ガチャ344回目:最終ラッシュ
カスミを高みに連れて行ってやると決めた以上、出し惜しみをするつもりはなかった。
「誰か、カスミにお古の首飾りを貸してやってくれるか」
「では、同じ妹枠としてわたくしのを貸して差し上げますわ」
そう言ってアヤネが、初代ネックレスを取り出した。
「これって……?」
「旦那様が最初に送ってくれたネックレスですの。全員が持っていますのよ」
「アヤネちゃん、そんな大事な物、受け取れないよっ!」
「大丈夫ですわ、貸すだけですもの。それに一緒に高みを目指すのであれば、これの装着は必須ですわ」
「どういうこと……?」
カスミは困惑しているようだったが、アキやマキからも後押しされ、渋々と言った様子でネックレスを装着した。効果が出るかは半信半疑であるが、多分大丈夫な気もする。
「着けたけど、これでいいの?」
「ああ。それじゃ、準備は良いか?」
「アイテム回収は終わりました。いつでもどうぞ」
再び『ビッグキラーハイブ』を見据えると、スキルによる効果か最初に与えた斬撃ダメージは完全に修復されていた。そして最初の防衛隊を出した後は、沈黙したままだった。
こうしておしゃべりしている間に増援が来るかもと思っていたが、どうやらその展開は無いらしいな。レベル的にはガチャを回したいところではあるが、巣を目の前にしてそんな悠長なことは出来ないしな。ここは涙を飲むか。
「ふんっ!」
『ガキィン!』
またしてもスキルを使用せずに剣を振り下ろす。2回目だからか最初よりも良い感じにダメージは入れられたが、それでも破壊にはまだまだ遠いものだった。そして増援は……。
「……こないな」
「出現は1回だけなのでしょうか?」
「『眷属招集Ⅲ』のスキルがある以上、あれで終わりとは思えないのですが……」
「もっと破壊すれば出てくるんじゃない?」
「だな。けど、フルブーストを使用すると、使用時間と共に再使用時間の問題がある。激戦に備えて、俺はまだ温存しておきたい。……よし、エンキ。パイルバンカーだ」
『ゴゴ!』
エンキは『ビッグキラーハイブ』の前で仁王立ちすると、両脚をスパイク状に変化させ地面と接続する。そして踏ん張った状態で腕を対象に向け、鉄の杭を発射させた。
『ドゴンッ!!』
その一撃は『ビッグキラーハイブ』の装甲を易々と貫き、ど真ん中に大穴を開けた。中からハチミツが漏れ出し、周囲に甘い香りが広がる。
破損率としては5割を超えているはずだが、未だ巣としての形状は維持しているし、煙に変わることも無かった。それどころか、ゆっくりとだが修復をしているらしく、その穴は元の状態へと戻ろうとしているようだ。
『ヴヴヴ!』
『ヴヴヴヴ!』
「ようやくお出ましか」
巣を半壊させられたことで相手も本気になったらしい。その増援は、先程見た数の3倍近い物量だった。『レッドキラービー』6体に『キラービー』12体。そして無数のマルーンビーだ。
これを相手するのは骨が折れるが、あまり夢中になっていると巣が元通りになってしまう。こちらも破壊は続けなければならないな。
「エンキ、そのまま巣の完全破壊に集中しろ。エンリルはエンキの護衛を頼む」
『ゴゴ!』
『ポポ!』
「俺とアイラで赤を集中的に狩る。他は各自の判断で動け」
「「「「「はい!」」」」」
そうして、何度目かわからない蜂の大群との戦いが始まった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「くっ!」
「うっ!?」
俺達は久々に苦戦をしていた。
特に俺とアイラは、外周部で複数のレアモンスターを相手取っている為、無数の針飛ばし攻撃の標的にされていた。蜂の猛攻は凄まじく、アイラですら被弾を余儀なくされていた。熟練者のアイラですら攻撃を受けているのだから、俺なんてもっと被弾していた。
俺もアイラも『金剛外装Ⅲ』を持ってはいるが、このスキルは大技には強いが、連続攻撃に弱いという弱点がある。『レッドキラービー』の針マシンガンなんて、もっとも苦手とするものだ。その為、1度『金剛外装Ⅲ』の切れ目に毒針攻撃を受けてからは、段々と被弾が嵩んでしまい、いつしか身体のあちこちに針が刺さっていた。
全身に痛みが走るが、これは恐らく物理的な傷だけでなく、毒による内面的な痛みもあるんだろう。正直刺され過ぎてて、この痛みがどちらの物なのかよくわからないほどだ。時折アヤネやマキから回復と解毒の魔法が飛んでくるが、針が刺さったままになっている以上焼け石に水だろうし、こんな激戦の中じゃ1本1本抜いてる暇なんて無い。そんなことよりも早く、敵の数を減らさなければ。
「うおおおらぁ!」
『ヴヴ!?』
【レベルアップ】
【レベルが160から161に上昇しました】
そんな猛攻の中、俺はなんとか『レッドキラービー』を2体。アイラは1体撃破をしていたが、それでも半分だ。まだまだ普通のレアを含めて敵は残っているし、終わりのない痛みが身体を蝕み続けている。この地獄は、あとどれだけ続くのか。
そう思っていた時、視界に映っていた蜂の群れが一瞬にして全て消え去った。
「……え?」
毒を受けすぎて幻覚でも見ているのかと思ったが、見慣れた通知が視界に映り込む。
【キラーハイブのトロフィーを獲得しました】
見れば、エンキの目の前には原型を留めない程にボコボコに殴られた『ビッグキラーハイブ』の残骸があり、それが徐々に煙へと変わって行くところだった。そして防衛として出現していた蜂の群れは、本体が消えた事で共に煙へと変わっていたようだった。
「終わった、のか?」
「……ふぅ。どうやら、そのようですね」
アイラは、自分に突き刺さった針を引っこ抜きながら呟いた。アイラもどうやら、疲労が溜まっているようだな。こんなに元気がないアイラは、3回目かな? 1回目は『上級ダンジョン』で、2回目は『ラミア』の1戦目だ。
「ショウタさん!」
「旦那様ー!」
「ああ、皆も大丈夫か? いててっ」
アイラは、今度は俺に刺さっていた針を無造作に引き抜いていく。
その手には一切の迷いはなく、慈悲も無かった。
「我慢してください、ご主人様」
「あだだ。もうちょっと、優しく……いででっ!」
「はい、終わりました。あとは治療してもらってください」
「そうする。でも、お前が先だ」
心配するマキとアヤネには、ステータスが低い分ダメージが心配なアイラから治療してもらう事にした。俺はまあ、毒が残っている感覚はあるが、耐えられない程じゃない。なんなら、協会で以前に受けた状態異常講習の方がきつかった気がするし。
しっかし、今回は俺の判断ミスだな。
いつもみたいにレアモンスターを優先してしまったが、巣を破壊すればすべて消えてなくなるとは。それに、アヤネの魔法を回避しちゃうくらい素早いレアモンスターが複数もいると、あんなに危険な状態になるというのも、想定外だった。
幸い、奴の攻撃は致命的なダメージとまでは行かなかったが、俺とアイラじゃなきゃ危険だっただろうし、その辺の対処手段も今後は必要になって来るな。
危険な目には合ったが……。うん。
「反省点は多いがなんとかなったし、これも良い経験か」――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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