ガチャ367回目:第五の試練

 煙は3つに分裂し、俺達を囲い込むように散らばった。

 そしてその煙は、モンスターをゆっくりと吐き出し始めた。俺はその中から、一番小柄で直近で感じたばかりの気配を探り、急接近する。


「『無刃剣Ⅲ』!!」

『カッ……!?』


 『リザードマンハンター』は、煙から抜け出すと同時に煙に還っていった。3つの内の1つの気配が消えたのを『疾風迅雷』チームも感じ取ったのか、彼女達も気合が入ったらしい。まず真っ先に司令塔であるハルが叫び、モンスターの敵愾心を煽った。


「そこの木偶の坊! 私が相手よ!!」

『ゲア? ゲアアアッ!』


 ハルの全身から赤い霧のようなものが出現し、『チャンピオンゴブリン』を包み込む。すると奴の視界にはまるでハルしか映っていないかのように、彼女目掛けて走り出した。

 あれがタンク役を目指すなら絶対に欲しいと言われている『挑発』のスキルか。そのスキルの希少性から、明確にタンクの役割が出来る盾持ちは少ないらしい。でも確かに、あんな風に敵が無我夢中になってくれるのなら、他のメンバーも自分の仕事がしやすくなるだろうなぁ。

 うちもエンキに覚えさせたいスキルだな。


「……んで、結局ハイブはノンアクティブだったわけか」


 俺は視線をそのままに、隣にやってきたアキに確認する。


「うん。ショウタ君の予想してたように、手を出さない限りは完全に置きものみたい」

「なら、彼女達の戦いが終わるまで観戦していようか。今防衛隊を出すと邪魔しちゃうだろうからな」


 夢中になって剣を振り回す『チャンピオンゴブリン』の攻撃を、ハルはしっかりと盾で迎え撃つ。そうして隙だらけになった背後から、カスミ、ハヅキ、レンカの3人が波状攻撃を仕掛け、相手に傷を負わせていく。そしてイズミは魔法で攻撃して、イリーナは前衛が怪我をした際の保険だろうか。じっと様子を伺うようにしている。

 彼女達が囲む『チャンピオンゴブリン』はそれなりの巨体だが、誰も臆してる様子はないし、戦い慣れてるような気配がする。 


『ゲア……? ゲゲッ!』

「フォーメーションB!」

「「「「「了解!」」」」」


 何度も攻撃をした為か、それとも時間制限か。『挑発』の効果が切れたらしく、相手は赤い霧から解放されてしまった。だが、彼女達も当然織り込み済みのようで、今度はハルが動き回って、ターゲットにされた仲間をカバーしたり、盾で弾き飛ばしたりと大活躍をしていた。

 自分の攻撃がとことん妨害され、スキル無しにハルへの敵愾心を高めた『チャンピオンゴブリン』は、またしても隙だらけとなったところを3人のアタッカーと、後衛職2人の魔法に狙い撃ちされる。

 どうやらスキルをフル動員しても、基礎ステータスが倍増したハルを突破できないらしく、奴に勝ち目は無かった。結果、5分とかからず『チャンピオンゴブリン』は煙となり、彼女達は危なげなく勝利するのだった。


「お疲れ。皆良い連携だったな」

「ありがとうございます、お兄様」

「いつもあんな風に戦ってるのか?」

「はい、それがし達の通うダンジョンには、ああいった大型のモンスターもおりますので、同じように戦わせて頂きました」


 レアモンスターではなくて、通常モンスターで数メートルサイズの奴らがいるのか。世の中広いなー。


「いつもの相手よりもスキルも豊富だし、ステータスも高いはずなのに、苦戦するどころか楽勝過ぎてびっくりだけどね。ほんと、基礎ステータスって大事だなぁ……」

「その上あたし達にはまだ大量の『SP』が余ってるしね。何を取って何を捨てるか慎重に決めていかないと」

「お兄ちゃん、相談に乗ってくれる?」

「良いけど、最後に決めるのはお前たちだからな」


 修行はつけてやる約束はしたがそこまで口出しするつもりは無い。『SP』は各個人の好みというか、戦いのスタイルに合わせるものだしな。


「……あっ。忘れてたけどレンカ、あなた全振りなんてしてないでしょうね?」

「大丈夫だよー。皆にも止められてたし、大先輩のアキさんも相談に乗ってくれるって言ってるもん!」

「「「ほっ……」」」


 ハル、カスミ、イズミは胸を撫で下ろしていた。

 レンカのレベルごとの『SP』がいくつかは不明だが、110レベルも上昇した以上、総じて500~1000ポイントはあるはずだ。そんな膨大な数値がもしも『腕力』に加算されたとなると……。うん、大変な事になっていただろうな。


