第十二章 第三の鍵
ガチャ339回目:森の仲間達
彼女達の誘惑を回避した翌朝。
「はぁー、清々しい朝だ」
「元気いっぱいですわー!」
目を覚ました俺達は活力に満ち溢れていた。
やっぱりダンジョン内では、そういうのは控えた方が良いかもしれない。こんなに気力に満ちた朝は久々だもんな。アヤネも気力に満ち溢れてるみたいだし。……まあ、他の女性陣、特にアイラ辺りは不満気ではあるようだが。
何か言いたげな視線を受け流し、朝食を摂った俺達はシュウさん含めた多数の冒険者に見送られ、件の森へとやってきていた。
「ここが森か……。鬱蒼とした密林ってほどではないが、緑に覆われた樹林だな。所々に花も生えてるみたいだし、密集具合や雰囲気としては『ハートダンジョン』に近いか?」
「ショウタさん、ここからではモンスターの姿は確認出来ませんが、『鷹の目』で目視することは可能ですか?」
「やってみる」
朝起きてすぐに、エンリルに飛んでもらって一帯を見て来てもらったが、森地帯は上から見ても生い茂った葉っぱしか見えず、敵性存在がどういったものか見れなかったんだよな。けど、マッピング自体は出来ていたので、『自動マッピング』には赤点だけは表示されていた。
改めて『鷹の目』で赤点の存在を見てみると……見つけた。
「……え? サイズおかしくない?」
巨大な図体をした飛行型のモンスターがそこにいた。ありふれた名称で言えば、ハチというべき存在なのだが……あまりにもデカい。成人男性のこぶし大くらいのサイズはあるよな?
外の世界では考えられないくらいのサイズだが、そのフォルムは危険なスズメバチよりも、温厚と名高いクマバチに近いものを感じる。その見た目も角ばったり攻撃的な色をしてるとかもなく、ただただフワフワモコモコの身体を持った、割と可愛らしい姿をしていた。あ、でもお尻のところにちょこんと小さな針はついてるか。
こんな見た目なら、綿毛虫のように人形化して売られていてもおかしくはないんだが……。本当に危険なのか?
「いたけど、あの大人しそうな蜂が問題なのか?」
「はい。手を出せば、とんでもなく厄介だそうです」
「お願いだから、こっちの準備が整う前に攻撃したりしないでね。大変な事になるんだから」
「わかった。でも大変な事になるって、もしかして『ハートダンジョン』のヤドカリみたいに、周囲の連中を呼び寄せるとか?」
「そうよ。けど、規模がヤドカリの比じゃないわ。文字通り数十、下手すると100匹単位でやってくるらしいの」
マジか。そりゃ大変だ。
そして昨日シュウさんが言っていた事も、ようやく理解出来た。知らずに手を出せば、1匹に挑んだはずがいつの間にか大量の蜂に囲まれることになり、逃げ道は第五層の入口しかない。そこに逃げ込んだら、今度はそこでキャンプをしている他の冒険者達も巻き添えを食う形となる。
……なるほどな。そりゃ事前に注意確認をしようとするはずだ。
「じゃあここの階層が嫌われてるというか、敬遠されてるのもそういうところなのか」
「はい。蜂地帯は侵入することすら禁忌扱いとされていて、内部調査がほとんど出来ていません。ゴブリン地帯は言うまでもなく、モンスターの密集度が高すぎる上に、私たちのような大戦力をもってしても、奥に辿り着くまでに1時間を掛けてあの数を倒す必要がある訳で……。山は山で別の問題がありますが、今は割愛します」
「なるほどね。ありがと、教えてくれて」
「はいっ」
以前義母さんから教えてもらったけど、この『初心者ダンジョン』では、第四層で一定数のモンスターを安定して狩ることができれば、『初心者は卒業』として箔をつけてくれるらしい。義母さんからそのお墨付きを貰えば、たとえ冒険者ランクがDランクでも『Cランク冒険者』と同等くらいには他の協会でも見做されるとかなんとか。
そのくらい、協会にとってこの第五層はあってないようなものなんだろう。ただ、今ならゴブリンはステータス半減に加えてスキルのドロップ数も爆上がり中だ。これからここも賑やかになるはずだ。
だから可能であれば、蜂が仲間を呼ぶメカニズムを解明できれば、森側でも狩りは行えるようになると思うんだが……。
「ショウタ君、準備良いよ」
「いつでも大丈夫ですっ」
完全武装したアキとマキが気合を入れた。ゴブリンとの戦いでもそこまで気合い入れてなかったのに、そんなに厄介なのか? それとも、噂に尾ひれがついて、無駄に力が入ってるだけかもしれないが。
そう思いつつ赤点を目指して歩を進める。
「……お、目視出来た」
「『真鑑定』」
*****
名前:マルーンビー
レベル:24
腕力:240
器用:240
頑丈:240
俊敏:240
魔力:24
知力:24
運:なし
装備:なし
スキル:なし
ドロップ:丸蜂の蜜
魔石:小
*****
『ブブブブブブブ』
「名前と見た目は可愛いのに、ステータスはなんというかふざけてるな」
強くもないが弱くもない。ここまで徹底して24で埋め尽くされていると、何かあるんじゃないかと疑いたくもなるが……。ううん、特別何にもなさそうな気がするな。
とはいえ、初めて出会う種類のモンスターだ。俺は内心ワクワクしながら、ゆっくりと慎重に近付く。しかし、いくら近付こうともマルーンビーはこちらに攻撃をしてきたりはしなかった。その後も接近を続け、彼我の距離が3メートルまで縮まっても、襲い掛かってくることはなかった。
「んん?」
奴の眼をみれば明らかにこちらを認識している。だというのに、悠長に花弁をツンツンして蜜を採取しているように見える。普通のモンスターなら絶対に牙を剥いている距離のはずだが、大人しい。これはどういう事だろうか。
ホバリングしている音は煩くあるが、近付く前から常に一定だし、緊張している様子もない。ここまで近づいても攻撃の意思を感じないのは、俺のダンジョン経験上、綿毛虫くらいのものだった。
昆虫系って、皆こうなのか?
「なあ、こいつって無害なんじゃないか??」
『ブブブブブブブ』
振り返り問いかけるが、俺の言葉に反応したのはアイラくらいのものだった。
「それでもモンスターですから、お気をつけ下さい」
「え? ごめんなさいショウタさん! よく聞こえません!」
「すごい音ですわー!」
どうやらホバリング音がデカすぎて声が通っていないらしい。
俺の場合は『知覚強化Ⅱ』があるので聞き分けられているが、彼女達には厳しいか。まあアイラは、しれっと口の動きで理解したんだろうけど。
しかし、攻撃的ではないにしろこのまま見てるだけでは埒があかないな。とりあえず倒してみて、仲間を呼ぶのか確認してみるか。俺はマルーンビーに剣を向け、一刀両断にした。
『ヴヴ! ブブブブブ……』
すると奴は、煙に変わりゆく寸前、一瞬甲高い羽音を鳴らした。
「おっ!?」
恐らく、それが合図だったのだろう。マップにはどこからともなく突然赤丸が出現し、付近にいた赤点もろとも、一斉にこちらへと向かい始めたのだ。その数、60ちょい。
今まで表示のなかった赤丸が出現したと言うことは、ここら一帯のレアモンスターも、特殊な手段でしか出現しないのかもしれないな。
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