無料ガチャ030回目:チャット会話3

「あぅ~。どうしよう~……」


 カスミは布団の上でゴロゴロと転げ回っていた。悩みの種は自分のレベルが想定以上に上がってしまったこと。

 元々冒険には興味本位でついてきただけだったから、レベルアップの誘惑は断固として拒否していたのに、まさかお兄ちゃんと一緒に冒険して遊びたいが為に優先順位を違えるだなんて。『Bランク冒険者』チームのリーダーとしては、なんとも最低な結果となってしまった。

 仲間のみんなには申し訳が立たないし、お兄ちゃんにこんなこと相談しようがない。まあ言ったら言ったで、多分笑ってくれそうな気もするけど。


 本当ならすぐに謝ろうと思ってたんだけど、昨日は戦いが終わった後、暴れたりなかったアキ義姉さんに連れられてハチエリアに再突撃し、そこで軽く指導をしてもらったり、夕食を頂いて仲を深めていたらいつの間にか時間が経過していて、どう謝るべきか悩んでいる内に寝こけてしまった。

 そして今朝はハチミツパーティーが開かれ、午後はハチの生態調査についていき、結局今に至るまで、まともに考える時間は取れなかったのだった。


「でも、いつまでも悩んでいたってしょうがないよね。彼女達が来るまで内緒にする訳にもいかないし、ちゃんと謝ろう……」


 そうしてカスミは、2日ぶりにチームチャットのアプリを開いてマイクをONにした。



◇◇◇◇◇◇◇◇



[カスミ]

 昨日は連絡できなくてごめんね! 皆に伝えなきゃいけないことがあるんだけど、今って平気?


[レンカ]

 おー。大丈夫だよー!

 ボクたちも近況を伝えたかったんだー


[ハル]

 カスミは今第五層なのよね? 私達も今、その1つ上の第四層でテントを建ててるのよ


[カスミ]

 そうなの!? 思っていた以上に早かったね


[ハヅキ]

 カスミ殿のチームメンバーという繋がりから、525支部長殿のご厚意を賜る事が出来ました


[イリーナ]

 貴重な映像資料を見せて頂けましたわ


[イズミ]

 レンカやハヅキは新種のレアモンスターの情報に興奮しっぱなしだったよ☆

 カスミちゃんはもう見たかな?


[カスミ]

 うん。全部じゃないけど、ここのダンジョンのは見させてもらったよ


[イズミ]

 なるほどねー☆

 ねえカスミちゃん。動画を見てるとさ、ちょっと気になるところがあったんだ。カスミちゃんのお兄さん、動画によって強さがバラバラな気がするの。本気を出していないだけだとしたらあたしの観察不足なんだけど、どうにも根本的に何かが違う気がするのよねー

 カスミちゃん的にはどう思う?


[カスミ]

 うーん……。そこはノーコメントで


[ハル]

 ちょっとイズミ、あまりそういう事は聞かないの


[イズミ]

 にししっ、そっかー。残念☆

 あたしも息抜きがてら一緒にダンジョンに潜ってるから、明日はよろしくね。それで、話したいことって何かな?


[レンカ]

 そうだった。カスミちゃん、話ってなになに?


[カスミ]

 えっと……

 大変申し訳ないんだけど、お兄ちゃんとの冒険に付き添ってたら、レアモンスターと何度も出会う機会があったのね


[ハル]

 一昨日の件もあるし、あんなに沢山動画があるんだもの

 そりゃそうでしょうね


[カスミ]

 それで、つい昨日、我慢出来ずにその戦いに参加することになって、レベルが急上昇しちゃったの……。皆と足並み揃えて戦ってきたのに、本当にごめんなさい!


[イズミ]

 具体的には幾つ上がったの?


[カスミ]

 レベル96から……えっと、165……


[ハヅキ]

 なんと……


[イリーナ]

 たった数日でそこまで……


[イズミ]

 ぷっ! あっははは!

 なにそれ、どんな強敵を倒したらそうなるのよ!

 ひー、お腹痛い!


[レンカ]

 カスミちゃんすごーい!


[ハル]

 お兄様大好きっ子のカスミが、いつまでも大人しく見てるだけだとは思ってなかったけど、想像以上に爆上がりしたわね

 何をそんなに倒したの? っていうか、そんなレベルに上がるようなモンスターがここに湧いたの??


[カスミ]

 うん、順を追って説明するね。まず……



[ハル]

 なるほど。それでお義姉さん達から、私達の許可を貰っていたのね


[ハヅキ]

 『Sランク冒険者』チームから直接手ほどきを頂けるのですか! それがしも、心が躍ります!


[レンカ]

 ボクもおっけーだよ

 簡単にレベルが上がっちゃうのはちょっと怖いけど、その後もお兄さん達がサポートしてくれるなら問題ないかなー


[イリーナ]

 ついに明日出会えるのですね。わたくし、今から楽しみですわ……!


[イズミ]

 それにしても、カスミちゃんのお兄さんって太っ腹だねー。いくら妹のチームメンバーでも、ふつうそこまで面倒見ないよ


[カスミ]

 あ……実はこの話、お兄ちゃんには話が通ってないみたいなの

 義姉さん達が独断で決めてくれたみたいなんだ


[イズミ]

 え? それ大丈夫なの?


[カスミ]

 うん、なんかサプライズで紹介するんだって

 それに義姉さん達も太鼓判押してたけど、お兄ちゃんなら、その辺緩いし、私も大丈夫だと思うよ


[イズミ]

 普通なら絶対有り得ないことだけど、まあカスミちゃんがそう言うなら……


[ハル]

 ちょっと不安は残るけど、了解よ

 明日、第四層を戦いながら横断するとして、多分お昼ごろには到着すると思うわ


[カスミ]

 わかった。義姉さん達にも伝えておくね

 それじゃ、また明日!



◇◇◇◇◇◇◇◇



 カスミはテントを出て、兄達が寝泊まりする拠点前にやってきた。相変わらずダンジョンの中にあるとは思えない施設に、何度見てもため息が出るが、玄関口にいたエンキと目が合った。


「あ、エンキちゃん。今日も見張り?」

『ゴ!』

「偉いねー」

『ゴゴ~』


 エンキのスベスベボディを撫でると、エンキも嬉しそうに頭を押し付けてきた。


「エンキちゃん、義姉さん達に用があるんだけど、呼んできてくれる?」

『ゴゴ!』


 エンキが立ち上がると、彼の背面にあったエンキ専用の小さなドアを開け中に入って行った。


「はぁ、エンキちゃん可愛いなぁ。お兄ちゃんみたいに抱き上げてみたいけど、めちゃくちゃ重たいのが難点だよね……」


 レベルアップしたことで持つ事自体は問題ないのだが、重量自体がとんでもない事になっているので、膝に乗せるのは躊躇わせていた。

 そうこうしている内に玄関が開き、義姉達が現れる。そうして先ほど得た自分のチームの合流時間を兄には内緒で伝え、明日の予定を秘密裏に計画するのだった。

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