。そうして辺りから完全に人の気配が消えたところで振り返る。
「ここなら良いだろう」
「うん、ようやく落ち着いて話せるね。さて、何から話そうか」
「……そうだな。じゃあ昨日聞きそびれたが、お前の目的から聞こうか。こっちもなるべく正直に答えてやるから、お前も聞かれたら素直に応じろよ」
「おお、話が早くて助かるね。じゃあ回りくどいことは無しにしよう」
まあ、昨日の反応からして、コイツは俺と仲良くやれるタイプかの確認をする為にわざわざ直接目の前に姿を現したんだろうが……。何を聞いて来るかな。
「では単刀直入に言おう。君は今後も自分の意思でダンジョンに潜り続けるつもりかい? もしくは、どこかの組織に所属することで富も名声も全てが得られるとして、その道を征くかい?」
「当然前者だ。俺は誰かのためだとか、人類のためだとか、崇高な理由で動いちゃいない。金も名誉も興味ない。単に俺のやりたいことが、たまたま人々の、果てには世界中のためになっていた。ただそれだけのことだ。もし俺のやることが人の役に立たなかったとしても、俺はダンジョンの謎を解き明かす為に動き続ける」
「なるほど。ではもう1つ確認したい。もしもダンジョンの秘密が目の前にあるとして、それを解き明かすには周囲に被害が出る可能性があるとしよう。としたら、君はどうする?」
「最善の下準備をして被害を最小限にさせた上で秘密を解き明かす。俺の趣味に他人を巻き込んだら寝覚めが悪いからな」
「ほう……」
今まで『ダンジョンコア』に会った際、毎回のように『人為的なスタンピード』を起こせるかと聞いていたが、あれも今の事に少なからず関わっている。
もしも人為的に起こせるのであれば、人が少ない場所にあり、かつ低難易度のダンジョンでなら、それを引き起こすことで簡単に『管理者の鍵』が獲得できるかもしれないからな。各階層のレアモンスターに関する情報は直接目にしたい気持ちもあるが、ダンジョンは世界中に、現時点でも1100個もあるのだ。短い人生で全てを暴き出せるとは到底思っていないし、今後も増え続けていくだろう。
だから、なるべく色んなダンジョンに赴きたいし、低難易度のダンジョンはさっさと安全確保をしてしまって、歯ごたえのあるダンジョンをじっくり攻略してしまいたいとも考えている。
……まあ、それも『人為的なスタンピード』が引き起こせるならの話だが。
「じゃあ今度はこっちからの質問だ」
「良いとも、何でも聞いてくれ」
「じゃあ、そうだな。昨日は空を自由に飛び回っていたよな。見るからに普通のスキルではないだろうし、あの力があったからSランクになれたのか?」
「ショウタ、僕は何でも聞いて良いって言ったんだよ。だから回りくどい事は言わず、遠慮なく僕の力の詳細を聞けばいいじゃないか」
「いや、確かに言ってたが……。俺はスキルの事を聞かれても明かすつもりはないぞ。だから遠回しに聞いたんだ」
「おや、そうなのかい? まあでも、君もある程度予想は付いてるんだろう?」
「まあ……。ある程度は、な」
俺と同じ『
そのどれもが規格外のものだったし、あの移動方法もそうだと思えば何もおかしくはない。
「その通り。僕のスキルは『
「……」
正直に言いやがったな。
カマをかけてるだけかもしれないが、それを言うだけの確信的な何かがあるんだろうか。まあ俺も、他所から見れば、意味合いが違うがその成長速度は『スピードスター』と評しても過言ではないもんな。
「ちょっとエス、何言っちゃってるの?」
「ミスティ、大丈夫さ。僕を信じて」
「むぅ……」
ミスティと呼ばれた少女の反応はごく自然のものであり、カマの一部とは思えなかった。まあもしブラフだったとして、俺の『直感』をすり抜けるほどの相手との化かし合いに、俺が勝てるとも思わんのだが。
「興味があるなら、僕のスキル名を教えてあげようか?」
「代償は俺のスキル名か?」
