ガチャ393回目:雄大な景色と

 落下植物、『フォーリングフルーツ』を受け止めた俺のもとに、皆が集まってくる。


「さすがショウタ君。反応バッチリだったわよ!」

「ちゃーんと撮影してたからあとで見ましょ☆」

「私達も義姉さん達にこっそり教えてもらったから後ろから眺めてたけど、お兄ちゃんの反応速度凄かった!」

「これも修行の成果ですね」

「敵意がない植物に対しても発揮出来る野生の勘。素晴らしいです兄上」


 皆から一斉に褒められるとむず痒いが、とにかくコレが例のビックリポイントかな?


「その通りです、ご主人様」

「『真鑑定』で見たけど、山を降りる人には反応しないんだな」

「そうらしいねー。だから、山を登る時はガイド役の人が先行して歩くんだってさ」

「お客さんの頭に降ってきたら大変ですからね」

「あー、なるほどね」


 それなら大丈夫か。

 ガイド役の冒険者は慣れてるだろうし、存在を把握してるだろうからな。それにフルフェイスのヘルメットも着けてるし。あのフルフェイスは、その役目も兼ねてるのか。


「あとこの実の果汁、美肌効果があるんだと」

「それほんと!?」

「ああ」


 イズミが食い付いてきた。こういうの好きそうだもんな。


「へぇー、美味しいって聞いたことはあったけど、そんな付加価値もあったのね」

「ですけど変ですわね。知られてたらもっと噂になっていてもおかしくありませんわ。もしかして、協会でも把握していないのではありませんこと?」

「え、でもこの階層も毎日人が来るくらい繁盛はしてるんだろ? ならある程度研究もされてそうだけど……」

「実はこの実、足が早いみたいなんです。落下して地面に激突してからだと、1時間ほどでダメになるんだとか」


 腐るのはやっ!? それじゃ研究は無理か。

 でも、そんな特殊性があったら『真鑑定』で見れるはずだよな?


「あれ、でも今回はお兄さんがキャッチしちゃったけど、この場合はどうなるのー?」

「確かにそうね。そしたら駄目になる速度も緩和されてるかもしれないわね」

「こういった素材は向こうでも耳にしたことがありますわ。扱い方次第ですぐに駄目になったり効果が落ちてしまったりと様々ですの。ですから美肌効果というのも、お兄様がキャッチしたことで発揮したものかもしれませんわ」

「可能性はあるわね……。じゃあショウタ君、悪いんだけど」

「分かってる。次は回避すれば良いんでしょ」

「うん、お願いね!」


 こういう調査は俺の領分ではあるんだけど、美肌効果に興味がそそられたのかな。俺よりも彼女達の方が真剣な気がする。


『ドドドドド……』


 ……ん? 何の音だ?

 山を登っていると、少し遠くから謎の音が聞こえてきた。けれど、危険な気配は感じられない。

 振り返ってみても、この音について誰も気にも留めていないようだし、かなり距離があるのかもしれないな。

 それからは、全員で頭上を要チェックしながら山を登り始めた。進むたびに音が近くなっている気がするが、やはり危険な気配などは無かった。この先に何かがあるんだろうか。

 普通なら山道をよそ見しながら登るなんて行為は、足元に躓いて転けてしまう危険性があるんだけど、そこは高レベルな彼女達だ。ステータスだけでなく体幹も鍛えてるから、危ない様子はほとんど見られない。アヤネとイリーナは少し動きが心配だけど、これくらいの距離なら俺がカバーに入れるしな。


 そうして進むこと10分ほど。ようやく次の『フォーリングツリー』を見つけた。道沿いにはあまり生えていないのかもしれないな。そこに俺が代表して近付いていくと、真下に来るよりも早く『フォーリングフルーツ』は木から分離してこちらへと落ちて来た。

 来るのが分かっていたので、俺はただ足を止めて、黙って見ていれば良かった。


『ゴトッ!』


 良い音が鳴るなぁ。

 こんな硬い実が頭上数メートルから勢いよく降ってきたら、当たりどころによっては死にかねないぞ。モンスターがいなくても、第三層でのガイド役の人達は大変なんだろうな。

 さて、結果は……。


「『真鑑定』」


 名前:フォーリングフルーツ(劣化)

 品格:≪通常≫ノーマル

 種別:食品

 説明:ダンジョン植物フォーリングツリーに生る木の実。坂道を登る者に反応し、実を落として来る。果肉は美味であるが衝撃により劣化しており、腐敗が早い。


「皆の予想通り、美肌効果がなくなって腐敗が早くなってるらしい。でも味は変わんないって」

『おおー!』

「まあ俺じゃなくても取れる速度だから、頑張って」

『はい!!』


 勿体ないので、劣化版はエンリルにカットしてもらい、俺とイリス達で食べる事にした。

 そうして種なしスイカみたいな見た目になった『フォーリングフルーツ』を丸かじりしつつ、先ほどまで以上に夢中になってフルーツを探す女性陣の後を追う。

 しっかし、美肌効果……ねえ。

 皆レベルが上がった事で肉体的にも完成されてるというか、義母さん達みたいに肌が劣化しなくなっているのなら必要ないような気がするが、それを言うのは野暮だよな。皆、綺麗になるという根源的な欲望からは目を逸らせないんだろう。

 ……けど、肌が劣化せず義母さん達のようにずっと若々しくなるのなら、そもそもの話『寿命』はどうなってるんだろうか。遺伝子が進化し、その人にとって最高の肉体が維持できるという話以外は聞いたことが無いんだよな。俺はともかくとして、うちの婚約者達のレベルは人類の中でも結構な上澄みだと思うから、そういう研究があるなら詳しく知っておきたいな。

 そういう意味では、義母さん達のレベルっていくつなんだろうか。あの2人にはいつまでも綺麗でいて欲しいし、レベルによっては俺式ブートキャンプに連れて行くのも有りか。


「旦那様ー!」

「ん、どうした?」

「ゴールですわ!」


 そんな事を考えていると、どうやら終点に辿り着いたらしい。一般客ならゆっくりと登る山道を、俺達は普段の冒険と変わらない速度で歩き続けたからかな。

 辿り着いたそこは展望台のようになっていて、簡単な仕切りの柵の向こうにはナイアガラの滝を彷彿とさせる大瀑布があった。あの音はこれだったか。水煙がここまで登ってきているし、かなりの勢いがあるんだろう。


「綺麗……」

「すごーい!」

「心が洗われるようです」

「お手軽にこんな光景が拝めるなんて、デートコースになるのも頷けるわ」


 女性陣が景色に見惚れる中、俺は全く別の事を考えていた。

 あの滝の下にある巨大な滝壺。モンスター潜んでそうだなぁ……と。

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