ガチャ395回目:空の散歩

「よし。じゃあ俺のデカい秘密を一つ公開しよう。ただし、口外は厳禁。それと、今から見せるものに無暗に手を伸ばして触れたりしないように。触るときは彼女達に確認して、了承を貰ってからにしてくれ」

「「「「「「はい!」」」」」」


 俺の準備が出来てない状態で、再精査機能が動き出してマップのネタバレを食らうのは嫌だからな。

 んじゃ早速、それぞれの肩に手を触れつつ『許可する』と宣言し、マップシステムを認識させて行く。これでもう、彼女達の視界には立体化された第三層の様子が見えているはずだ。


「「「「「「……」」」」」」


『ごくり』


 誰かが息を呑むのを感じる。まあ、こんな精巧なマップを見たら緊張するのも仕方がないよな。俺も、もしマップスキルがない状態でこんなの見せられたら、同じようになる自信がある。

 ……いや、テンション爆上がりして小躍りしてたかもしれないな?


「こ、これがお兄ちゃんの秘密なんだね」

「まだほんの一部だけどな」

「これで!?」

「お兄様、ここにある青点があたし達なのは分かったわ。そして湖付近にいる青点はエンリルちゃんね?」

「そうそう」

「この黄色は?」

「『フォーリングフルーツ』だけど、全部がそうかは不明だ。まだ確かめてないしな」

「じゃあ、この赤い丸は?」

「多分隠しボス」

「……」


 イズミはキャラも忘れて頭を抱えた。カスミとレンカとハルは食い入るようにマップを見つめ、イリーナはキラキラとした目で俺を見つめている。ハヅキは……何か言いたそうだな。


「どうしたハヅキ」

「はい。兄上は、先程からなぜ片目を閉じておいでなのですか?」

「これはマップ以外にも、複数のスキルを併用してるからだな。あんまり情報を仕入れすぎると頭が疲れるから片目は閉じてるんだ」


 エンリルの視界を共有するだけなら、今の俺には『思考加速』があるためそこまで苦ではない。だけど今、エンリルには離れた場所でも連絡の取り合いができるように、ちょっと思い付きで実行した離れ業をしている最中なのだ。コレは少しでも意識が逸れると失敗してしまいそうなので、片目は閉じていた。


「そちらも教えて頂くことは可能ですか?」

「いいよ。これもこのマップの一部といっても過言じゃないからな。だけど、最初は混乱するから目は閉じておく必要がある。それからー」

「はい、失礼します」


 そういうとハヅキは俺の胸に飛び込んできた。多分さっきのアヤネを見てたんだろうな。そんなハヅキに『視界共有』を施し、エンリルの視界を体験させる。


「これは……! もしや、エンリル様の視界に、兄上の視界ですか……!?」

「お、理解が早いな。リアルタイムの空の旅だ。どんな感じだ?」

「不思議な感覚です。ですが、童心に帰ったかのようにとてもワクワクしますね」


 そうして感想を洩らすハヅキが珍しかったのか、それともただ羨ましかったのか。カスミ達も交代でその視点を体験することとなった。

 まあ正直言うと、最初の接続の際に触れてさえいれば、以降は『視界共有』の維持に抱きしめる必要はまったくない。接続が有効になれば、あとは各々が歩き回っても問題はないのだ。

 ただ、初めて他者の視界を借りた人間は、『思考加速』があればすぐに順応するが、そのスキルがないと自分とはかけ離れた映像が入ってくる事に脳が追いつかず、ひどく混乱してしまう。言うなればVR映像を器具なしで強制的に見せられている感覚だな。

 何が起こるかと言うと、空を飛んでる映像が、まるで情報が入ってくるため、脳が誤認識して手足が勝手に動いてしまうのだ。頭の良いハヅキですら腕や足がぴくりと動いてしまうくらいだ。抱きしめ始めた時は、イズミが意味深な目を向けてきたが、自分の番が回ってきた時には悲鳴を上げながら察してくれた。特にレンカは反応が顕著だった。不意に目を開けてしまっては混乱してを繰り返してたし、抱きしめてなかったら山から転がり落ちてたんじゃないか?

 俺もこのスキル使用直後は、あまりの違和感に立っていられず、慌てて自分の視界を閉じ座り込んで、無意識に『思考加速』を併用させたくらいだ。うちの彼女達とカスミはスキルを持っているけど、他の子達は未所持だからな。


「ふぇー、お兄さんよくこんな状態で落ち着いてられるね」

「まあ慣れもあるし、『思考加速』があるからな」

「不思議な体験でした。こうしてお兄様がエンリルちゃんの目を通して世界を見渡す事で、このマップが細部まで埋められて行くのですね」

「お兄様ってホント規格外だね☆」

「それで、エンリルちゃんはさっきから同じところをグルグルしてるみたいだけど、何してるの?」

「ああ、この湖に直接向かうための隠し通路がないか探ってもらってるんだ。……お?」


 噂をすれば。

 エンリルの視界に真っ暗な洞窟が映り込んだ。場所としてはデートコースと第四層に続く階段がある山との中間地点。そこには渓谷が存在していて、地上には吊り橋がかかっているようだが……。その最下層には湖から流れる川がある。洞窟は、その川沿いにひっそりと存在していた。

 場所としては怪しさ満点だし、是非とも調査をさせたいところだが、無暗に突撃させるわけにはいかない。何故ならエンリルは、ゴーレムではあるんだが、モチーフが鳥だからか夜目が効かないんだよな。だから一旦戻ってきてもらうか。


 ここで、維持していた力に全神経を注ぐ。

 飛行中もずっとエンリルの足元に纏わりついていた水球がゆっくりと離れ、エンリルの前方に移動すると上向きの矢印へと形を変え、破裂した。これは俺の出したウォーターボールで、エンリルと視界を共有すると同時に魔法を視界に入れ続け、遠隔で維持し続けていたのだ。

 一度発動した魔法は、視界にさえ映っていれば制御し続けることが可能という仕様から導き出した、離れ業だったのだが、上手く機能してくれたらしい。これをずっと維持し続けていたから、俺の処理能力が限界ギリギリで、片目しか開けられなかったんだよな。

 逆に、エンリルの視界を通して魔法を発動させることは出来ないみたいだった。だから事前に魔法を発動して、それをエンリルの視界を通して維持したまま運んでもらう必要があるんだよな。何に使えるかはわからない技術ではあるが、こういうのは試してなんぼだろう。

 正直指示を出すだけなら俺の視界で手招きするだけでエンリルには伝わるから、意味のない行動ではあったが。そう思っていると、エンリルの羽ばたきが聞こえてくる。


『ポポー!』

「おかえり。次で本当に最後だ。今度はイリスを連れて行ってくれ」

『ポ!』

『プルルン』


 イリスは『極光魔法』が使えるから、光源を生み出すことが可能だ。2人一緒なら、あの洞窟がどこから続いているのか確認する事が可能だろう。


「さて、もう『視界共有』は不要だろう。洞窟の出口がどこにあるかは分からないが、ひとまずこの辺の吊り橋辺りまで移動しよう」

『はい!』

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