ガチャ380回目:お膳立て

 本格的に狩りを始める前に、ひとまず『充電』を3回分済ませておく。


*****


名前:天地 翔太

年齢:21

レベル:62

腕力:32974(+16422)(+16487)

器用:32982(+16426)(+16491)

頑丈:32770(+16320)(+16385)

俊敏:32070(+15970)(+16035)

魔力:33418(+16646)(+16709)

知力:33760(+16817)(+16880)

運:16000


*****


『10/50』


 よし。『運』もキリの良い数値だし、何だか良い事がありそうだ。

 相変わらずイズミからは、オーラが萎んだ影響か、胡乱な視線が送られてくるが。


「ご主人様」

「ん?」


 そうして第二層に向かう彼女達と別れる直前、アイラが声をかけてきた。


「確認ですが、ご主人様は『黄金香』の効果を正確に把握されていますか?」

「そりゃな。あの時ここで使用されただけじゃなく、あの後も何度か使われたし、研究所からもしっかり報告が上がって来てたしな」


 最初は惚れ薬か何かだと思われていた『黄金香』だったが、何度か使っていく中で、当初に抱いていた効果と少し異なる事が分かった。それは、思いを昂らせ欲望を促進させる点は間違いなかったが、元となる感情を起爆剤にしないと、何も効果が発揮されないというものだった。


「そうですね。ですのであのアイテムは、そもそも相手に好意を抱いていないと『良い香りがする』程度にしか認識されないというものです。ただ、吹きかけた相手に好意を抱いている人間は背中を押されるどころか突き飛ばされ、本人の意志では止まれなくなる効果があるので、結局希釈していない原液は『準禁制品』に登録されてしまいましたが」


 アイラは残念そうにそう言った。まあ『準禁制品』の場合、発見者権限とかで用法用量を守れば割と使っても良いという扱いらしいが。


「んで、なんでわざわざ確認入れてきた訳?」

「皆まで言わせないでください」

「……」

「ですが一言言わせていただきますと、この件は私達全員が認めていますので、そこはご安心ください」

「……ほんとに?」

「はい」

「ほんとのほんとに?」

「はい」


 ボス部屋での話し合いは、これも含まれていたのかな。それに昨日の買い物もそうだけど、俺のいないところで随分仲良くしてるみたいだし……。


「それに、奥様にも発破をかけられたのでしょう?」

「あー……」


 サクヤお義母さんの会話も想定済みか。

 アキもマキも、アヤネもアイラも承知済みで、彼女達はそのつもりで来る……と。俺も心の準備をしておかないとな。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 で。

 アイラに色々と言われて最初はちょっと緊張していた俺であったが、カスミ達はいたって普通の様子だったし、俺も連戦に次ぐ連戦でそんな考えは記憶から抜け落ちて行ってしまった。

 そうして最終的に、綿毛虫の討伐数は予定通り1000となり、『黄金蟲』と『黄金鳳蝶』も10体ずつ撃破。今の『運』で百発百中なのは良いんだが、ここに初めて訪れた時の『運』は確か500前後だったはず。それを思えば、あの時の『黄金蟲』連続討伐時でも、協会員が見守る前で『黄金鳳蝶』が出る可能性はあった訳だよな。

 もし出ていたらと思うとゾッとするが、そういう意味でも『運』が良いのかもな、俺。


「ふう、3人ともお疲れ」

「お疲れ様、お兄ちゃん」

「そこまで強くない相手とはいえ、レアモンスターの連続討伐、お疲れさまでした」

「弱い相手でも、1000体のモンスター討伐は骨が折れるというもの。それを楽し気にこなすとは、流石です兄上」


 最後に討伐した『黄金鳳蝶』が散った後から出てきたアイテムを、彼女達が腰巾着に詰め込む姿を見て一息入れる。なんだかんだで、3時間くらい集中して討伐をし続けたかな。


「それにしても、やっぱりお兄ちゃんはすごいね。休みなしにこんなに狩り続けるなんて」

「そうか? 俺としては平常運転なんだが」


 魔石の大きさの割に、経験値効率の良い『黄金蟲』と『黄金鳳蝶』との10連戦だったが、相手のレベルが18と45の為か、レベルは62から68への上昇にとどまった。

 いくらそのレベル帯では美味しい相手でも、元のレベルが低すぎると経験値的旨みはあまり無かったな。スキルはめちゃくちゃ美味しいが。


「え、えっと……」

「うん?」

「お兄ちゃんは、その……」

「ああもう、カスミ。良い加減覚悟を決めなさい」

「あうっ。ご、ごめんハル」

「まあまあ、ハル殿も落ち着いて。カスミ殿が戸惑う理由も、ハル殿が焦る理由も分かりますが、ここはひとまず深呼吸を入れましょう」


 そういうハヅキも緊張しているのか、3人同時に深呼吸を入れる。

 そしてハヅキは覚悟を決めたように腰巾着に手を突っ込み、中から見覚えのある容器を取り出すと、自分自身だけでなく、カスミやハルにもその中身を吹きかけた。


「……ッ!」


 その瞬間、彼女達に対する想いが強く揺さぶられるのを感じた。

 可愛い妹達という認識から、情欲のそそられる対象へと変貌を遂げていく。


「……『黄金香』か」

「はい、兄上。これの効果は姉上達からお伺いしています。性の対象として僅かでも見られていれば情欲の対象となり、微塵も思われてなければ変化は起きない、と」

「お兄様の反応を見るに、どうやら効果は出ているみたいですね。……はぁ、安心しました」

「これで何の反応も無ければ、諦めるしかないところでしたからね。少なくともそれがし達は、女として見られていたという事でしょうか」

「……」


 カスミが何か言いたそうに口を開こうとするが、気恥ずかしいのか口元をキュッと結んだ。そんな行動1つとっても、目が離せないでいた。

 今まで考えていなかったつもりだが、『黄金香』の効果でハルやハヅキに対してそういう感情があった事を自覚させられてしまったが、それに関してはさほど驚きは無かった。彼女達は十分魅力的だし、納得も出来る。だが、俺はカスミに対しても2人と同等の情欲を向けてしまっていることに心底驚いていた。冒険者同士なら可能という知識もあったが……。

 確かに元々可愛い自慢の妹だったし、再会した時は随分と美人になったと思っていたし、人懐っこいところはそのままだし、彼氏がいてもおかしくはないなと思っていたんだが……。


「……これは、問題ないようですね」

「そうね、さっきから見つめ合ってるみたいだし」

「……おっと、忘れるところでした」


 ハヅキは懐から2つのアイテムを取り出し、起動する。1つは見覚えのある『封音の魔道具』。そしてもう1つは知らないモノだったが、形状が似通ってることから何らかの魔導具なんだろう。起動した瞬間、周囲の空間が真っ白な結界に覆われた。

 もしや、外から見えなくするための魔道具か? わかっていた事だが、彼女達から完全にお膳立てされてる訳だ。


「兄上、失礼します」

「ぶっ!」


 考え事に耽っていたら、ハヅキから『黄金香』を吹きかけられてしまった。その瞬間、明らかに3人の目の色が変わった。


「お兄ちゃん……」

「お兄様……」

「兄上……」


 この光景、なんだかデジャブを感じるな……。

 そしてこの反応を見る限り、ハルもハヅキも、そしてカスミも。俺と同じ想いの様だった。

 ここは据え膳食わぬは男の恥ってやつか……。

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※見覚えのない魔道具は、一巻の追加エピソードからの逆輸入です(宣伝)


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