ガチャ346回目:アキの暇つぶし実験

 拠点へと戻ってきた俺たちは、何はともあれ休むことを最優先にした。とは言っても空腹だけはどうしようもないので、マキとアイラには頑張ってもらったが。

 そして夕方頃までゴロゴロして、ようやく今回の戦いを振り返る時間を設けるのだった。


「まずは連中が仲間を呼ぶメカニズムね。動画を観返していて気付いたんだけど、ショウタ君の言うように、確かに最初に手を出した偵察隊の1匹は、必ず散り際に甲高い羽音を鳴らしていたわ。普通の人間の耳では気付けないくらい微々たる違いでしかないのだけれど、専用の機器を通せば特殊な音波を出しているのが判別できたわ」

「そして、その音を出しているのは今回の映像記録の中ではたったの3回だけでした。どれも偵察隊の蜂が、仲間に敵対存在を知らせる時にしか使われていません」

「じゃあ、その音を封じ込めることができれば、敵はこっちには気付かずにスルーしてくれるということか」


 ……あれ? でもその音は、3箇所共に同じ音だったんだよな? その音がどこまで遠くに聞こえるかは知らないが、もし森の全域に聞こえていたりしたら、同じ巣に属する偵察隊だけが綺麗に釣られてくるのはおかしい。連中にはどこの巣に所属している偵察隊なのか、聞き分けるナニカがあるのかもしれないな。

 それに、実はこの特殊な羽音が広範囲に響き渡っていて、そんな微かな音すらも連中が拾えてしまうのなら、防音材が使われた家の壁程度、貫通して拾ってしまうんじゃ……。


「ちなみにショウタ君が休んでる間に、軽く検証してきたわ」

「え?」

「森の外周部でこの録音した羽音を鳴らせばどうなるかをね」

「んなっ!?」


 なんて危ない真似を!

 いやでも、最初の偵察隊に釣られて出てくるのは『キラービー』1匹に、マルーンビーの群れだから、アキ単独でもそこまで危険はないか……?

 そういや昼食の後、アキの他に、何人か見かけなかったな。


「エンキ達を連れてったのか?」

「うん。あと暇そうにしてたカスミちゃんも連れてったよ」


 その辺にいると思って、マップもそうだし各種感知スキルもオフにしてたんだが。まさかそんなことをしていたとは。


「暇というか、私は急激にレベルアップしたせいで崩れたバランスを整えてただけなんだけど……」

「そういうのは実戦が一番よ!」

「……と言われてついて行ったの。ごめんねお兄ちゃん」

「なるほど」


 まあ俺もまだまだ力を扱いきれてないからな。その気持ちは分かる。けどまさか、蜂を使って練習してるとは思わんだろ、普通。


「で、実験はどうだったんだ?」

「ひとまず分かった事は、この録音を聞いても連中は釣れなかったわ。偵察隊の端っこでも、2つの偵察隊のど真ん中でも、蜂の巣の目の前でもね」

「巣の目の前って……。危ないなぁ、本当に何もなかったんだよね?」

「うん」


 なら、連中は音以外の何かも感じ取って、偵察隊別に波長を聞き分けてるってことだよな。相変わらずその音をどこまでの距離で拾ってるのかは不明だが、ひとまずアキのおかげで不明点は1つ解消された訳だ。


「実験はそれで終了?」

「ううん、結局それだと1戦も出来なかったから、最後に防音用の結界を使って、偵察隊に手を出したらどうなるかの確認もしてきたよ」

「それって……前に第四層で使ってたやつ?」

「そ」


 確か、ダンジョン内で夜の営みを周りに聞かせないためにするための装置って話だったよな。アイラが使ってるのを見て、地上に居るときに調べてみたら、ダンジョンの技術と魔石を使った、未来の発明品ってフレーズだったはず。安価な使い捨てタイプと、魔石チャージが可能な高価な2パターンがあるんだったかな?


「ちゃんと使い捨て型とチャージ式、その両方で試してみたわ。結果としては大成功。結界の外ギリギリにいるマルーンビーの傍で、結界に閉じ込めたマルーンビーを討伐しても増援は来なかったわ」

「お兄ちゃんもそうだけど、義姉さんやエンキちゃん達もモンスターを討伐すれば確実に『小魔石』をドロップさせられるから、結界のエネルギー残量を気にせずに使いまわせるのは凄いよね。結局、巣には手を出さなかったけど、巣の周りにいる蜂は、全部援軍を呼ぶことなく倒せちゃったもん」

「おおー。ということは、『キラービー』を出現させずに巣の周囲を掃除しきれたってことか」

「うん、そうだよ!」


 ちなみに複数匹を結界内に収めた状態なら、結界内だけは全てアクティブになったらしい。なので巣の周りを掃除する時は、巣だけは絶対に結界の外になるよう調整したんだとか。中々、面白そうな実験をするじゃないか。


「それで最後に、再出現条件の検証もして来たよ。ショウタ君が居なかったから敵の位置や出現状況はつかめなかったけどやっぱり森に誰もいなくなったら、その瞬間に再出現するみたい。すぐ出戻ったら倒したはずの巣の周りに沢山のマルーンビーがいたもん」

「そっか、ご苦労様。……でも、そんな実験するなら教えてくれよ。アキも強くなったとはいえ、心配するじゃん」

「ごめんねー。あの戦いは、ショウタ君やアイラは燃え尽きてたけど、正直あたしは不完全燃焼でさー。暴れたりなかったというか。……夜のイベントもスキップされたから体力有り余ってたし」


 アキが最後にボソッと言ったのをが聞き取ってしまった。まあそこは、俺が悪いんだけど。あーほら、カスミが居た堪れない顔してるじゃん。


「おほん、とにかくご苦労様。マキやアイラが昼食や飲み物に使ってくれたからわかるけど、連中の蜂蜜も嗜好品として美味しい食材であることが判明したし、市場に流せば狩りをする人も増えるだろう。だから安全に討伐する為の手段が確立されたのは大きい」

「えへへー」

「残りの問題だが、同じ方法で巣を叩いた時に、出現を抑えられるかの実験は明日するとしよう。だから今日は、巣をもっと効率的に破壊できないか、その手段を考えていこうか」


 さすがに、あんな突出しすぎたステータスを持つ物質が、何の弱点もなくこんな低層である第五層に現れるのは、バランス的に考えても不自然なんだよな。だから何か、俺達が見逃している秘密があるはずだ。じゃなきゃ、『ダンジョンボス』を軽く超越するステータスを持ってるなんてありえないからな。

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Twitter(X)にて初心者ダンジョン攻略後に行くダンジョンの予定地アンケートしてました。

https://twitter.com/hiyuu_niyna/status/1723171165781598352


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