ガチャ345回目:森からの帰還
「ショウタさん、すぐ治しますからねっ」
「傷跡も残しませんわっ」
「ああ、ありがとう。けど、慌てなくても見た目ほどひどい傷じゃないから大丈夫だよ」
「でも、あんなの見せられたら心配もします!」
「こっちの身にもなってくださいましっ!」
アイラの手によって突き刺さっていた針を荒々しく引っこ抜かれた俺は、全身から流血していた。そんな状態でも痛みとしては想像していたよりも弱いものだったし、これも相手とのステータス差によるものかもしれない。
まあでも、それは見てる側からすればショッキングな光景ではあったか。もしもマキやアヤネが同じような状態になっていたとして、大丈夫と言われても気が動転してしまいそうな気がする。
「痛みがないのは麻痺毒も同時に受けているからでしょう。その為ご主人様は自分の状態をうまく認識できていないだけです」
「では『魔力』は潤沢にありますし、怪我の治療から優先しましょう。アヤネちゃん、解毒はこっちでするからお願いね」
「了解ですわ!」
麻痺毒か。確かに戦闘中からずっと全身気怠いし、力も入らないが、これのおかげで辛くないのか。でも場合によっては、自分が瀕死でも気付けないかもしれないと。……うーん、恐ろしい話だ。
「あはは。確かにショウタ君、ハリネズミみたいになってたもんねー」
「お兄ちゃん、自分のことに無頓着すぎ! 強くなっても、いつまでもそんなんじゃ、義姉さん達の気が休まらないでしょ!」
「うん、ごめん」
素直に謝られたことでカスミも少し落ち着いたのか、深いため息とともに地べたに座り込んだ。
「もう、心配させないでよね」
「ああ、悪かった。それに今回は、俺の選択ミスが原因だったしな」
「まあ、そこは仕方ないんじゃない? 今までの巣は壊しても敵が消えなかったんだし、全部倒すまで終わらないと思うのが普通でしょ」
「そもそもあれほどまでに硬い存在がいる事自体がイレギュラーなのです。ただでさえ高い『頑丈』に加えて、自動修復機能まで持っているんですから、普通の冒険者ではあの巣を破壊する事は不可能かと思います」
「だなー。でもおかしいと言えば、あんなに異常な数のモンスターが同時に出現する事自体おかしいんだよな。なんか、まだ解き明かせてないギミックがありそうな気がする」
今回の攻略ではたまたま悪い方向に転がってただけで、実はやり方を変えればあっさりと突破できた可能性もあるんだよな。じゃないとレアモンスター10体以上とか、適正難易度を遥かに超越してるだろ。
「そうですわね。思えば、今までと比べてこの森だけ異様に難易度が高すぎますもの」
「レアモンスターが同時に何匹も出現するのが当たり前って状況が、すでにおかしいですもんね」
「こういうときって大抵、そこが地雷原だと気付かずに、ノンストップで走り回ってるようなものよね。最後の巣を破壊したタイミングでモンスターが消失した以上、何かしら見逃してるのは間違いないと思うわ。でも一応、ここでの目的は達成したと思うけど、ショウタ君はどうするの?」
確かに、トロフィーは手に入れたしここにはもう用はないかもしれない。だが、謎を残したまま次に移動するなんて、俺の矜持が許さないし、なにより気になり過ぎて集中できないだろう。
山もクリアして管理者レベルを3にして答えを聞くという方法もあるが、ズルしたみたいで嫌だしな。
「……当然、徹底的に調査するさ」
そう宣言すると、皆が微笑んだ。
「流石ショウタ君ね」
「流石ですわ~!」
「ほんと、こういうところはお父さんそっくり」
「調査も良いですけど、まずは休んでからですからね」
「次に攻めるのは、今回の攻略の反省会をしてからです。無策の突撃は許しませんよ」
「わかってる。今日はもう、帰ってお休みしよう」
そうして俺達は装備の点検を終わらせ、無人となった森を出るため歩き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達はキャンプ地点に戻る為、ひたすら森の中を歩いていた。
なんだかんだで森の調査はお昼休憩を挟まずに終わってしまったので、今日は久々に早上がりな日ではあるのだが、あんなに苦戦したのは本当に久しぶりだし、疲労も溜まっている。
だがそれ以上にお腹が空いていた。早く帰ってゆっくりしたい。
「それにしても、静かなものね」
「ショウタさん、やっぱりまだモンスターは再出現しないんですか?」
「ああ、全く反応がない」
蜂の巣を中心にしてコロニーが形成されていたから、森の中の巣が全滅したことで、蜂も出現できずにいるような気がする。強化体の巣を壊してから、かれこれ30分くらいは経過しているにもかかわらず、マップには一切の赤点が表示されていなかった。
マップには巣の存在が表示されない以上、今もこの森には存在していないと証明は出来ないが、間接的にマルーンビーが出現していないところから巣はないと証明できるのかもしれない。
まあ、実際はどうかわからんが。
「この再出現しないところも謎ではありますよね」
「今日休んで明日になっても湧いてなかったら、どうするー?」
「んんー……。流石にそうなったら、諦めて山に行こうかな。後ろ髪は引かれるけど」
彼女達とのおしゃべりに興じていると、森の切れ目が見えてきた。いつの間にやら第五層の入口近くにまで辿り着いていたようだった。俺達のもとに冒険者達がキャンプ地で奏でる喧騒の音が届き、料理をしているのか様々な匂いが流れてくる。まだまだキャンプ地まで距離があるってのに、俺の知覚能力は人間のそれを大きく超越し始めてるよなぁ。
そんな事を考えていると、先ほどまで散々聞かされてきた嫌な羽音が、聞こえた気がした。
「……!!」
振り向いても、そこには森が広がるだけで、その姿はない。
だがマップを開けば、おびただしい数の赤点が3カ所から同時に湧き出ている情景が見てとれた。
「ショウタさん?」
「何か変化があったの?」
俺は手持ちの腰巾着から宝玉を取り出しマップと接続。全員にマップ情報が見られるようにした。
「これは……!」
「わ、なにこれ。すご……」
「今まさに出現したところですわね」
「再出現の条件はなんだったのでしょう。時間は……強化体の討伐から47分ほどでしょうか」
「いや、恐らく……」
俺は周りを見渡す。
そこはもう森ではなく、第五層の入口にある丘のふもとだった。
「森から人間がいなくなれば、出現するのかもしれないな」
ならば、蜂関係で残る不明な問題点は4つ。
呼び寄せの対処法、巣の簡潔な破壊法、大量出現を抑える方法、巣破壊による消失条件だ。さて、何から解いていくか……。
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Twitter(X)にて初心者ダンジョン攻略後に行くダンジョンの予定地アンケートしてました。
https://twitter.com/hiyuu_niyna/status/1723171165781598352
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