ガチャ359回目:隠者の戦士

「槍使いか。いつぞやの『甲殻騎士』を思い出すな」


 強さでいえば明らかにこっちの方が格上のはずなのに、なんでだろうな。思い出補正か知らないが、こっちの方が弱そうに見える。

 しかしLv93か。せっかくレアモンスターとして出てきたのに、このメンツの中で誰よりも弱い。ああいや、イズミは専属受付嬢だからちゃんと低いのと、イリーナがちょっと周りより低いんだったか。ただまあ初見の相手ではあるし、誰かに任せたりせず俺自身でケリを付けてやるかな。

 そうして、一瞬奴から意識を外して再び認識しようと前を見たが、そこにモンスターの姿は無かった。


「ん!?」


 消えた……? いや、何かが居る気配は間違いなくするが、霧のように霧散していて、どこに居るのか具体的な位置が絞れない。『全感知』を起動すればすぐにでも見つけられそうだが……。


「……そこか」


 空気の揺らぎを感じ、そこを目掛けて剣を振り下ろす。


『ガインッ!』


『クルッ!?』


 どうやら、奴が持つ槍の柄と激突したようだった。俺としては脳天をカチ割るつもりで振ったんだが、少したみたいだな。

 やはり『全感知』なしで隠れた初回の敵を『直感』だけで見つけ出すのは無茶だったか。だが、2回目以降は『予知Ⅳ』による自動補正もあるし、すぐに合わせられるだろう。

 そんなことを考えていると、奴はまた姿を隠した。だが、アイラもいつか言っていたように、一度バレた相手に『隠形』はしばらくの間効かなくなる。『予知』などなくとも、俺の剣はほぼ正確に相手の首を掻き切った。


【レベルアップ】

【レベルが75から99に上昇しました】


 あー……。レベルの割には『大魔石』だったから心配だったけど、100はギリギリ越えてくれなかったか。そうして残念な気持ちになっていると、死体からは煙が立ち上り、その場に留まっている。

 この場に次が出るのか、それとも霧散するのか、今度こそ移動するのか……。


「旦那様ー、お疲れ様ですわ!」


 真っ先にアヤネが飛びついてきて甘えてくるので撫で返す。うん、ちゃんとカメラは外してるな。

 ん? カメラ?


「そういえば何の確認もせずに戦って討伐したけど、動画としては大丈夫だった?」

「平気ですよ。90体を越えたあたりから私達は準備してましたし」

「ちょっと引きで撮ってましたから、レアモンスターも画面に入ってるはずですの」

「そっかー。ありがとな2人とも」

「えへへ」

「はいですわー」


 2人まとめて褒めていると、カスミ達は少し離れたところでヒソヒソとしていた。


「雑魚戦でもお兄様の存在感強かったけど、レアモンスター相手でも危なげなく勝っちゃうじゃん。イズミちゃんびっくりー☆」

「その実力の一端しか見られていないけど、私たちに近付いてくる男達なんかより、格が違うのは間違いないわね」

「お兄さんって、今のモンスターと戦うのは初めてなんだよね? それであんな軽やかに不意打ちに対処できるなんて、憧れる気持ちボクもわかっちゃうなー」

「でしょ?」

「あはは、カスミちゃんドヤ顔してるー☆」

「ま、こんなに凄い肉親が近くにいたらそうなるわよね」

「一瞬で気配を消した相手の位置を即座に見破り、二撃必殺を決める判断力。カスミ様が実の兄にときめく理由、それがしも理解できました」

「お兄様からはどこか、神聖な力すら感じられますわ……!」


 褒められてるのは分かるんだけど、今日初めて会ったばかりの子達にここまで持ち上げられると、なんだかくすぐったいな。


「アキ、アイラ」

「んー?」

「はい」

「この煙は当然として、ハイドハンターから進化する際の煙も見えていたよね?」

「ばっちし」

「勿論です。ですがネックレスの効果でご主人様の『運』と共有しているからでしょう。ゴブリンの際に試してみましたが、外した途端に見えなくなりました」

「そうなのか。第五層だけあって、初期レベルの『運』じゃ確認することも叶わないか……」

「ちなみにあたしも外してみたよ。けど、あたしとマキは『運』に割り振ってるから変わらず見えてたままだったよ」

「そうか……。アキとマキは『運』が300越えてたよね」

「はいっ」


 300もあれば、大抵の煙は見えそうだよな。


「ねえマキー、そろそろ交代して?」


 そうして彼女達とイチャつく事10分ほど。ようやく煙が動き出した。


「おっ」


 どうやらちゃんと山頂に向かって動き出したらしい。速度でいえば俺の最高速度と同じくらいだったが、そこまで速いと追う気にはなれなかった。1人で突出するのはもう懲り懲りだし、そもそもあの時は『有効化されていたマップの範囲外』に煙が向かっていったからというのも大きいんだよな。

 けど、今回は事前に第五層の地図情報は解禁してある。マップを開いて、出現した赤丸がいればあとからゆっくり追えばいい。


 マップを開き、見守っていると、立体で映し出された山の内部。恐らく洞窟と思われるポイントの奥地にて、赤丸が出現。そしてすぐに


「は?」

「え、消えた……?」

「何でですの?」

「忽然と姿を消しましたね」

「付近に白点は無いんだし、倒された訳じゃなさそうだけど」


 俺も倒されたとは思えない。考えられるものとしては2つ。

 1つ目は、『放置による消滅時間がありえないほどに短い』。

 2つ目は、『隠れ身』『隠形』ときた以上、『マップからも隠れる能力』を持っているか、だ。


「どちらにせよ、直接向かって確かめるしか無いな」

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