ガチャ320回目:突破力

 『ジャイアントストームゴーレム』は、戦ってみた感じ『ジャイアントマッドゴーレム』の様な子分を呼び出すスキルが無い分、本体の対処がより厄介な感じになっていた。遠くから見守っていた以上に『風の鎧』もまた面倒なスキルで、近距離戦を挑もうとすると強風に煽られながら戦うことになるし、面で攻撃しようとすると強力な向かい風により勢いを殺される。

 斬撃よりも刺突であれば『風の鎧』の阻害を受けずに済むのだろうが、それでは水の身体にダメージを通しにくいときた。


「これ、普通に難敵じゃないか??」

『ゴポオォ!』


 剣での戦いは不利と判断し、1度回避に徹する。その間もエンリルの雷攻撃は続いていた。


『ポポ! ポポー!』


 流石に水は真水ではないようで、エンリルの雷撃は通しているようだ。放っておけばエンリルだけで倒せてしまいそうだが、それではもっと厄介な相手が出た時に太刀打ちできなくなる。俺も何とかしないと。


「ショウタ君、援護はいるー?」

「ちょっと考えさせて」


 だがまあ、難敵と言っても救いはある。奴のに関するステータスだ。

 『器用』600『俊敏』400と、数字だけ見ればそれなりにあるような気がするが、この程度のステータスでは、この巨体をフルに活かすことは出来ないだろう。

 『腕力』と『頑丈』であれば巨体になればなるほど上昇補正が掛かるらしく、数値以上の化け物へと進化するが、『器用』と『俊敏』はその逆で、巨体になればなるほど必要な要求値を満たせていないとパフォーマンスが落ちるというデメリットが存在する。

 

 なので考え事をしながらでも割と簡単に攻撃は避けられるし、動きも鈍間だ。レベル100以上の冒険者なら、当たる方に問題があると言っても過言ではない。だからカスミに戦わせても問題はなさそうな相手と言えた。ああでも、俺は『ジャイアントロックゴーレム』と最初に戦った時はその巨体にビビッて、勝手に委縮していたからな。カスミにいきなりやらせるのは酷かもしれないな。

 それはさておき。


「うーん……。身体を散らすよりもコアを優先して叩くのもアリだが、水の中に沈んでるんだよなぁ」


 石や岩、泥タイプのゴーレムは胸部の表面に嵌め込まれるかのように存在しているのに、水のゴーレムとなると完全に内部に収納されている。エンリルやセレンがそうだからある程度予想していたが、この場合ステータスの『頑丈』によってコアが護られているに等しい。そういう意味でも砂や岩、泥のゴーレムよりも上位の存在と言えるだろう。

 更には威力減衰を掛けてくる『風の鎧』もある。生半可な攻撃では、コアへのダメージは望めない。


 解決策としてはエンキに殴らせるか、エンリルの雷でちまちま削るか、『雷鳴の矢』や4倍マジックミサイルといった俺が持つ最大威力で吹っ飛ばすかだが……。でもいつもこの2つに頼ってちゃ、効かない相手が来た時困りそうだよな。

 もう少し何か攻撃の手段が欲しいというか……。


「旦那様、お悩みですの?」

「有効打を模索中、かな」

「まったく、戦いの最中だっていうのに暢気ねー」

「お兄ちゃんって、いつもこうなんですか?」

「最近はそうですね」

「ご主人様が『並列処理』と『思考加速』を得てからは、こういった場面が増えたように思います。ですが、回避に関しては修行の成果が出ているので文句はありませんが」


 まあ確かに、『金剛外装』に頼りっきりだったあの頃なら、この程度の攻撃に対しても連続回避は出来なかったかもしれないな。特に今回のような相手だと、ギリギリで回避しようものなら『風の鎧』の効果で吹き飛ばされちまうからな。


「うーん……」


 武技スキル的には『雷鳴の矢』以外相性がよろしくないし、魔法も攻撃系統は全体的にスキルレベルが低い。『念動力』でコアを引っこ抜けたら楽なんだけど、そういうのは難しそうなんだよな。となればアーツ系統で使えそうなものとなるが……。

 『神通力』はまだ使える気がしないから、活かせそうなのは『衝撃Ⅳ』『鎧通しⅡ』『急所突き』『縮地Ⅱ』『チャージアタックⅢ』辺りかな。斬撃が有効ではないという結論を出したばかりだし、ここは全力でコアに突撃してみるとするか。


