第十三章 予備チーム育成

ガチャ375回目:騒ぎを終えて

 『初心者ダンジョン』を完全制覇し、『管理者レベル』が3となり、『楔システム』を起動したことで俺の周囲は慌ただしく動き始めた。『ダンジョンコア』から出た俺は、そのまますぐにダンジョンを脱出せずに第五層で1日のんびりしてから帰還したんだが、この騒ぎは1日やそこらで収まるものでは無かった。

 地上では『Sランク冒険者』の授与式以上に人が集まっていて、ダンジョン前は大混雑。出てきた俺達は盛大にフラッシュが浴びせられた。結局皆と約束した休暇を取るにも、世間がそれを許してくれず、チームの代表として俺はあちこちに引っ張りダコになりかけた。

 けど、そこは優秀な婚約者とその親族たち。スケジュールはアヤネとアイラが調整し、面倒ごとはアキとマキが事前に準備を整えていたミキ義母さんと一緒に片付けてくれた。多分裏ではサクヤお義母さんも動いてくれたんだろう。


 ただまあ、その現象を引き起こした張本人が出張らないわけにはいかなかったので、最後に俺も頑張ったが。『Sランク冒険者』としてデビューして、1週間も経たずに3つのダンジョンの『スタンピード』永久防止の発表に加え、『楔システム』の実行者だ。説明を求められるのは当然というもの。

 説明と言っても、あちこちにあいさつ回りしたりとかそんな面倒な事は全スキップで、協会が用意してくれた会見の場で、事前に準備された寸劇……というか茶番で決められたとおりの質疑応答に答えるだけだったので、楽ではあったが。


 それと外に出て初めて気付いたが、この『楔システム』。

 驚くべきことに、『ダンジョンコア』で見た世界地図の結界は、実はイメージ映像ではなく実際に起こっていた事のようで、結界そのものを目視する事が可能だったのだ。まさか見上げてみれば、オーロラのようなものを拝めるとは。

 しかし、この結界。半透明な膜のような形で存在しており、地上に近付くほど存在感が薄くなり、俺くらいの『直感』が無ければ知覚出来ないようになっていた。また、直視可能な上空の結界も触れることは出来ず、どのような計器でも目の前で揺れ動く結界の存在を観測する事は叶わなかったらしい。そんな存在が突然現れれば、誰もがパニックになるだろうが、そこもミキ義母さんのおかげで混乱は回避された。

 また、記者会見での質疑応答でもそこは触れられていて、『初心者ダンジョン』『アンラッキーホール』『1086ダンジョン』を囲むように存在する結界内は、ダンジョン発生後、世界で一番安全な土地であることが世に知れ渡ったのだった。

 その結果、結界内部の土地の価値が一夜にして数十、数百倍に膨れ上がったらしいのだが、そこは知った事では無かった。どうせ今後も、俺はその範囲を広げていくつもりだしな。


 そして今、俺はというと自室でエンキを膝に乗せつつ、支部長会議に参加していた。


『まさかこんな結果になるなんて……』

『あら、言ったとおりになったじゃない』

『うぅ~……』


 この支部長会議には、第一エリア所属の支部長が勢ぞろいしていたが、冒険の無い日は参加しているはずのアキとマキの姿は無かった。なんなら、我が家には現在、俺とエンキ達しかいなかった。

 彼女達は全員、カスミ達『疾風迅雷』チームを連れて、女の子だけのショッピングに繰り出している。なんでも、水着を買うとかなんとか。


「まあ、元々考えていた理由に加えて、行く理由が増えたのが大きいですね。ヨウコさん、すみませんが諦めてください」

『ゴゴ!』

『……分かりました。覚悟を決めます』

『必要になったスキルを思えば当然じゃの。だが少年よ、ワシは諦めとらんぞ?』

「わかってますよリュウさん。俺も、『上級ダンジョン』は歯応え有りそうですし、その内攻略しに行きたいと思ってますから」

『アマチさん、『中級ダンジョン』も忘れないでくださいね……?』

「もちろん。その内行かせて頂きますよ」

『もう、そんな他人行儀な言葉遣い、いやよ。あの日みたいに甘えてくれていいのよ……?』

「サ、サクヤお義母さん。流石にこの場でそれは……」

『ふふ、冗談ですよ』


 この支部長会議に呼ばれた理由はただ一つ。今後のダンジョン攻略の優先権を、ほとんどの人が欲しがったからだ。なんなら、局長や義母さん達が抑えてくれたみたいだけど、国内の他支部や、国外からもオファーが来ていたらしい。

 他の地域のダンジョンってのも興味は惹かれるが、3層程度で終わる浅いダンジョンならまだしも、それ以上に広がるダンジョンは攻略に時間がかかるからな。あまり浮気は出来そうにない。それに、『楔システム』そのものが、内部に未攻略ダンジョンが挟まったりする場合や、距離がとんでもなくある場合でも関係なく線を引けるのか不明だからな。『ダンジョンコア』も、その辺レベル不足だとかで教えてくれなかったし。制覇してから無駄骨でしたじゃ、色々と辛いからな。

 だからまずは第一エリアの近場から平定して行くつもりだ。そんな中、俺の思惑を知ってか知らずか、結界の外周部に位置するダンジョンからのアピールは熱気からして凄まじかった。『上級ダンジョン』のリュウさん、『機械ダンジョン』のサクタロウさん、そして『中級ダンジョン』のサクヤお義母さんからは特に。逆に来て欲しくなさそうな『ハートダンジョン』は空気に徹していたのか静かなものだったが。


 他の支部長達が、攻略を開始してくれたらと貴重なスキルやアイテムなどを提示してくれる中、上記3つの支部長はまるで異なる事を言ってのけたのだ。

 まずリュウさんは俺が欲していると聞いて、オークションにも出回る事がないというミスリル鉱石を始めとした特上のダンジョン鉱石類を提示してくれた。しかもその量に際限は無いという。攻略を始めればいつか大量に手にする機会はあるかもしれないが、それが開始と同時に手に入るとなれば今後の攻略の幅が広がるのは間違いなかった。

 次にサクタロウさんは、成功報酬ではなく実際に俺の興味を惹く事を教えてくれた。なんと、ダンジョン内に変異ゴーレムに近い生態のゴーレムが出現するという。しかもその強さは、レアの段階で『ゴーレムコアⅤ』持ち。それが事実なら、エンキ達の強化に繋がるだろう。エンキ達の強さは俺の生命線に直結する。『ダンジョンボス』に遅れを取ってはいたものの、今の段階でも十分強いが……伸びしろがあるのなら何とかしてあげたいと思うのが親心だ。

 最後にサクヤお義母さんは……まあ、なんというか、とても魅力的なお誘いだったとだけ。


『それで、いつ頃いらっしゃるんですか?』

「早ければ明日にでも。ただまあ、最初の数日は本当に休暇目的もあるんで、本格的な攻略はもうちょっと先ですけどね」


 だが、最終的に選ばれたのは上記の3つではなく、散々嫌がられていた『ハートダンジョン』だった。攻略途中だったから一番気になっていたのもあるが、あそこは『金剛外装』が手に入る唯一のダンジョンであり、修行を行うにもうってつけ。

 カスミ達を仲間に加えた以上、安全のためにもスキルの確保は最優先にしないとな。


「あ、それと『金剛外装』ですが、たぶん余ると思うのでまたオークションが賑わうと思います」

『おお!』

『楽しみじゃな!』


 あのスキルは有用性半端じゃないもんなぁ。他のレアモンスターと違って出現からして渋いし。

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