ガチャ340回目:巨大蜂

『ブブブブブ!』

『ブブブブブ!!』

「おりゃっ!」


 爆音と共に押し寄せる蜂の群れを斬り捨てていく。

 大きな蜂が一直線に向かってくるというのは、視覚的になかなかショッキングな映像ではあるものの、普段からモンスターと戦っている俺からしてみれば、思っていたよりも衝撃は少なかった。あと見た目が可愛いから衝撃も和らいでるのかな。

 それでも、昔ならこの羽音で絶対ビビっていただろうけど。


 そしてマルーンビーは、平常時は針など小さな物しか持っていなかったはずだが、攻撃体勢に移った事でその針も巨大化していた。キラーラビットよりも鋭そうだが、はたしてあの針は俺にダメージを与えられるのか?


「試す気は、ないけどなっ!」


 順当に狩りは進み、最初のマルーンビーに釣られた兵隊たちを全て斬り終わると、後ろで指揮に回っていたレアモンスターも突っ込んできた。


『ガィン!』


 巨大な針が剣身と激突し、火花を散らす。

 マルーンビーはこぶし大くらいだったが、こっちは普通に人間の子供くらいのサイズはある。更には見た目も可愛らしいものではなく、獰猛なスズメバチのソレだった。

 しかし、よくもまあその巨体で浮けるもんだ。

 

『ヴヴヴ!』

「ふんっ!」


 力を込めて弾き飛ばすと、相手は空中でたたらを踏んだ。今の内に見ておくか

 

*****

名前:キラービー

レベル:70

腕力:720

器用:720

頑丈:720

俊敏:720

魔力:72

知力:72

運:なし


アーツスキル】毒生成、毒抗体


武技スキル:デストラクトスピア


装備:なし

ドロップ:殺人蜂の毒針

魔石:大

*****


 レベルの割にスキルが少ないな。武技スキルがあるからか?

 それとも見えない種族特性スキルがあるのか?


『ヴヴ!』


 そうして考察していると、体勢を立て直した『キラービー』が突然毒針をこちらに向け、ミサイルのように発射してきた。


「うおっ!?」


 音もなく発射されたソレをすんでのところで回避すると、背後にいたアイラが毒針ミサイルを切り落としたのを気配で感じた。想定外の動きには驚かされたが、そんな使い捨ての技を使ったらもうまともに攻撃できないんじゃ……。


「あれ? 針がある……?」


 しかし、『キラービー』の尻にある針は健在だった。じゃあ今発射されたのは一体なんだったんだ?


『ヴヴ! ヴヴヴ!』

「うおおっ!?」


 そう思ったのもつかの間、今度は連続で針を射出してきた。よく観察してみれば、この発射している針は間違いなく『キラービー』の尻にある毒針そのものであり、発射される度に身体からにょきにょきと生えているようだった。

 これがスキルをあまり持っていなかった理由か。ただのレアモンスターなのに、『真鑑定』では見つけられない奥の手を持っていると。更には接近すれば、恐らく武技スキルが待っているはずだ。雑魚を何十体もけしかけ、弱らせたところに遠近両方の攻撃を併せ持った強敵。


 なるほど、『初心者ダンジョン』の最下層に位置するだけの手強さはありそうだ。


「だが、残念だったな。俺にも遠距離の手段はあるんだ」

『ヴヴヴ! ヴヴ!!』


 剣を上段に構え、力を溜めつつ最小限の動きで針を回避する。


「フルブースト……! 『閃撃・剛』!」


 そして溜めた力を、一気に開放した。

 振り下ろされた剣から斬撃が飛び出し、飛来する針や『キラービー』だけでなく、その先にあった木々を何本も飲み込み両断して行く。視界が開けたそこに残っていたのは、『キラービー』の残したスキルとアイテムが散らばっていた。


【レベルアップ】

【レベルが24から88に上昇しました】


「煙は出ず、か」


 どうやら本当にここの蜂地帯は、湧き方が特殊らしいな。今までの経験がまるで役に立たないが、それでも未知の出現方法にワクワクが止まらない。絶対に解明してやる!


「旦那様、お疲れさまでしたわー」

「お兄ちゃん格好良かったよ!」

「ああ、ありがとう。あ、そうだマキ、セレン。武技スキルはとれた?」

「……いえ。残念ながら得られませんでしたね」

『~~?』

「セレンもダメだったか」


 槍のスキルだから得られると思ったんだけど、無条件ではないのか?


「直接戦っていないからかもしれませんし、スピアと付いていても槍のスキルではないのかもしれません」

「そういうものか。じゃあ次が出たら、念のため2人で戦ってみようか」

「はいっ」

『~~♪』


 セレンを可愛がるついでに触手をにぎにぎしていると、アイラが隣にやってきた。


「ご主人様、確認を」

「ああ、そうだった。今回はスキルがあるんだったな」


 いつもは『レアⅡ』とか連続討伐した果てに得られる物だけど、今回は1回で終わったからもうあるんだったな。忘れてた。

 えーっとなになに?


 名前:毒生成

 品格:≪希少≫レア

 種別:アーツスキル

 説明:体内で毒を生成するスキル。生成時、即座に排出しなければ自ら毒に侵される。同レベルの『毒抗体』スキルがあれば中和が可能。


 名前:毒抗体

 品格:≪最高≫エピック

 種別:パッシブスキル

 説明:特定の毒に対して抗体を得られる。


「なるほど、『毒抗体』単独なら問題ないけど、『毒生成』を覚えるならセットで取得しなければ自滅する訳か」

「これ、人間に扱えるのかしら?」

「そもそも排出って、どこから出しますの?」

「「「「……」」」」


 嫌な想像が全員の頭をよぎったが、まあ使う事は無さそうだな。


「余剰分が手に入ったら、セットで研究所送りになりそうかな」

「うん、お父さんも喜ぶかも!」

「とりあえず最初のこのワンセットは、イリスが覚えてみようか。お前なら体内で毒を作って、『粘液生成』と『濁流操作』で敵にぶつけたりも出来るだろ」

『プルプル!』


 他にも、巨大化して相手を丸のみにした際は、今までは物理的に締め上げるだけだったが、毒もセットでついてくるようになったわけだ。うーん、凶悪。


『プル! プルル!』

「ん?」

『ゴゴ、ゴゴー』

『ポポポ』

『~~♪』

「ははっ、確かにな!」

「お兄ちゃん、この子達はなんて言ってるの?」

「ああ、どうせ『レアⅡ』がスキルの上位互換を出すから、今焦って覚える必要は無いってさ」


 そう言うと、皆が顔を合わせて微笑んだ。


「あはは、確かにー!」

「それもそうですわね!」

「そんな発想が出来るの、お兄ちゃんのチームだけだよー」

「ふふ。ではご主人様、次は如何なさいますか?」

「とりあえず、『キラービー』が出現した辺りに向かってみよう。レアモンスターが湧いたんだ、きっとそこに何らかの秘密があるはずだ」


 俺達は、森の奥へと歩を進めるのだった。

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