ガチャ385回目:シャトルラン+組手
シザークラブを陸上のハードルに模した無限シャトルランは、普通のハードルと違う点が2つある。
まず、相手が攻撃してくる。その為同じ動きでのパターン化が出来ず、横に逸れる事もルール違反となるため安全に飛べる位置が毎回異なるという点。
次に、相手も俺を追いかけて来るという点だ。そして相手は知能が低いのか、毎回違う動きで近付いて来る。その為、往復する度にハードルの長さと数が変動し、時にはとんでもなく長大なハードルが出来上がる。こういう時の為にアイラは手を使う事を許可したんだろうな。
慣れて来たら、シザークラブの動く殻すら足場に見立てて、回避のための跳躍ではなく乗り越える為の動く床として駆け抜けていった。それを何度か繰り返したころ、アイラが短剣のそばにやって来てこう告げた。
「ご主人様、次は第二ラウンドです」
どうやら終わりではなく、続けて次のお題が提示されるらしい。
シザークラブは足が遅い。こうやって立ち止まって話をしようと、追いついてくるまで時間はかかる。
今のうちに息を整えておくか。
「今からは乗り越えるための障害物ではなく、斬り捨てるための障害物として見立ててください」
「え? そんなことしたら……」
「はい。立ちはだかる障害物が変化するかもしれませんが、
レアやレアⅡすら、立ち止まらずに斬り捨てろということか。でも変化するのはそれだけじゃない。倒せばその場にアイテムが散らばるのだ。それはどうするんだろうか。
「アイテムは修行の一環として彼女達に回収させます。また、時折進路上に留まらせますので、激突しそうであれば彼女達にも攻撃してあげてください」
「えっ!?」
「勿論本気で殺すつもりでやらなくて大丈夫です。ですが、最初は弱めに攻撃して、徐々に威力・速度・精度を上げてください。そして彼女達が対処可能な威力と速度を見極めてください。あ、私も混ざりますのでご安心ください」
むしろ安心できないんだけど!?
「あと、一撃を受けたら彼女達は撤退させますので、ご主人様は気にせずに走り抜けてください。私達への攻撃は出会った瞬間1発入れるだけで構いません」
「……わかった。嫌だけど頑張るよ」
「これも必要な事ですから、お願いしますねご主人様」
アイラから2本の愛剣を受け取り、第二ラウンドが始まった。
弱く加減して攻撃する、というのは今まで意識してした事はなかったが、『弱体化』のスキルを使えば問題なかった。それで攻撃を加減するやり方も、される側にも慣れが出て来た辺りから、スキルを外して徐々に力を込めていく。
シザークラブやレアモンスターは本気で斬り捨て、アイテム回収に現れた彼女達には加減をしつつ攻撃。緩急付けた力の変動は今まで未経験だったが、やってみるとこれは色々と応用が効きそうだった。
まあ、アイラには割と最初からガチ目に行ったが。
「この程度ですか?」
「じゃあ次はもっと強く行くぞ」
「はい。お待ちしております」
涼しげな顔で受け流されてしまった。まあアイラだしな。
そんな感じで4人それぞれに数十回ほど切り掛かったところで、アイラが終了を宣言する。再出現を重ねて、何度目かもわからないシザークラブの群れが引き続き追いかけて来ていたが、それは全部イリスに捕食してもらい終了した。
「ふぅー……疲れたぁー……」
「どうですかご主人様。調子のほどは」
「んー、まぁ……。『腕力』『器用』『俊敏』。どれもバランス良く扱える幅が広がったのを感じたかな」
「それはようございました。明日の朝も同じ訓練をしましょうか」
「おっけー……」
『プルルン』
「おー……」
捕食が終わり、転がって来たイリスを枕にして倒れ込むようにして寝転がると、カスミ達がやって来た。
「ああ、皆もお疲れ。あんな感じでも掴めるものはあったか?」
「うん! 瞬発力とか咄嗟の判断力とか、とにかく色んなことに役立てそうな修行だったよ!」
「お兄様の蹴散らしたモンスターからドロップしたアイテムを早期回収し、進路上に邪魔な物がない状態にする事が主な目標でしたが、それと同時にモンスターに絡まれても攻撃禁止が大変でした」
「それがし達は襲われても兄上に倒してもらう必要があり、アイテム回収をしつつ兄上の進路上にタイミングよく持っていくのは困難でしたが、思っていたよりも楽しかったですね」
「あー、たまに進路上にこっちを見てないシザークラブがいたのはソレか。アイラが倒しても良かったのに」
「それでは、彼女達の修行が薄くなりますから。弱いモンスターとはいえ、防具なしの水着ですし、攻撃を受けてはあられもない姿になってしまいます。適度に緊張感を持って頂かなくては」
「エグい事するね……」
彼女達の『頑丈』を見れば、シザークラブの攻撃を素肌に受けても重篤なダメージを負う事はないことは明らかだが、ただの布素材である水着は別だ。ちょっとでも擦ればポロリしてしまうだろう。他人の目がないプライベートビーチとはいえ、そうなるのは可哀想すぎる。
「気にしないでお兄ちゃん。私達もこれくらいの事はしないと」
「そうです兄上、それがし達もただ遊びに来ているわけではなく、修行しに来ているのですから」
「それにしても、こんな風に遊びながら修行が出来るなんて思ってもいなかったわ」
「ほんとだよね。デートダンジョンの第二層といえば、『海でバカンス』ってイメージだったし、そんなとこで修行するって聞いた時は全然想像つかなかったもん」
「それがしも、兄上がしたような走り込みをするものだとばかり……」
「『初心者ダンジョン』でのボス戦もそうだったけど、お兄様ほどの実力者になると修行内容も凄いんですね」
「うんうん!」
「……」
カスミもハルもハヅキも、俺のステータスが気になってるみたいだ。そこには恐れはなく、むしろ憧れが混じってる感じがする。残りの3人はまだ深く交わってはいないからわからないけど、彼女達ならもう良いのかもしれない。
「なあ、3人は俺のステータスが聞きたい?」
「……う、うん。知りたいよ」
「当然です」
「お兄様について行くって決めたもの。知る覚悟はできているわ」
アイラに視線を向けると頷いてみせた。彼女達は問題ないらしい。
「じゃあ伝えるぞ。俺のステータスは全ステータス16000ほどだ」
「ほぇ……?」
「い、1万!?」
「そ、それほどの数値を持っていても『ダンジョンボス』は強敵だったのですか?」
「いや、単にその最大値を扱えてないってだけだ。今も地道に修行で扱える幅を増やしてる感じかな」
「な、なるほど……」
現状、扱える力は半分どころか、多分4000くらいだと思う。ガチャを回すたびに、扱える力と最大値は乖離する一方だ。特に今は、『統率』で最大値32000もあるしな。ステータスでこんな調子だし、流石に『レベルガチャ』の事を伝えるのはまだまだ先かな。俺も覚悟できてないけど。
伝えるなら、6人全員かつ、目を離しても問題ないと思えるくらい頼りになる存在になってからかな。まあ、そんなの関係なしに彼女達を迎え入れる気ではあるが。
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