「エンリル、突っ込むから風で補助を」

『ポポー!』

「フルブースト!」


 エンリルは短い言葉ですべて理解してくれたらしい。雷撃で敵の注意を惹きつつ、俺の背後に風の爆弾を設置し、すかさず起爆。


『ボンッ!!』


 あとはその追い風に乗って『縮地』で飛ぶだけだ。


「おおおお!!」


 最初の関門である『風の鎧』。その分厚い空気の壁を『縮地』と爆風で得た突進力と『衝撃Ⅳ』によって打ち破り、水の身体は『鎧通しⅡ』と『チャージアタックⅢ』で貫き、コアには『急所突き』スキルで威力を高めた剣を突き立てた。


『ゴポォ……!』


 貫かれたコアはその一撃で粉々に砕け散り、心臓部を失った水の身体は、支える力を失い崩れ落ちた。

 そしてゆっくりと、煙になって消えていった。


【レベルアップ】

【レベルが4から190に上昇しました】


「お、良い経験値」

「「「「「おおー!」」」」」


 俺の新たな攻撃方法に彼女達から拍手が起こる。

 俺自身が突っ込まずとも、絶大な貫通力を誇る『雷鳴の矢』を使えばほとんどの場面で事足りるだろうが、まあ攻撃手段が多いに越したことはないだろう。もう少しこの攻撃方法は練習しておくか。


「……あ、そういえば」


 煙になり、アイテムをばら撒いて消えていく『ジャイアントストームゴーレム』を見て、1つ思い出したことがあった。


「カスミー。経験値の事考えて無かったけど、要るか?」

「ふぇ!?」

「ついてきて見てるだけってのもあれだしな。どうせタダで手に入るんだから貰っていくか? 次のレアモン戦からになるけど」


 どうせ経験値を渡したって総量が減る訳ではないんだし、勿体ないしな。

 最初はちょっとギスってたのもあってその発想にはならなかったけど、もう仲直りしたし、すぐにそうしてあげてればよかった。手順も、アヤネとアイラを連れ歩くようになった頃は彼女達にもワンパン入れてもらってたしな。別にそこまで苦労はしないだろう。


「い、いらないよ! 私はお兄ちゃんの戦ってる姿が見たくてついてきてるだけだし、見てるだけでも参考になるから!」

「そうかー……? 今のお前のレベルは96だから、多分今の奴1回で50レベル分くらい一気に上がると思うぞ」

「ごじゅ……って、だから要らないってば! 急にレベル上がったら身体のバランス崩すし、何よりチームの皆との差が出来ちゃうから」

「……そういうもんか?」

「そういうものだよ!」


 カスミの言葉に皆が頷いた。


「ショウタさんも、『弱体化』スキルを得る前は苦労なさっていたでしょう? あれと同じですよ」

「そうそう。カスミちゃんはただでさえ成長速度がずば抜けてるんだし、一気に50も上がったら私生活に影響出まくるわよ」

「96からの50上昇となると、『統率』5個分を一気に貰う感じになりますわね」

「ご主人様がカスミ様を大事にされている気持ちはちゃんと伝わっておりますから、ここは折れてあげてください」

「むう、そうか……。なら仕方ないな」


 しかしそう言う意味では、皆も力の調整には苦労してそうだよな。彼女達も俺の修業に付き合ってくれているのは、練度を高める事の他に、そういった力加減を整える意味合いもありそうだ。

 『弱体化』のスキルがガチャ以外からでも入手出来ればいいのにな……。


「経験値が要らないのは、そういう意味じゃないんだけど……」

「ふふ、わかってますよ」

「カスミさん、そのお気持ち、とってもよくわかりますわ!」

「ズルをしたような気になるし、チームの皆に申し訳ないんでしょ? わかるわ、あたし達も一時期悩んだもの」

「……! そう、そうなんです! でもそっか、お兄ちゃんについていく以上、皆さんだって経験してますよね」

「ええ。ご主人様は、身内には激甘ですから」


 なんか俺の話をしてるなーと思いつつ、俺は次の予定を考えていた。現状ゴーレム地帯の環境改変は、大規模な魔法が『海魔法』しかない以上、これが限界だろう。だからこのままの状態でもうワンセット、狩りをしますかね。


 そうして俺は、今度はすぐにガチャを回し、もう1度『ウォーターストームゴーレム』と『ジャイアントストームゴーレム』を撃破。そうして3つ目の『ゴーレムコアⅤ』を手に入れたのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る