ガチャ396回目:ダンジョンの魚

 山を下りた俺達は第四層への分岐路まで戻り、そこから渓谷を目指した。そして吊り橋にぶつかると、そのまま渡らずに脇道へと逸れる。ただ、脇道と言っても他と同じように道が整備されている訳でもなく、普通に森の中を通る事になるのだが。


「こんなところに隠し洞窟があったなんてね」

「道中は入り組んでるし、道も未開拓。律儀にダンジョンが用意していた道以外は存在しない、なんて先入観があると、絶対に見つけられないだろうね」


 そのまま道なき道を進み続ける事10分ほど。森が開けると、今度は剥き出しの岩が乱立し、足場も砂利道へと変化した。さて、マップの反応からしてそろそろのはずだが……。


『ポポー!』


 エンリルが到着を待ちわびたと言わんばかりに声をあげ、俺達を出迎える。


「お待たせエンリル、イリス。そしてご苦労様」

『ポ、ポポ』

『プルルン』

「ここがそうなの?」

「うわあ、真っ暗だー」

「大きな岩の陰。絶妙に見つからない場所にあるのね」

「あると分かっていなければ見過ごしてしまうのも仕方のない事かと」

「エンリルの視界で見る限り、洞窟内は緩やかな坂になっていたから、ゆっくりと行けば問題はないはずだ。さあ行こう」


 マップを起動し、複数人で明かりを灯しつつ洞窟を進んだ。洞窟は完全な一本道で、モンスターもいないためトラブルもなく通り抜け、辿り着いたのは渓谷の底。湖から伸びる川のすぐそばだった。


「この川の上流には、あの滝があるのよね」

「となるとこの川は、どこに向かってるのかしら?」

「さっきエンリルの視界で見た感じだと、ダンジョン壁に吸い込まれるように消えていっていたな。たぶん、他のダンジョンとかで見る川と同じような感じじゃないか?」


 例えば『初心者ダンジョン』の第二層にある川とかもそうだな。あそこも、ダンジョン壁や何もない場所から突然水が湧き出て、またダンジョン壁や何もない場所で水が途絶えていた。今思い返しても、川に流れがあるのに、あの水は何処から来てどこに向かっているのか、誰にも分らなかった。ちなみに実験した記録があるらしいが、ダンジョン壁に吸い込まれるところに生物が侵入しようとしても弾かれるらしい。

 まあ、少しつまらない結果ではあるが、下手なことして事故になる可能性がないだけマシかもしれない。


「なら気にするだけ無駄か。ショウタ君的には、ああいうの気になる?」

「まあね。どういう原理でそうなってるのか気にはなるけど、優先順位は低いかな」


 国内のダンジョン全てを平定して、鎮圧が済んだら考えるとか?

 まあ、その平定にもどれだけの時間を要するかわからないし、今後も増える可能性があるしな。その上、今後は外国からのアプローチもあるだろうし、俺のダンジョン攻略が国内だけで済むとも限らないもんな。


「この谷底、普通に人が歩けるスペースがあるのね」

「川の流れも穏やかですし、景色も綺麗ですから、デートスポットの一部に活用出来そうですよね」

「例のモンスターがいなければ、ですね」

「旦那様、例の赤丸は動き無しですの?」

「ああ、何の反応もない。縄張り型なら、尚のこと湖にデートコースを含めるのは危険だが、どうなるかな……」


 ふと川を見れば、そこには多種多様な生き物が住んでいるようだった。

 不思議な事に第二層の海の深い部分もそうだが、普通に魚が生息しているんだよな。目の前を泳ぐのは割と一般的な魚や、どうみても地球由来とは思えない魚まで、多種多様だった。ただモンスターとしては存在していないから、マップでも見えないし倒しても魔石は出ないし、死んでも煙にはならない。

