ガチャ399回目:2頭の怪物

「ボス級のモンスターだ。全員気を引き締めろ!」

『はい!!』


 レベルやステータスで見ればエンキ達でも勝てる程度の相手だが、未知のスキル欄があるモンスターなんて初めてだ。エンキが前にいるから安心なんて思わず、警戒は続けるべきだろう。


『ゴ!』

『シャアアア!』

『シュルル……!』


 エンキは惜しみなく『金剛外装Ⅲ』を使用し、待ち構える。

 相手は身体のほとんどが水の中だ。あそこに入るのは危険だと判断して踏みとどまってくれているんだろう。対して『レイクナーガ』もエンキを警戒してか睨み合いが続いている。

 ここで『海割り』を使おうものなら、すぐさま戦いの火蓋が落とされてしまいそうだ。まずはこの隙に、皆に情報を共有しよう。


「アイラ、今から俺が見た情報を全て伝える。そこから分かることがあれば教えてくれ」


 表記にあった『エクススキル』のことを伝えると、アイラは思い当たる節があったのか、少し考え込むようにして口を開く。


「ご主人様、おそらくですが『種族特有スキル』、もしくは『モンスター専用スキル』を覗き見たのかもしれません」

「……なんだっけ、それ」

「ご主人様が今まで戦ってきたレアやレアⅡが使えた、『鑑定』の結果に乗らなかったスキルの総称です。ゴブリン種やウルフ種の眷属召喚、蛇種の『邪眼』などです」

「ああ、あれか! じゃあこの今見えた3つは……」

「はい。このモンスターが隠し持つ切り札的存在の可能性がございます」


 技名はそれぞれ『死の吐息』『水穿閃』『毒沫散布』。どれもこれも殺意の高い名前をしているが、『邪眼』らしきものはどこにもない。見えているものがこれが全て、とは断言はできないが、俺の『直感』はそれ以上の警鐘を鳴らしていないし、多分そこは気にしなくても良いのかも。


「彼女達に『毒抗体Ⅲ』を事前に取得させたのは正解でした。さすがご主人様ですね」

「たまたまだろ。けどま、『直感』はいつも仕事してくれるな」


 それじゃ、『毒沫散布』は一旦記憶の片隅に留めておくとして、気を付けるのは残り2つか。『水穿閃』はなんとなく分かるが、『死の吐息』はなぁ……。

 これも毒系統だろうか? 浴びた瞬間即死するというトンデモ技というのは考えにくい。そして常に垂れ流しというのもないと思う。技の1つとして登録されている以上、必ず何かしらの発動モーションがあるはずだ。

 となれば、『毒沫散布』と別枠で存在する以上、それとは別格の強力な毒ガス攻撃の可能性があるな。対策を練りつつ戦うとするか。

 ……よし。


「アヤネ」

「はいですわ」

「『海割り』を任せて良いか?』

「はいですわ!」


 大役を任され、アヤネは嬉しそうに『モーセの杖』を受け取る。流石に俺がやってみせたように、正面全てを割る必要はない。『レイクナーガ』がいる近辺だけ、水を退けてもらうだけだ。


「行きますわ。……『海割り』!」


 湖が割れ、『レイクナーガ』の全身が明らかとなる。見た目はやはり巨大な蛇の胴体を持ち、首元から2つに分かれていることを除けば、ただのどデカい蛇というだけだ。

 そして次の瞬間には、エンキとモンスターはぶつかり合っていた。


『ゴゴー!』

『シャアアッ!』


 噛みつき攻撃をしてきた相手に対し、エンキは両手で相手の首を掴み、反撃の尻尾攻撃を踏みつけで押さえつける。その上、『砂鉄操作』で湖の底に溜まっていた土を操作し、身動き出来ないよう固めていく。

 流石にその程度の阻害は『レイクナーガ』が暴れることですぐに壊れてしまうようだが、足止めする事は出来ていた。


『シャッ!』

『シャアッ!』


 反撃に2頭の口から水のレーザーが照射され、エンキを襲う。恐らくあれが『水穿閃』なのかもしれない。だがエンキは『金剛外装Ⅲ』を使用中だ。レーザーは黄金の膜によって遮られ、3回無効+無敵時間の効果もあって、完全に遮断出来たようだった。

 本命の技はまだ見られていないが、こんな強敵エンキにだけ任せるのは勿体無いな。


「エンキ、俺もやりたいからこっちにパスしてくれ!」

『ゴ? ゴゴー!』


 エンキは両手に掴んだ首を持ち上げ、背負い投げの要領で巨大な『レイクナーガ』を投げ飛ばしてみせた。これもアニメを見ていたおかげか、それとも『武闘術Lv6』のスキル効果か。

 突然の出来事に『レイクナーガ』も受け身が取れず、俺の目の前の地面に転がりながら飛んできた。


『シャ、シャアアッ!』

『シュルルル……!』

「エンリル、頼む!」

『ポポ!』


 俺の背後でエンリルが羽ばたき、風を送ってくれる。

 もし仮に奴が『死の吐息』なんていう凶悪なモノを吐き出したとしても、それが空気に乗ってやってくるのであれば、全て風の力で押し流せるはずだ。

 本来なら、こういうのは戦闘中に風上なんかの位置取りを計算するもんだが、エンリルがいれば彼こそが風上であり、他は全て風下になる。


「蛇種にはトラウマというか、面倒な記憶しかないが、お前で発散させてもらうぞ」

『シュルル……』

『シャッ!』


 そしてそこから、俺とレアⅡとの戦いが始まった。まあエンリルのサポートもあるのでタイマン勝負とはいかなかったが、修行相手としてはこれ以上ない相手だろう。途中で明らかに『死の吐息』と思しき吸い込みを見せたが、その瞬間弓に切り替え『雷鳴の矢』を放つと技がキャンセルされたりした。

 流石にわざと喰らって生き残れるとは思えないしな。修行相手として活用はしつつも、油断はしない。


「そろそろ終わりにしようか。おりゃっ!」


 10分ほど戦い続け満足した俺は、『レイクナーガ』の首を2本同時に叩き落とした。


【管理者の鍵810(3)を獲得しました】


【レベルアップ】

【レベルが54から234に上昇しました】


「ふぅー……」


 残心をし、煙がアイテムや宝箱を吐き出していく様子を眺めていると、不意に拍手の音が鳴り響いた。


『パチパチパチ』


 修行と称して彼女達をほったらかしにし過ぎただろうか。

 そう思った俺は振り返ってみたが、彼女達は


「!?」


 しかし、拍手はまだ続いている。

 発信源を辿って空を見上げると、宙に浮く金髪の男がそこにいた。

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