ガチャ394回目:第三層の秘密

 景色を見れて満足した俺は、早速行動に移した。

 大瀑布を前に夢中になる彼女たちから少し後方へと下がり、エンリルに指示を出す。


「まずはこの山を頼む。見終わったら一度戻ってきてくれ」

『ポポ』


 まずは『視界共有Ⅱ』と『鷹の目Ⅱ』で登ってきた山の周辺から探らせた。するとマップには今回登ってきた山の情報がどんどん更新されていくが、やはり赤点などはどこにも無く、山頂にいる俺たちの他には、すれ違った一般客と、少しばかりの協会員達くらいしか生命体は映らなかった。


「……ん? これは、なんだ?」


 しかし、赤点の代わりにマップには今まで見たことのない黄色の点が無数に存在していた。これまでにマップで確認出来た色は4色。モンスターを示す赤、味方を示す青、宝箱を示す緑、そして他の人間を示す白だ。

 黄色い点は山中や森の中に散らばるように分布していて、動く気配はなかった。今回登って来た山道には無いが、集中的に存在していない以上、生き物ではない……?

 しかし、タップしても反応を示さない。ということは今回のデートでは一度も目にしていない事になるのだが……。けれど俺の想像通りなら、コレの正体はなんとなく察することが出来るな。


『ポポー』

「エンリル、おかえり」


 戻ってきたエンリルを撫でて褒めると、次の指示を与える。


「エンリル、ここに黄色い点があるだろ。それを直接見てきてくれるか?」

『ポ!』


 再びエンリルの視界を共有し、黄色い点の正体を探る。するとそこにあったのは……。


「やはり『フォーリングフルーツ』か」


 だが、タップしようともマップの方は相変わらずで、何の反応も示さない。これは、黄色は植物やダンジョンで採れるアイテムを示しているだけで、カメラ機能が動作しないだけなのか。……そういえば、ここからでもマップを第一層に切り替えれば、綿毛虫や白点はカメラが機能するけど、宝箱は反応しなかったな。それと同じで、意志を持って動く物しかカメラに映らないということだろうか。

 そういえばさっき2つの『フォーリングフルーツ』をゲットした山道には黄色い点が存在しないしな。となると、『フォーリングツリー』は黄色い点の対象外で、ただ単にフルーツの有無を指しているのか?

 とりあえず、幸いにもこの『フォーリングフルーツ』の位置はこの広場の裏、それもほんの少し進んだ先にある。3Dマップを見る限り崖みたいなものもないし、エンリルを迎えに行くついでにいっちょ行ってみるか。


「アイラ」


 何も言わずに隣で待機していたアイラに声をかけると、彼女は全てを察してこう答えてくれた。


「はい、行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 10分後。俺は皆のところに戻ってきた。


「ただいまー」

「おかえりー」

「おかえりなさい!」

「あ、お兄ちゃん。どこ行ってたのー?」

「もう、お兄様ったら。落ち着きがないんだから☆」

「ちょっと調べ物。あとお土産」


 腰巾着から、無傷の『フォーリングフルーツ』を5つ取り出した。


「まさか兄上、森の中でコレを……!?」

「こんなにいっぱい採ってくるなんてすごーい!」

「流石ですお兄様」


 妹達が夢中になる間、うちの婚約者達がやってくる。彼女達はアイラから話を聞いてるんだろう。マップを見せても黄色い点について質問したりはしなかった。


「それで、何か分かりましたか?」

「ああ。たぶん、黄色い点は採取可能なアイテムってだけで、深い意味はないのかも。タッチしても反応がないのは、生物じゃないから、とかかな」

「ふーん。でもショウタ君、どこか腑に落ちなさそうね?」

「何か気掛かりなことがありました?」

「『フォーリングフルーツ』が木から落ちる瞬間に、黄色い点が消失するところが、ちょっとな」

「ふむ? 袋にしまったわけでもなく、離れた瞬間、なんですのね。それは確かに変ですわね。そういえば、彼女達が持っている実も反応はありませんわね」

「無いんだよねー」

「不思議ですわー」


 まあ恐らく、ダンジョンとの繋がりが断たれた瞬間に映らなくなったとか、そんな感じかもしれない。


「ではご主人様。次はどうされますか」

「あとは第四層側と、あの大瀑布を調べたいかな。まあでも、この階層はマップの広さ的にもあの2つしかもう残ってなさそうだし、俺達はここで待機して、このままエンリルに偵察に行かせるよ」

「待機了解よ」

「旦那様、わたくしもエンリルの視界が見たいですわ」

「じゃあ一緒にみるか」


 そうしてアヤネを抱きしめると、マキが地面に座り込んだ。


「では私は、ショウタさんを膝枕してあげますね」

「お、助かる」

『プルル』

『~~♪』


 イリスとセレンは掛け布団になるつもりなのか、覆い被さってくる。アヤネは抱き枕、枕はマキのふともも。

 うーん、油断したら寝ちゃいそう。


 ウトウトしながらも、エンリルの視界を頼りに『第四層へ向かうための山』『大瀑布近辺』を漏れなく埋めて行く。そしてやはりと言うべきか、大瀑布の直下、巨大な湖の奥底に、巨大な赤丸の反応があった。


「やっぱり潜んでいたか」

「おおー、さすがショウタ君。ナイス直感ね」

「すごいですショウタさん」

「ドンピシャですわ!」

「てか、アキも予想は付くでしょ。露骨に怪しいもん」

「んふ。まあ言われてみれば怪しいと思わなくもないけど、でもあたし達はモンスターのいない階層としての前提知識が植え付けられてるからね。その発想は中々至れないのよ」

「そんなもんか」


 さて、いる事はわかったが、今度は別の問題がある。どうやってあの湖まで行くのか、だ。

 ここから見るだけでも、数百メートルは下にあるだろうし、ロープやら登山道具やら、『空間魔法』で階段を作るなんてのも、現実的ではない気がする。今までを思えば、どこかに専用の通路が用意されていてもおかしくはないはずだ。

 まあ、『アトラスの縮図』機能を使えばすぐに見つかるんだろうが、それじゃあ面白くないしな。地道に探そう。まずはそうだな……。

 そう思っているとタイミングよくエンリルが戻って来た。


『ポポ!』

「ああ、おかえり。エンリル、戻ってきたところで悪いが、もう1回お願いできるか?」

『ポポ~? ポポ、ポポ』

「いいぞー」


 なでなでわしゃわしゃをご要望だったので、顔の周りを揉むように撫でる。エンリルは気持ちよさそうに声をあげた。ついでに使った分の『魔力』も送っておこう。

 いくつかの指示を出すと、エンリルは飛び立ち湖の方へと急降下して行った。

 そんなエンリルと入れ替わるように、カスミ達がやって来た。


「ねえねえお兄ちゃん、さっきから何してるの?」

「お兄様、あたし達にも教えて欲しいなー?☆」

「ん、気になるか?」

「「すっごく!」」


 ちらりと見れば、カスミとイズミだけでなく他の子達も気にしてる様子だった。

 まあ、まずは関係構築の第一歩としては、マップの情報解禁は丁度良いのかもしれないな。

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