ガチャ374回目:管理者レベル3

 目を開ければ真っ白な空間が広がっていた。どこのダンジョンも、部屋の構成は同じなんだなと感想を漏らしつつ、いつものように操作パネルへと手を伸ばした。


『ようこそ、管理者様』

「ああ」


 現れたのは羽根の生えた小さな小人。ファンタジー作品に出てきそうな妖精やフェアリーと呼ぶべき姿形をした存在がそこにはいた。相変わらずその身体は半透明だし、ホログラムのように実態感はない。

 けれど、ダンジョンによってコアの形状が異なるのはやはり何かしらの意図がありそうだよな。とりあえず写真写真っと。


『私は当ダンジョンを管理する端末AI、ダンジョンコアです。……3つの管理者キーをお持ちなのですね。おめでとうございます』

「まずは、ここのダンジョンのスタンピード設定を永続OFFに。通知は有りで良い」

『許可。……実行しました。現在525ダンジョンのスタンピード設定はオフです。確認。通知の範囲をお選び下さい』

「範囲……? まず何種類あるんだ」


 レベル1やレベル2ではその辺教えてくれなかったな。本当は最初から使えたのかもしれないが、『ダンジョンコア』はなんというか、こっちの『管理者レベル』が上がるごとに親切になってる感じがする。


『確認。3種類となります』

「それぞれ簡潔に教えてくれ」

『許可。1、ダンジョン内にいる全ての人類に通知。2、当ダンジョン及びダンジョン外にいる全ての人類に通知。3、全ダンジョン及びダンジョン外にいる全ての人類に通知』

「……3で実行してくれ」


 隠す必要はもうないからな。

 ここは大々的に知らしめるべきだろう。


『許可。……実行準備中です』


 準備か。流石に世界中ともなれば規模感違うし、ちょっと時間がかかるのかもな。それに全人類に通達というのも、多分戦闘中だろうが料理中だろうが車の運転中だろうが、ダンジョンに生涯一度も関わっていないようなレベル1や赤ん坊ですら、問答無用で通知が現れるんだろう。

 通知が実行されれば、外はたちまち大混乱かもしれんが、各国の要人だけとかいう選択が取れない以上、俺にはどうしようもないところだ。ひとまず、事故が起きないよう祈るしかないな。


「さて、それじゃ次に、『楔システム』を起動してくれ」

『許可。ワールドマップを起動します』


 目の前にダンジョンの位置が記された世界地図が出現した。『アンラッキーホール』と『1086海底ダンジョン』の2つは、前回と変わらずマーカーが光り、1本の線で繋がっている。

 そこに、『初心者ダンジョン』を示すマーカーも輝き始めた。


『当ダンジョンの『楔システム』を起動しました。……確認、管理者様所有のダンジョンと連結しますか?』

「ああ、実行してくれ」

『許可』


 世界地図上で3つのダンジョン同士で線が繋がり、尖った三角形が出来上がった。その瞬間、地面が大きく揺れた。


『ズズズズズ……!』


「なんだ!?」

『『楔システム』が正常に起動したことを確認。これにより、結界の内外をモンスターが移動する事は不可能となりました』


 今の揺れはそういうことか。


「……ん? 待て、モンスターというのはスキルで懐かせて仲間にしたモンスターも含まれるのか?」

『確認。ダンジョンシステムの枠組みから外れたモンスターは対象外となります』

「えーとつまり、スタンピードで溢れたモンスターだけが対象ということで良いんだな?」

『肯定』


 よし、エンキ達はもとより、イリスの移動が制限されるなら解除を申請するところだった。

 あとは……。前回はぐらかされた中で、使えるようになってる機能があるかの確認をするか。


「質問する。階層ごとの環境は変更できるか」

『……管理者様の手で、環境を変更した履歴を確認』


 おっ。早速か。


『不可。当ダンジョンで、階層全域で環境を変える事は不可』

「ほぅ……」


 不可であることに変わりはないが、面白いことが聞けたな。今の情報を読み解くと、ダンジョンによっては階層ごとに環境が決定づけられているところがあって、その中の一部では管理者になることで操作が可能になるところもあると。

 これも多分、第二層でゴーレム地帯の環境破壊をしてなきゃそもそもこの問答すらなかった可能性もあるよな。やっぱ、色々と試してみるもんだな。


「質問する。出入り口の場所は変更できるか」

『不可。管理者様のレベルが足りません』

「質問する。階層の入れ替えは変更できるか」

『不可。管理者様のレベルが足りません』

「質問する。レアモンスターの出現率は変更できるか」

『不可。管理者様のレベルが足りません』

「質問する。レアモンスターを通常モンスターとして出現させることはできるか」

『不可。管理者様のレベルが足りません』

「質問する。スタンピードは人為的に引き起こせるか」

『不可。管理者様のレベルが足りません』


 行けると思いきや、他の情報は全スカだった。

 あと確認出来そうなことといえば……。


「あ、そうだ。フィーバータイムの延長は可能か?」

『確認。フィーバータイムとは何を指すのでしょうか』


 ああ、そういえばコレの名称は俺たちが勝手につけたんだったか。


「『ユニークモンスター』を倒す事で得られる、1ヶ月のモンスターの内部数値変更のことだ」

『確認。以後管理者様に限り全ダンジョンで、上記システムをフィーバータイムで統一します。……許可。2つの期間の選択が可能です』


 お!?


「具体的には」

『確認。1、1ヶ月の延長。2、無期限の延長』

「ん? 分けて存在する理由が分からんな。質問する。フィーバータイムを無期限にすることで起きる弊害を教えてくれ」

『許可。フィーバータイムを延長した場合、その期間中当システムを発動するための『ユニークボス』が出現しなくなります』

「あっ、そういうことか」


 となると、『カムイ』『ゴブリンヒーロー・ガダガ』『ゴブリンヒーロー・ガドガダ』との戦闘は今後出来なくなるということか。

 あいつらと戦う旨みは、各種スキルに莫大な経験値。それから宝箱から得られる高ランクの道具やアイテム類だ。もし無期限にすれば、それが永久に入手できなくなるということか……。

 まあ腰巾着はそうそう量産するものでもないし、秘宝もそうだ。危ないったらありゃしない。

 スキルも他のダンジョンから得るなり『圧縮』するなりすれば良いし、抜け殻になった連中と再び向き合わずに済むということでもある、か。


「……よし、2番の無期限の延長で、通達は……これも3で実行だ」

『許可。先程実行準備をしていた通知と合わせて実行します』


 これで今後、このダンジョンは快適さを維持したままになるだろう。月一でボスを討伐するというのも、結構大変だし、他の誰かが湧かせちゃったらもっと大変だしな。

 さて、聞きたい事もやりたい事も終わったし、そろそろ皆のところに帰るか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これにて12章完!


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