 更に不思議な事に、こいつらはダンジョンの一部として扱われているらしく、死んでもそのうち復活してるっぽいんだよな。


「ショウタさん、どうされました?」

「いやー、こいつらって食えるのかなって」

「魚のこと? やめといた方が良いわよー。こいつら当たり外れがあるみたいだし、『鑑定』も効かないみたいなの。笑い話に、とある冒険者が食い意地張って、鮭に似た魚を食べたら、それが毒だったってオチもあるのよ。……あれ、毒?」

「毒は大丈夫ではありませんの? とんでもない毒ならまだしも、わたくし達には『毒抗体』がありますわ!」

「確かにそうかも! 毒がある食べ物ほど美味しいって聞くし!」

「おおー!」


 そういえばそんなスキルもあったな。

 毒を日常的に使ってくるモンスターなんて中々お目に掛れないから、この前取得したばかりなのに存在を忘れてた。


「……あ、お兄ちゃん。『毒抗体』の在庫って……」

「ああ、スキルを分ける時にまとめてやるつもりだったけど、ハル達にも早めに覚えて貰っておくか? 抗体スキルは増えたところでデメリットはないしな」

「はい、お願いしますお兄様!」


 元々『毒抗体』のスキルは研究所に見てもらう為、無印10個、Ⅱを1個、Ⅲを1個を無償提供したんだよな。んで、残った……というか残したⅡは4個あったがこちらは既に圧縮済み。そしてⅢが元々4個あり、合わせて5個だ。これでカスミ以外の5人にも『毒抗体Ⅲ』を取得させられた。


「結局この『毒抗体』って、どれくらいの毒まで中和されるんだろ」

「一応『悪食』も込みで研究所に依頼してあるわ。ただ、実験のしやすさは『悪食』の方がやりやすいらしくて、並行して実験は行われてるけど、進捗に差があるみたいね。その中で面白かった実験は、受刑者に各レベルの『悪食』を覚えさせて、それぞれにバラムツを食べさせたって話よ」

「結果としては成功。『悪食Lv3』から一部消化が可能で、『悪食Lv5』から完全に消化出来たようです」


 バラムツ? どっかで聞いたような……。


「ああ、それって確か、魚の身が油みたいになってて消化出来ないっていう?」

「そうそう。ワックスエステルってやつね。普通は食べても全部出ちゃうからオムツ必須らしいわね」

「そう言えば以前、レベルアップした冒険者の胃袋でも消化出来なかったと一時期話題になりましたね」

「そうなのか……」


 怖い話だ。


「……待てよ? ならダンジョン内に生息する魚にも、毒持ちだけじゃなくバラムツと同系統の魚がいるかもしれないって考えるべきじゃないか?」

「あっ……そうかも」

「ではダンジョン内の魚については、結局『悪食』の解析待ちということですね」

「残念ですわ」

『プルル?』

「まあイリスは『悪食LvMAX』で『毒抗体Ⅳ』だから何の問題もなく食えるだろ」

『プルン』


 とまあそんな風に危惧してその場では諦めたのだが、のちに『真理の眼』を使えばダンジョン内に生息する魚の情報も確認することが出来たので、イケそうな魚は手を出すことになったのだが、それはまた別の話。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「さて、湖に到着したわけだが……。めちゃくちゃ澄んでるな」

「底がよく見えますわ」

「赤丸の位置的に、滝壺の底にいるのは間違いないみたいね」

「いくら澄んでても、滝で発生する気泡と濁流で、まるで見えないですね」

「どうやって釣り出しましょうか」

「そもそも、どうすれば反応するかでここの安全度が変わってくるよな?」

「まずは湖に入ってみませんこと?」

「ダメならその辺の石で水切りでもしてみよっか」

「じゃ、あたしは弓でも練習しようかな☆」

「そうだな。色々試してみようか」


 最悪、バブルアーマーで突撃するしかないとなっても、俺たちには『海割り』がある。だから恐れずに、試せるだけ試していこう。

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