ガチャ349回目:ハチの実験記録1
「このスイッチを押せばいいのか?」
「うん。それで魔道具が起動して、周囲10メートル内の音が外に漏れないようになるの」
昼食を終えた俺達は今、マルーンビーが見える位置で作戦を開始していた。
俺の手元には魔石でエネルギーをチャージ出来る、持ち運び式の魔道具が収められていた。机の上に置かれてても違和感のない小物のインテリアみたいなデザインだが、シックで格好良いな。効果を思えばもう少し大きくてかさばるものだと予想していたんだが、まさか手の平に収まるほどコンパクトだとは。
そういえば、こういった便利な道具は量産されている数が少なく、かなり高額と聞く。なんでもそれ相応の技術や素材が要求されるらしいのだ。昔はスライム相手に使うようなものでもなかったから、そういった物がある事自体知らなかったし、さっき専用のカタログを見せて貰ってようやく色んな種類がある事を知ったくらいだ。
「ご主人様、一応これは消音・防音系の魔道具の中でも最高峰の物です。一般的な物となると、チャージ式であっても基本的に設置型になります」
「え? じゃあこの持ち運び出来るものって、かなり希少なんじゃ……」
「はい。チーム資金で購入しましたが、値段は当然億単位ですし、出回っている数自体少ないです。幸い、ダンジョン産ではありませんので故障しても直すことは可能ではありますが……。それでも希少な事に変わりはありませんから、扱いは慎重にお願いしますね」
「まあ俺は結構、物持ちが良い方ではあるけど……。気を付けるよ」
てか、人の手で生み出せる物だと言うのなら、俺のスキルなら作成が可能なんじゃないか?
俺は『真鑑定Lv4』『魔石操作Ⅱ』『知覚強化Ⅱ』『空間把握Lv3』『全感知』『弱点看破』『魔鉄加工術』『魔石加工術』『魔工彫金師』などのスキルをフル稼働させ、魔道具の情報を調べ上げる。
名称:封音の魔道具
種別:魔導具
説明:ダンジョン技術を用いて人の手で作られた消音・防音の魔道具。スイッチを入れる事で魔石からエネルギーの抽出を開始。中心の拡散装置に力を流すことで周囲10メートル、直径20メートルの疑似的な結界エリアを展開する。再びスイッチを押すか、充電された魔石のエネルギーが切れるまで結界は発動し続ける。
素材は、魔鉄とミスリル……。それから魔石を拡散装置にするため特殊加工を……。部品の形状は……。
「……なるほど」
なんとかなるかもしれない。
けど、魔鉄は在庫が鬼のようにあるが、ミスリルだけは手元にないな。
『初心者ダンジョン』からドロップしたって報告は見たことないし、流石にこれは『上級ダンジョン』とかその辺りから調達しないとダメかもなー。
「ご主人様? まさかとは思いますが」
「ああ、そのまさかだ」
「……?」
俺達の会話に皆察しがついたのか、声をあげずに驚いている。
まあ、カスミは俺のスキルを把握してないから首をかしげているが。
「とにかく、これは起動しながら動いても良いんだな?」
「はい。ただ、スイッチを入れている間、数秒間隔で結界の位置を更新しますので、起動したまま一気に移動すると、結界の範囲外に出てしまうので注意してください」
「わかった」
なるほど。結界は常に魔道具を中心に広がり続けているんじゃなくて、一度放った結界はその場に留まり続けて、更新されなければ消失する仕組みか。まあ消耗を抑えるためには、そうするしかないか。
構造を見た限り、ちょっと弄れば常時起動に調整することも出来そうだが、素材がないからもし壊してしまったら復旧できないよな……。帰ったら、一度素材を集めて複製から試みてみるか。
『ブブブブブ』
「ぽちっとな」
マルーンビーの目の前で結界を展開する。魔道具から半透明な波が広がり、俺やマルーンビーだけでなく、背後で様子を見ている彼女達もまとめて包み込んだ。
『ブブブブブ』
どうやら、この結界に包む行為自体では敵対扱いにはならないようだな。試しに空いた手で武器を振るい、マルーンビーを煙に変える。
『ヴヴ! ブブブブブ……』
昨日と同じように、マルーンビーはやられ際に甲高い音を鳴らしたが、マップに映った外部の赤点は無反応だった。『キラービー』の出現もなさそうだし、雑魚討伐する分にはこれがちょうど良さそうだな。
下準備が大変な点に目を瞑ればだが……。
設置型でも結構な値段しそうだし、普通の冒険者で用意出来るもんかな……?
