ガチャ355回目:1人と10人

「今行くよー!」


 呼び鈴に真っ先に反応したのはカスミだった。

 来客はあの子の関係だろうかと見守っていると黄色い声が聞こえてきた。


「ショウタさん、行きましょうか」

「なんだなんだ?」

「レッツゴーですわ!」


 訳も分からないままマキとアヤネに引っ張られ、家の外へと出た。そこではカスミと同じような振袖装備をした女の子たちが何人もいて、カスミを中心に喜びを分かち合っている様子だった。


「えーっと……。カスミの友達?」

「あ、お兄ちゃん、紹介するね! 彼女達は私のチーム、『疾風迅雷』のメンバーだよ!」


 そうして順番にメンバーの紹介を受けた。

 サブリーダーであり、チームの司令塔兼、タンク役のハル。

 メインアタッカーでありカスミと同じ刀を装備した、古風な女の子ハヅキ。

 サブアタッカーであり、格闘武器を扱う元気いっぱいのレンカ。

 ヒーラー役であり、ほとんどが振袖装備の中シスターさんっぽい恰好の女性イリーナ。

 そして本来は前線には出てこないけど、『初心者ダンジョン』だからついてきたという専属受付嬢のイズミ。


 なるほど、ここにカスミを入れた5人+1がカスミのチームか。彼女達1人1人と挨拶を交わしていると、何処かで見た記憶のある女の子がいた。


「……ん? ハヅキってもしかして、カスミと同じ道場に通ってた?」

「おお、覚えておいででしたか」

「つっても、10年も前だし、記憶は朧げだけど」

「それはそれがしも同じことです。記憶にあるのは鍛錬のあと、カスミ殿がベッタリと甘えていた兄がいた事だけ。当時の記憶では仲睦まじい様子でありましたが、今も変わりがないようで安心しました」


 俺とカスミは、ステータスが現れる前は地元の剣術道場に揃って通ってたんだよな。世界にダンジョンが現れてからは道場なんかの戦闘技術が学べる場所は需要が高まっていったが、俺はステータスが表面化したことで、基礎体力も身につけた技術も、全てが地に落ちて弱体化してしまった。

 通うのが辛すぎて俺は行かなくなったが、カスミは与えられたステータスに驕らず、修練を続けたんだろう。それは恐らくハヅキも同じであり、他のチームメンバーも努力ができる子達なんだろうな。皆、真面目で良い子そうだ。

 俺はアイラに耳打ちした。


「……アイラ。あのテントはそういうこと?」

「はい。ご主人様ならカスミ様とその友人達を別テントに分ける事を良しとはしないでしょう。また、カスミ様のレベルが上がってしまった以上、他のメンバーのレベルも、ついでに上げちゃおうかなどとお考えになるでしょうから」

「なるほど、把握した」


 確かに、せっかくやってきた彼女たちを別のテントに寝泊まりさせるなんて無駄だし可哀想だ。アイラ達は彼女達がくる事は予め知っていたから、俺の考えを先んじ行動してくれたんだろう。

 アイラに俺の考えが透けてるのはいつもの事だが、言われる事で改めて自分が今どういうふうに考えていたのか自覚することもあるんだな。


「君たち、お昼はまだ?」

「はい、テントを建ててそれから……の予定だったので、まだです」


 この様子から見るに、テントのくだりは伝わっていなさそうだな。


「なら君たちとカスミはあのテントを使うと良い」

「えっ!? よ、よろしいのですか?」

「まあカスミが認めた子達だし、大丈夫だよ。それじゃあ自己紹介ついでに、あのテントで一緒にお昼を食べようか。アイラもマキも、そのつもりで沢山作ってくれてたみたいだし」

「はい。沢山ご用意しましたから、遠慮せずに食べてくださいね」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 食事を始める前に俺たち側の紹介を済ませ、11人で円陣を組むようにして昼食を摂った。うちのチームが使用した回数は数えるほどしかないが、それでも全員が足を伸ばしてゆったり眠れるスペースのあるテントだ。この人数で食事をするくらい訳はなかった。

 自己紹介を終えてから、食事中の時もずっと、彼女達の視線は主に俺と、エンキ達に向けられていた。まあ、ゴーレムとはいえモンスターみたいなものだからな。気になっちゃうのは仕方ないか。

 ああでも、イリスは間違いなくモンスターではあったか。


「あ、あのねお兄ちゃん。大事な話があるの。聞いてくれる?」

「どうした、改まって」


 食事が終わったところで、カスミが神妙な顔をして切り出してきた。


「……お兄ちゃんには話したよね。チームのメンバーを差し置いて一人だけ強くなるのは嫌だって」

「ああ」

「私としては1人だけじゃなくて、チームのメンバーも一緒に成長していきたいの。お兄ちゃんとの冒険は、きっと私達全員の、今後の冒険者生活での力になると思う。だからって訳じゃないけど、今日から数日間、彼女達も一緒にお兄ちゃんの冒険についていっちゃダメかな。今の私には返せるものはあんまりないけど、何でもするから! レアモンスターの経験値もいらないから、お願いします!」

「「「「「お願いします!!」」」」」


 彼女達は、もっと高みに至るための修行をつけてほしいと頭を下げてきた。まあ俺としてはこの状況は願ったりだが。

 そもそも仲直りをした以上、カスミは今までのように忘れたい相手などではなく、大事な家族なのだ。そんな彼女が冒険者であり続ける以上、どうしても危険が伴うものだ。ならば、俺の目の届かないところで活動してもなんら問題ないくらいには強くなってほしいと思うのが兄というものだ。

 最初はカスミもレベルが上がる事は乗り気じゃなかったし、その理由も気持ちがわかるものだった。けど、一番の懸念点であるカスミのチームメンバー達も、一緒に強くなりたいと願うのなら、多少手間だろうが経験値くらいくれてやるつもりだし、修行だってみっちりつけてあげたい。なんならスキルだって配っても良いと思ってる。

 まあそこの匙加減は、うちの彼女達に任せる事になるかもしれないが。


「いいぞ。ただし遠慮も手加減もしないから、しっかりとついてこいよ」


 そう答えると、彼女達は顔を見合わせ無邪気に喜んでみせた。


「うん! ありがとうお兄ちゃん!」

「短い間ですが、よろしくお願いします。お兄様」


 ハルがそう言うと、他の子達も次々に俺を兄と呼び始めた。そして自分達もカスミと同じように扱ってほしいとも。

 妹の友達は義妹になるのかはたまた疑問ではある。が、この短時間で随分と個性豊かな義妹達が出来たもんだな。皆良い子なのは話をしてもっと理解できたし、レベルも十分にあるからか見目も洗練されてるし、冒険者の練度も高い。てか、今と昔の記憶に残るハヅキと比べてみても、オーラを除けば大きく変わったようには思えない。

 彼女達はきっとレベルなんて無くても相当に可愛かったんじゃないかって気がするな。こんな子達から慕われて、悪い気はしないが……。あまり考えすぎると、うちの彼女達から妬かれてしまいそうだ。ほどほどにしとこう。


「随分鼻を伸ばしてるわね?」

「ショウタさん、後でお話が」

「ハイ」


 手遅れだった。

 

「あ、私は専属なのでお留守番でいいかな☆」

「だめ。イズミちゃんもくるの」

「え~?」

「今更1人や2人増えたところで大差ないし、イズミも来るように」

「は~い、お兄様☆」


 ほんと、個性的な子達ばかりだな。

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