ガチャ333回目:ガドガダ戦
俺が様子を伺っていると、『ガドガダ』もまた動く様子はなかった。『ガダガ』もそういうところがあったし、ゴブリンは知能が上がると礼節を弁えるようになるのか?
とりあえず集中するためにも周囲の状況を確認しようか。
結界のサイズは前回と変わらず、集落を覆い尽くすように広がっている。集落には居住区として使われていそうな木造と毛皮、藁などで積み上げられた家に、生活臭のする小物がある。だが、それらはダンジョンに生えている木々同様、ただ
戦闘中は家を壁にしたり隠れ蓑にしたり、はたまた小物を投げつけたりと、有効活用している節が見られるが、非戦闘中はそれらを使って生活などしている様子がないのだ。
まるで、こうして生活していた彼らを住居ごと、無理やりダンジョンシステムの一部として取り込み、その情景を維持しているだけのようにすら感じられる。
「……!」
「………!」
……おっと。思考が逸れたな。
声のする方向を見れば、そこには大慌てするカスミと、逆に冷静に応援している彼女達の姿があった。
問題ない事をアイコンタクトで伝えると、エンキ達はいつものようにサムズアップして、彼女達は頷き返してくれた。カスミは彼女達に任せてしまおう。
「さて……」
『準備ハ出来タカ』
その問いは『ガダガ』と同じだが、1度目と同様こちらを気遣う様子が感じ取れた。
機械的な問いかけではなく、1つの生物としての存在を、確かにそこに感じた。
「その前に1つ確認がしたい。
『ソレヲ知ッテドウスル』
「……どうもしないさ。ただ、どういう経緯でお前がここにいるのかを知りたくなっただけだ」
『フッ……ソウカ』
両者の間に沈黙が流れた。
だが、返ってきたのは素っ気ない返事だった。
『……ソノ答エヲ知リタクバ、我ヲ倒シテミヨ!』
「いや、倒したら答えられないだろうが」
それはつまり、答える気はないということか。
……まあいいさ。そうなるんじゃ無いかって予想してたし、ショックはない。それにここで教えて貰えなくとも、管理者のレベルを上げれば自ずとわかってくるかもしれないからな。ただ、喋る知能があるのはアイツだけじゃ無かったと知れただけで十分だとも感じていた。
『行クゾ、人間ヨ!』
「来い!」
『ゲギャ!』
『ゲギャギャ!!』
敵は『ガドガダ』を含め30と少し。
陣形はまずアーチャーが後方にいて、シーフが遊撃。『ガドガダ』はクラッシュとスピアを連れて前衛に混ざり、それをジェネラルが指揮をする。
対する俺は1人。頼れる仲間は結界の外で、俺自身にも弱体化のデバフが掛かっている。まずは邪魔な雑魚から減らしていくべきだろう。
俺はアイラから預かっている『異次元の腰巾着』から『カイザーヴェイン』を取り出し、上空に放り投げた。
「『魔導の御手』!」
発声に呼応して2本の黒い腕が現れ、俺の頭上で『カイザーヴェイン』をキャッチした。
黒い腕は弦を引き、魔法の矢を装填。そしてすかさず『ガドガダ』の周囲を固めていたゴブリン達を射抜き始めた。
『ドドドドドッ!!』
『ゲッ!?』
『ゲギャギャ!?』
『……奇妙ナ技ヲ使ウ』
「おらっ!」
壁役がいなくなり、出来た隙間に滑り込むようにして刺突を行う。
『ガィンッ!』
だが、俺の死角を突いた攻撃は、盾で防がれてしまった。
これは相手の戦闘経験からくる『直感』かもしれないな。急に何かに気付いたように、意志とは無関係に盾が動いていたように思える。
『グヌッ!?』
「よそ見してていいのか? お前の相手は俺だ!」
ダメージは無くても焦らせることは出来たかな。その顔からは余裕の色が無くなった。
そうして俺と『ガドガダ』が打ち合っている間にも、『魔導の御手』によって配下のゴブリンは数を減らしていく。
『者共、上ハヨイ! コヤツヲ狙エ!!』
「当たるかよっと!」
左右から短剣が、拳が、槍が襲ってくるが、すんでのところで躱し、曲射を狙って飛来する矢は他のゴブリン達を盾にしてやり過ごす。
『予知』のスキルがⅡになった際は、一度戦った相手ならば、弓の弾道予測まで可能としていたが、『予知Ⅲ』になった恩恵は今まで感じる事は無かった。それは『予知』するまでもない相手ばかりだからかと思っていたが、今この時になってようやくこのスキルの能力の詳細を理解出来た。
まず『予知』は戦った事のある相手なら、ある程度先が読めるスキルだが、戦った事のない相手なら機能しないという側面を持つ。ならば、『統率』や『決闘』によりステータスが増強された既知のモンスターは行動が読めるのか。その答えは否だ。
ステータスが強化されたり弱体化したモンスターは、行動パターンが同じでもその動きは全くの別物となる為、『予知』による予測がつかないのだ。その為弱体化したゴブリン達と初めて戦った時は、その弱くなったステータスに改めてフォーカスを合わせる必要があり、ちょっと手間だった記憶がある。
だが『予知Ⅲ』は、そんな煩わしい点をカバーしてくれるようだ。第五層に初見で挑んだ時は当然動きに慣れるのにしばらく時間を要したが、『ガドガダ』の取り巻きは元のステータスから2割の弱体化ではなく、3割とか7割のステータス増強がされているにも関わらず、時間を置かず即座に動きに合わせる事が出来ていた。
攻撃の流れが見えるという事は、動きの動線が分かるという事。だから、『ガドガダ』を相手にしつつ、『魔導の御手』に頼らずとも配下ゴブリンを殲滅する事も容易だった。
『グフッ!』
そうして戦い続ける事数十分、ようやく『ガドガダ』が膝を突くのだった。
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