「よし、このまま進もう」
そうして時折魔道具に魔石のエネルギーをチャージしつつ進む事約数十分。偵察隊に囲まれた状態の『キラーハイブ』が目視出来る距離まで近付けた。
その場で一度結界を解くも、連中は俺達の存在を認識出来ているはずなのに、こちらを見ようともしなかった。やはり奴らは、巣のそばで音を立てようと、攻撃されなければ非アクティブなのは変わらないか。
「さて……」
連中の羽音が届かないくらいまで離れて、作戦会議をしよう。
「アキ、この状態から先には進めていないんだよな?」
「うん。流石に下手打つと『キラービー』が複数体出るかもしれないからね。カスミちゃんも居たし、無茶は出来ないよ」
「そっか。……んじゃあ、巣がギリギリ結界の外になるように調整して、何回かに分けて周辺の雑魚を殲滅していこうか」
「承知しました。結界の操作はお任せください」
そうしてさっくりと掃除を終わらせ、巣の周辺を守るモンスターはいなくなった。
さて、ここからどうするかだが……。
「この結界って、直径20メートルのものしかないのか?」
「いえ、手持ちには効果範囲が半分程度の、直径8メートルタイプの物がありますよ」
「購入はしていませんが、ご主人様が持っているタイプよりも広大な魔道具も作成されています。ですが、結界の大きさに比例して魔道具自体巨大化するという欠点があります」
「ふむ……。じゃあ試しに、その直径8メートルタイプのものを巣の真横に置いたら、巣がすっぽり収まるかな?」
「ではやってみましょうか」
アイラが巣に触れるギリギリの辺りに魔道具を設置し、起動させる。すると半透明の膜が広がり、『キラーハイブ』を包み込んだ。『キラーハイブ』は高さ3メートルちょっとだから、結構ギリギリだったな。
「まずは巣の外に音が漏れないこの状態で攻撃して、蜂の増援が現れないか試してみようか」
「それで、巣への攻撃は誰がするの?」
「一晩考えてみたが、俺は相性が悪い。巣の内部に攻撃を届かせることはできるが、内側から破壊する力はないんだ。だからイリス、ちょっと大変かもしれないが例のあれ、試してみてくれないか?」
『プル、プルル?』
「おう、好きにしていいぞ」
『プルルル!』
イリスは楽し気に巣へと転がって行き、巣穴へと触手を伸ばして内部へと入り込んでいく。そしてゆっくりとイリスの体積が減って行き、ついにはその全身が『キラーハイブ』に入り込んでいった。
「お兄ちゃん、イリスちゃんは何をしているの?」
「まあ慌てるな。すぐにわかるさ」
そうして待つこと数分、『キラーハイブ』は瞬間的に膨張し、一気に弾けた。
『パァン!!』
本来なら、そんな破裂音が聞こえてきたんだろう。
だが、それは魔道具によって掻き消され、視界からでしかその危機的状況を察知できなかった。その為、俺達は致命的に反応が遅れた。
「うおっ!」
「きゃあっ!」
その結果、俺達は飛び散った破片を叩き落とすことには成功するも、一緒に飛んで来たハチミツは全身に浴びてしまう事となり、ベトベトになってしまうのだった。辛うじてカスミとマキは庇えたんだが……。
「うえぇ……」
「ベトベトするぅ……」
「ドロドロですわぁ……」
うん、アキとアヤネは俺同様ネチョネチョだな。
『プルル!!』
爆発の起きた跡地では、煙となって消える巣の中で、イリスが甘味の洪水に大はしゃぎしていた。
蜂の増援が現れなかったのは僥倖だが、この破壊方法には気を付ける必要があるな……。俺は喜ぶイリスを眺めながら、ぼんやりと次の対処手段を考えるのだった。
……あれ、そういえば1人足りなくないか?
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Twitter(X)にて初心者ダンジョン攻略後に行くダンジョンの予定地アンケートしてました。
https://twitter.com/hiyuu_niyna/status/1723171165781598352
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