「流石レンカ様。思いとどまれて偉いですわ」

「えへへ、そうかなー?」

「極振りですか。それがしにはとても真似できません」

「バランスって大事だもの。今まで散々説いてきてよかったわ」

「ボク、今でも迷ってるんだよ? だって、どんな強敵でもすっごい一撃を入れたら倒せるんだよ?」

「当たればね。すばしっこいモンスターならどうするのよ」

「ハルが抑えててくれたら大丈夫じゃないかなー?」

「信頼してくれるのはありがたいけど、限度があるでしょ」


 ステータスの極振りかー。

 俺はガチャのおかげでバランスよく育っているように見えて、その実『運』特化だからな。一番最初のレベルアップで『腕力』に1回だけ割り振った事はあれど、それ以降の『SP』はずーっと『運』に注ぎ込んできた。

 『運』なんかの戦闘に直結しないステータスは、『知力』『魔力』もそうだが割り振っても変化を感じ辛いが、他の4種は割と露骨に変わってくる。特に1000までは顕著だ。

 逆に1000を超えだすと、扱う為に必要な技量が跳ね上がる反面、たいして強くなった気がしないんだよな。まあまだ力の全てを扱えてる訳じゃないからそう感じてるだけなのかもしれないが、『腕力』10と『腕力』1010が生み出す攻撃力の差と、『腕力』1010と『腕力』2010の差は等価じゃない気がする。

 数字だけはしっかり増えているが、目に見えない内部値のようなものが全然違う感じがする。だからまあ、数値が1000を超えるのなら極振りよりバランスよく振った方が良いと思うんだが……。これは直感というよりも体感だし、説明がしづらいな。


「それじゃ、今から蜂と戦う訳だけど、連日蜂蜜にまみれるのは流石に嫌だからな。エンキとセレン、それからイリスの3人で頼めるか?」

『ゴゴ!』

『~~♪』

『プルルン』


 エンキはボディを換装させれば匂いは取れるし、あとの2人は身体が液体だ。纏わりついた匂いを維持するのも、吸収して取り除くのも自在だったりする。俺達は彼らの全身に蜂蜜を塗りたくったあと、距離を置いて見守る事にした。

 まずイリスが『ビッグキラーハイブ』に侵入し、内部破壊を開始。そして出現した蜂は、エンキに護衛されたセレンが『海魔法』を発動。昨日と同様少数だった為、たった1回の津波により蜂の群れは殲滅されたのだった。


『~~♪』


 そのままイリスの内部破壊が進行し、第2ウェーブで大量の蜂が現れるも、先程と同様に津波によって蜂の大群は飲み込まれ、全てが煙へと変わって行く。そして巣は津波の影響は受けなかったものの、内部からの破壊に耐え切れず瓦解し、ゆっくりと煙へと変わって行った。


『~~♪』

『プルン!』


 防衛隊の蜂も、やっぱりレベル表示はなくスキルこそなかったものの、大量の蜂蜜はドロップしてくれたようだ。これでしばらくは蜂蜜に困る事はないな。


「セレンちゃんすごい!」

「わー!!」

「プカプカ浮いてるだけの子じゃなかったのね……」

「人や障害物のある場所じゃ、本領が発揮できない子だからな」

『~~♪』


 森では木々が邪魔だったし、山では敵が散らばり過ぎてて、セレンが得意とする広範囲かつ殲滅力の高い『海魔法』は使えなかった。だから第五層にやってきて初めて活躍できたこともあって、今日合流した彼女達は驚いているようだ。


『ゴトッ』


 そうして全てのレアモンスターが倒されたことにより、煙は1カ所に集まり、中から宝箱が現れたのだった。

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