ガチャ357回目:最後の山

 マキとイズミの会話が気になり過ぎて、聞き耳立てるだけじゃ我慢ならず、思わず振り返ってしまった。


「あ、お兄様も気になりますー?☆ マキ先輩の人気っぷり」

「そりゃ勿論。俺も出会ってすぐに一目惚れしたくらいだし、マキの可愛さもその人気も知ってるけど、具体的にどれくらいかってのは知らないな」

「あうっ……」

「わぉ、熱々ですね☆」


 マキは恥ずかしそうに顔を押さえた。

 俺にとっては525のダンジョン掲示板と、810のダンジョン掲示板しか見たことがないから、他のところは覗いたことがないんだよな。見に行かない理由はダンジョンとは関係ない内容だからというのもあるが、ああいうのは大体魔境だろう。アキとマキと付き合う事になる前後ですら、関係のないはずのダンジョン掲示板すら一時期騒然となっていた。

 それの大本なる掲示板なんて、素人が無闇に飛び込むものではない。絶対怖い事になってる。……まあ今ならほとぼりも冷めてるかもしれないが。


「ご、ごめんねイズミちゃん。私、あまりああいうのは見ないようにしてたから、詳しくは知らないの……」

「えー、そうなんですかぁ?」

「マキの人気は凄かったわよー。第一エリアは支部が全部で10個もあるけど、数百人以上もいる受付嬢の中で断トツだったからねー!」

「わかるなぁ。マキ義姉さん可愛いし納得かもー。実はイズミも第二エリアで上位ランキングに入ってるから、マキ義姉さんのことライバル視してたみたいなんですよー」

「ちょ、ちょっとカスミちゃん! しーっ! しーっ!!」


 慌てるイズミを見て、マキがくすりと笑う。


「そうなんだ? ふふ、でもイズミちゃんも可愛いと思うから、すぐにもっと人気になれると思うよ」

「……お世辞は結構ですぅ」

「そんなことないよ。イズミちゃんのレベルは?」

「30ですけど」

「それならたぶん、大丈夫だよ。今日、世界を無理やり変えられると思うから……」


 マキが俺に視線を送った後、まるで慰めるような表情でイズミを見ていた。


 その視線が何を意味してるのか理解はできるが、実際レベル上昇での美醜の変化は、正直俺にはよくわからないんだよな。周りにいる子達が最初から皆綺麗だったり可愛かったりしたからな……。レベルが上がった事で魅力的になったとは思うが、根本から変わったようには思えない。

 そう感じるのは目が肥えてしまっているからだろうか?


「な、なんだか怖くなってきたんですけどー?」

「ふふ」


 しかしレベル30か。せっかくだから彼女や他の子達も、最初に討伐させる対象は通常のレアではなく『レアⅡ』をぶつけるのもありかもしれないな。そんな事を考えながら進み続けていると、前方から気配を感じて足を止めた。

 そろそろ上り坂になってきたし、出発前に開いたマップで、赤点あったのもたぶんこの辺りだろう。赤点は微動だにしていなかったから、まだ動いていなければこの近くにいるはずだが……。

 さて、どこにいるだろうか。


「ふーむ……」


 前方に広がるのは、何もない岩肌の斜面。気配通りなら居るはずの存在が見当たらない。

 俺が不意に足を止めた事で、皆から不思議そうな顔をされる。


「お兄ちゃん?」

「……いや。あれか」


 岩と砂利、地面と完全に擬態し、居るとわかっていなければ分からないレベルの迷彩モンスターがそこにいた。


「『真鑑定』」


*****

名前:ハイドハンター

レベル:35

腕力:380

器用:450

頑丈:180

俊敏:340

魔力:200

知力:200

運:なし


アーツスキル】隠れ身Lv1、気配遮断Lv1


装備:なし

ドロップ:ハイドハンターの迷彩皮膜

魔石:中

*****


「うお、『中魔石』の雑魚か。そこはフォレストベアと同じだが、明らかにアレより強いし、しかも良いスキルを持ってるな」

「え、モンスター? どこどこ!?」

「……それがしも見つけました。さすがです兄上! この距離で、かの存在にいち早く気付くとは」

「お、もう見つけたのか。やるなあハヅキ」


 頭をポンポンすると、ハヅキはくすぐったそうに身をよじった。


「ううー。見つける力はハヅキちゃんには全然敵わないけど、私も褒められたい……。でも見つからないよぉ……」

「ほら頑張れカスミ、ここから真っ直ぐだぞー」

「うー……?」


 ハヅキやカスミとじゃれ合ってると、他の子達も隣に並び出して探し始めた。

 流石にアキとマキはこのモンスターの事はある程度知ってるだろうし、アイラはアイラだからな。モンスター探しには参加せずに、少し後ろで彼女達を見守るスタンスのようだ。ハヅキの次に見つけられたのはハルで、他の子達は50メートル地点では限界そうなのでもう少し近付いてみる。


「……あ! あれのこと? 顔が右向き、になってる感じのトカゲっぽい奴!」

「お、正解だ。まだ40メートルくらいあるのに気付けて偉いぞー」

「えへへ」


 でも流石に距離があり過ぎる為か、その距離で迷彩トカゲを見つけられたのはカスミまで。アヤネとイリーナ、そしてレンカとイズミは見つけられずにいた。さて、名前から察するに『隠れて襲う』タイプのモンスターっぽいけど、その辺どうなんだろうか。


「アキ、マキ。もうネタバレしていいよ」

「りょうかーい。といっても、本当にわかってることは少ないのよ」

「レベルもステータスも『初心者ダンジョン』の中では通常モンスター最強格ですし、その特性から普通の冒険者は事故を恐れて近付けません」

「確かに、変異ゴーレムよりも上だもんな。普通の冒険者はあのクマを避けるし、あのレベルの相手には手を出さないのが普通か……。じゃあ、どのくらいの距離まで近づいたら襲い掛かってくるとかも、不明な感じ?」

「うん、全然調査出来てないの」

「というわけでショウタさん、お願いします!」

「おっけ。それじゃ、雑魚も記録に残しておいた方が良さそうだし、カメラ回しといて」

「はいっ」

「はいですわ!」


 まずは俺が前を歩き、20メートルほどの距離まで近づくも、ハイドハンターは動かなかった。なので全員その距離まで近づいてもらい、改めて全員にハイドハンターの位置と姿形を認識してもらう。

 流石にそこまで近づけば、全員見つける事が出来た。アイラが持つ『隠形』同様、『隠れ身』というスキルも誰かにバレたら効果が薄まるのかもしれないな。


 そうして俺はゆっくりと近付き、ハイドハンターの横を通り抜けるようにして歩いてみると、丁度残り3メートルを切った瞬間、ハイドハンターはまるでワニのように大口を開けて襲い掛かってきた。俺はそれを飛んで回避し、空中で回転するように剣を振るい頭を斬り落とした。


「わぁ……!」

「すごい!」

「鮮やかです!」


 妹達から賛辞が贈られる中、俺は改めてこの階層の事を考えていた。

 第三層に生息し、誰もが避ける武闘派のクマより厄介な迷彩トカゲ。ひとたび手を出せばレアモンスターを引き連れて飛来してくるハチの群れ。最低でも10体前後で徒党を組む無数のゴブリン軍団。

 そりゃ、誰も調査したがらないよなぁ……。

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