ガチャ350回目:ハチの実験記録2

『プルル! プルルン!』

「お前は楽しそうで良いな」

『プル?』


 大はしゃぎしていたイリスが我に返り、コロコロとこっちに転がってきた。


『プルプル』

「ん?」


 イリスは俺の身体に纏わりつくと、首から下の蜂蜜を全て吸い取ってくれた。どうやら、後先考えずに行動したのを反省しているらしい。


『プル~ン』

「はは、怒ってないよ。首から上も頼めるか?」

『プル!』


 そうしてイリスは俺だけでなく、被弾したメンバー全員の蜂蜜を吸い取ってくれた。

 カスミとマキはちょうど後ろに居たから庇えたけど、アヤネやアキはモロに受けたからなぁ。そしてさっき見かけないと思っていたアイラですら、よく見たら腕がぐっしょりしてたし。見えないところで被弾してたのか。


「なあアイラ、さっきはどこに行ってたんだ? 見かけなかったけど」

「実は、たまたまご主人様の後ろにいたので、甘えさせていただきました。私もご主人様同様、反応しきれず被弾してしまったのです」

「そうなのか」


 あの時の情景を思い出すと、確かにアイラは俺の後ろらへんにいたような気もする。でもまあそうだよな、いつものアイラなら真っ先にアヤネを庇いに行くのに、彼女はそれが出来なかった。俺同様、気付いた時には目の前まで迫っていたんだろう。

 しっかし、アイラでも知覚出来ない勢いで飛来するハチミツの散弾か。ダメージはなくても危険すぎるな。次にイリスのアレを試すとしたら、エンキに壁でも作ってもらって、皆で隠れるか?


「本来ならお嬢様をお守りしたかったところですが、あの時側にいたとしても庇い切れたかどうか……。力不足を晒してしまい申し訳ありません、お嬢様」

「気にしてませんわ!」

「お嬢様……」


 アイラがアヤネに撫でられるという微笑ましい光景を眺めているとマキが俺の匂いチェックをしていた。

 

「スンスン……。蜂蜜のぬめりや水気が取れても、流石に匂いまでは取れませんね」

「アイラからも甘い匂いがしますわ!」

『プルン』

「付着した分は食べられるけど、そこまでは無理だって。まあ、後で洗えばいいさ」


 流石に『悪食』も、匂いまでは食べられないってことだろ。


「……ねえ、思ったんだけどさ。この匂いが付いてると、仲間に思われて攻撃されないとかあるのかな?」

「流石にそれは……。どうなんだ?」

「一部の虫はフェロモンで仲間を判別しているというのは聞いた事がありますが……」

「そういえばイリスが瞬間的に内部から巣を破壊したが、昨日俺が『無刃剣』で壊した時との違いは結界を張ってた事以外にもう1つ考えられるよな。巣を攻撃・破壊した者に、していたか否か、だ」

「なるほど、興味深いですね。では試してみましょうか」


 そうして別の巣へと向かい、その道中にいるマルーンビーの手前で結界を起動。そしてゆっくりと近付き、ちょんっとそのフワフワボディーに触れてみる。


『ブブ! ……ブブブ?』


 すると驚いたようにその身体を震わせ、こちらを向いたマルーンビーだったが、数秒もしないうちに興味を失ったのか再び蜜を集め始めた。


「お? これは成功か?」

「恐らくは」

「それじゃアイラ、お前も試してみてくれ」

「では蜂蜜を受けた方から」

『ブブ! ……ブブ? ブブブ……』


 匂いが薄かったのか先ほどよりも戸惑いの反応を見せたが、再び作業へと戻って行った。次は反対の手で……。


『……ブブ? ヴヴ!!』

「駄目らしい」


 少し反応が遅かったが、ちゃんと警戒音を出してこちらに敵意を向けてきた。流石に蜂蜜がついていない腕ではダメのようだが、これは新発見かもしれない。


「実験終了。次は巣だな」

「ご主人様、結界は無しで行くのですか?」

「そうだなー。元々は強化体の時に見たモンスター消失現象の再現をするつもりだったが、蜂蜜の香りを纏った際の挙動も確認しておくべきだよな」

「ごめんねー、手間増やしちゃって」

「いやいや、むしろ結界よりも用意が手軽な分、こっちの情報を解明出来たら大きい。だから助かったよ。ありがとなアキ」

「にしし」


 照れ笑いをするアキを撫でていると、彼女からいつも感じとれる甘い匂いが、蜂蜜によって倍増されているのを知覚した。その香りに惑わされ、思わず抱き寄せて深呼吸までしてしまった。


