ガチャ369回目:悪寒の正体

 『ダンジョンボス』として君臨した『ウェンカムイ』。そこから発せられる原理不明の悪寒に俺は混乱していた。だが、その悪寒を感じているのは俺だけの様で、歴戦のアイラですら知覚できていない様子だった。

 奴は仁王立ちをしたままこちらを睨み続けているが、動く気配はない。その為、皆緊張を紛らわせるためか、口を開く。


「皆さま、慎重に行きましょう」

「おっきなクマさんですわ……」

『ポポ~』

「何よあのクマの化け物……!」

「ひぇー、つよそー……」

「ハル殿、あれはそれがし達の手に負える相手ではありません」

「……そうね。ここはお兄様たちにお任せしましょう、良いわねリーダー?」

「うん。お兄ちゃん頑張って……!」


『ゾッ、ゾゾゾッ……!!』


 奴が発する圧力に変化はないのに、見えない何かが警鐘を鳴らしている。本来であれば、軽口を叩くのは士気をあげるのに必要な行為だ。俺もよくやるし、それが悪いとは思えない。だが、蜂にも存在していたように、何かしらのアクションが地雷原となる可能性があるのなら、原因を特定しなければ不味いことになる!


「全員、静かに!!」


 人差し指を立て、口を噤ませる。

 その時になってようやく彼女達は『ウェンカムイ』から視線を外し、俺の焦りを感じ取った。


『……』


 奴はまだ、動かない。

 彼女達の軽口は小声だったが、俺の静止は大声だった。それに反応して動き始めたりはしないか。


「『真鑑定』……違うか」


 もう1度、奴のステータスを見てみるが、何も変化は無かった。だが、それと同時に強烈な違和感も感じていた。つまりは、ステータスを見て違和感を感じるのなら、この悪寒の元凶は奴が内包しているステータスに向けられているものではないか?

 違和感は疑念となり、疑念は確信へと変わって行く。そして、1つの解決策の存在に思い至った。


「そうだ、あれだ! 『真理の眼』『真鑑定』!」


*****

名前:ウェンカムイ(ダンジョンボス)

レベル:250

腕力:2800【+60%】⇒★4480

器用:1500【+60%】⇒★2400

頑丈:2600【+60%】⇒★4160

俊敏:1800【+60%】⇒★2880

魔力:9999【+60%】⇒★15999

知力:2000【+60%】⇒★3200

運:なし


ユニークスキル】★鑑定偽装Lv2、★気配偽装Lv2

ブーストスキル】剛力Ⅴ、怪力Ⅴ、阿修羅Ⅳ、怪力乱神Ⅱ、俊足Ⅴ、迅速Ⅴ、瞬迅Ⅳ、鉄壁Ⅴ、城壁Ⅴ、金剛体Ⅳ、難攻不落Ⅱ

パッシブスキル】風耐性Lv5、魔法耐性Ⅲ、身体超強化Lv1、体術LvMAX、武闘術Lv1、狩人の極意Lv1、姿勢制御Lv2、悪鬼羅刹、蛮勇Ⅱ、性豪Lv1

PBパッシブブーストスキル】破壊の叡智Ⅳ

アーツスキル】暗視Ⅲ、衝撃Ⅲ、鎧通しⅢ、ウェポンブレイクⅡ、アーマーブレイクⅡ、チャージアタックⅣ、追跡者Ⅴ、神通力Ⅱ

スペシャルスキル】王の威圧Ⅳ、巨人の腕、★山神の怒り


武技スキル:覇王爪、真空斬り


装備:悪神の爪

ドロップ:悪神の毛皮、ランダムボックス、ランダムな装備

魔煌石:大

*****


「……ははっ、そういうことか」


 ステータスの+60%。これが恐らく悪寒の正体だろう。

 悪寒は全部で3回あった。そしてあの短時間で3回起きた事は、彼女達が溢した【クマ】というワード。それを発する度に20%ずつステータスが上昇していったのではないだろうか。

 真相はこうだ。まず『鑑定偽装』で2つの重要なスキルを隠し、『山神の怒り』が地雷ワードによってステータスを急成長させ、『気配偽装』で変化を誤魔化している……というわけだ。しかも、アイラ達が違和感なく視えているという事は『鑑定妨害』の機能も無効にしているんだろう。ほとんどのスキルを隠さないことで、逆に何も隠していないのではと錯覚させている。

 もしも見えている物が全てだと思い込んで突撃していたら、きっと手痛い目にあっていただろう。とんだ策士だな、このクマ野郎は……!


「……で、思うだけなら反応なし、と」


 口は災いのもとって奴か。

 そういえば神様って奴の中には、自分の名前を言われるのをとにかく嫌がるタイプのもいるって何かの話で耳にしたことがあるな。蜂もそうだったが、一部のモンスターには地雷行動が含まれている。今後も注意しておこう。


「皆、聞け。奴の動物学的な2文字の種族名は、これから絶対に口にするな。口にするたび全てのステータスが20%ずつ上昇する厄介なスキルを持っている。更には、それを隠す為のスキルも2つ有している。『鑑定偽装』と『気配偽装』だ。初めて聞くスキルもあるだろうが、効果は字面から察してくれ。心の中で思う分には好きなだけ言って良いから、口には出さないように。良いな?」


 全員がこくりと頷き、心当たりのあるメンバーとレンカが口を押さえていた。

 さて、あのステータスが偽物でもハリボテでもないのなら、かなり厄介な事になるが……。


「エンキ、相手の『腕力』は4480だ。いけるか?」

『ゴ!!』

「よし、それじゃ行くぞ!」


 俺が走り出すと、エンキ、イリス、セレンの順で吶喊。近付いた事で敵と認識したのか、『ウェンカムイ』も動き出した。


『ヴウオオオ!!』

「『金剛外装Ⅲ』!」


『ガィン!』


「追撃の『閃撃Ⅲ』!!」

『ゴゴ!!』


 振り下ろされた爪を黄金の壁で弾き飛ばし、バランスを崩したところを『閃撃』による飛ぶ斬撃と、エンキの鉄の拳で初撃を入れる。


『ヴォ、ヴウオオオ!!』

「効果薄いか」

『ゴゴゴ!』


 初手は斬撃と打撃が綺麗に入ったはずだが、流石は『頑丈』4160の4種の該当スキル持ち。出血こそみられるものの大したダメージは与えられてないし、むしろ怒りを買っただけのように思える。

 だが、エンキと取っ組み合いをしている隙に再確認するも、その怒りはステータス上昇には反映されてはいなかった。あくまでも、名前呼びに対する自動機構であり、感情によって左右されるスキルではないようだった。これで、他の要因でも強くなられたら勝利は絶望的だったが、これならなんとかなるかもだな。

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