「そうだね、それも悪くないけど……」
エスは神妙そうな顔で考え込む。
スキル名。
それは、知るだけでも相手の切り札を把握するのと同義とも言える。何故ならスキルとは、名は体を表すものばかりなのだ。分かりにくい物は『万象の刻印』なんかの、刻印自体知らなければ理解できない物だったり、『時空魔法』みたいな取得しても使えない一部スキルくらいのもので、他は大体字面から想像出来てしまう。
と、ここまでは一般的なスキル名における価値の話だ。俺だけは、今のとは別にもう1つ価値がある。
それは、スキルの存在を知ることで『レベルガチャ』から輩出される可能性があるということだ。
例えば、今まで出てもおかしくはなかったはずなのに、該当のスキルを知ったり取得した辺りから、いきなりガチャから輩出されるようになったことが何度もあった。
だから彼らの持つスキルの名前を知ることは、俺にとって利があり過ぎる。相手が『
「ではこうしようか。僕の指定するダンジョンを完全攻略して欲しい」
「……それは、お前たちの国のダンジョンをか?」
「そうさ。それが出来た暁には、僕のスキルについて、名前だけじゃなくその全てを伝えようではないか」
「……そのダンジョンがどの程度の難易度かはわからないが、いくらなんでもそれは取引としてどうなんだ? 一方的にそっちが得してるだろ」
「そうだね、勿論報酬はこれだけじゃない。ただ、1つ教えておくと、そのダンジョンは
「!?」
希少な『
となると『アンラッキーホール』のような特殊なダンジョンかもしれないのか。とんでもなく気になるし、探索したい欲が湧いてくるが……。
「ん? 僕達?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。ミスティ」
「ん」
ミスティと呼ばれた少女が握手のつもりか手を伸ばしてきたので、とりあえず握ってみる。その瞬間バチリと静電気が発生したのを感じた。
「おっ?」
「私の名前はミスティア・J・サンダース。エスの双子の妹で、あなたと同じくSランク。『雷鳴の魔女』の名を授かってる」
この子もSランクだったのか。そして、サクヤお義母さんから聞いていた二つ名だ。
となると、この子は俺と結婚希望ということ……??
「俺はアマチ ショウタだ。よろしく」
「うん、よろしくショウタ。それとごめん、痺れたりしなかった?」
「多少バチッとはなったな」
「ダンジョンではいつでも戦闘できるように常に静電気を纏ってるの。今日は弱いダンジョンって聞いてるから、レベルが100程度あれば耐えられるくらいには勢いを弱めてはいたんだけど、全然効いてないんだ? 雰囲気は弱そうなのに、不思議な感じ」
電気を纏う、か。この前ゲットした『風の鎧』の雷版みたいなものだろうか。どういう戦い方をするのかは知らないけど、威力調整が出来る防壁を常に張り続けるなんて、この子も凄そうだな。
まあでも、その程度の威力ならうちの彼女達も挨拶するのに問題は無いかな? 多少痺れるかもだけど。
「単刀直入に聞くが、ミスティは俺と結婚したいの?」
「わかんない」
「わかんないのか……」
「うん」
まあ、得体の知れない奴と結婚したいとは思わないよな普通。
「あ、それじゃ僕も握手を」
「今更か?」
「昨日は出来なかったからね」
「仕方ないな。……ダンジョンはさておき、この握手に挨拶以上の意味は無いからな、エス」
「ああ、わかってるよショウタ。今後も僕達と仲良くしてくれると嬉しい」
Sランクが来訪するとは聞いていたけど、まさかその2人が兄妹だったとはな。そんな付加情報はなかったけど、サクヤお義母さんの伝え忘れ? ……いや、それはないよな。
そもそも名前や写真すら無かったし、たぶんそんな情報すら出回ってないと考えるべきだろう。
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