「ひゃうっ!?」

「ほぅ。ご主人様は蜂蜜でコーティングされ、体臭と混ざり合った香りがお好みですか。今日でまた蜂蜜が大量入手出来ますし、今夜は蜂蜜ローション風呂をご用意しましょうか」

「……はっ!」


 アイラの発言に、俺は正気を取り戻した。


「なんて恐ろしい香りだ……」


 つい無意識に手が出てしまった。

 周りを見れば、マキとカスミは羨ましそうにしているし、アヤネは次は自分の番だと言わんばかりに両手を広げているし、アイラはニマニマしている。

 ……ん? カスミも?


 怪訝な目で妹を見ると、カスミは気まずそうに視線を逸らした。

 気のせいだったか?


「ところでマキ」

「は、はい」

「巣を壊した時に俺らが受けた蜂蜜って、だった?」

「あ、はい。この香りでしたら普通の『丸蜂の蜜』ですね。巣に内包されている蜜の全てが『キラーハイブの特濃蜜』ではないようです」

『プルルルン!』


 どうやら巣の中心部分には『キラーハイブの特濃蜜』がちゃんと溜まっていたようだが、それは全部イリスが進入時に喰っちゃったみたいだ。


「じゃあどうせやるなら全員から『丸蜂の蜜』の香りを発してる方が良いよな。っつーわけで、アイラ」

「……仕方ありませんね」


 アイラが珍しく嫌そうな反応を示した。

 渋々といった様子で巾着袋から『丸蜂の蜜』を取り出し並べていく。


「2人も、覚悟は良いな?」

「う、うん!」

「お、お願いします!」


 やっぱりカスミもちょっと嬉しそうだよな?

 そうして彼女達にも蜂蜜を全身に塗りたくってもらい、それをイリスに吸い取ってもらう。塗り役はなぜか俺が指名されたが、何だかいけないことをしているみたいでちょっとドキドキした。

 だがここまでして、巣を叩いた時に何の影響も無くて、結界の方こそ本命だったら笑えるな。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そんなこんなで到着した2カ所目の巣。

 道中の雑魚はエンキに攻撃してもらい、連中の侵攻ルート上に俺が仁王立ちで待機してみたが、連中は見事に俺を全スルーしてエンキのほうへと向かっていった。もし匂いが無かった場合に違った反応を見せたら、これは確定かもしれない。まあ、流石にこのしつこい匂いを完全に落とすには風呂と洗濯が必要そうだが。


 さて、相変わらずマップ上には巣の存在は確認できず、残る赤点は3つ目の巣を中心とした蜂の群れだけ。前回2箇所目の巣を攻撃した時はマルーンビーは数えきれないほどいたし、『キラービー』は一度に8体も出てきたが、今回は『丸蜂の蜜』の香りを全員が発している。

 この状態でどれだけ出てくるか。前回と変わらないか。それとも……。


「フルブースト! ……せいっ! はっ!」


『斬ッ!!』


 中心から少し逸れた穴に剣を突き刺し、そこから斬り払うように巣の一部を落とした。普通なら、ここまで攻撃されれば一気に警戒度はマックスになるはずだが……。


『ヴヴ!』

『ヴヴヴ!』

「お、出た出た……んん?」


 その数は目視で判別できるほどに少なかった。マルーンビーが60体程度に、『キラービー』はたったの3体。この数は、前回の半分にも満たしていない。

 2個目の巣であるにもかかわらず、この数は……。どう考えても蜂蜜効果だよな?


 その後、少ない増援を蹴散らし壊れない程度に巣を破壊するも追加の増援は現れず、巣は煙となって完全に沈黙するのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Twitter(X)にて初心者ダンジョン攻略後に行くダンジョンの予定地アンケートしてました。

https://twitter.com/hiyuu_niyna/status/1723171165781598352


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