ガチャ317回目:変異種
書籍化、コミカライズが決定しました!!
詳細は最新の『近況ノート』をご覧ください!
https://kakuyomu.jp/users/hiyuu10/news/16817330665037228647
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『マッドロックゴーレム』は俺達に気付いたのか、ドロドロの身体を動かしながらゆっくりと動き始める。ただのレアにしてはスキルの種類も豊富だしステータスも高い。それに岩の身体に泥のコーティングをしているのか、防御力が高そうだな。もし初めて相対したのが『ストーンゴーレム』ではなくこいつだったら、苦戦は必至だっただろう。
理由としては攻撃が満足に通らなさそうである点の他に、もう1つある。それは周囲が砂場ではなく、より足を取られる泥の海だからだ。これでは不利な状況に陥った際、逃げ回って体勢を整えるのが難しい。
まあ今は環境変化で水没してしまっているが。
さて、エンキなら簡単に倒せてしまえるだろうが、今回は新モンスターということもあって録画した方がいいだろうし、ある程度バランス良く戦った方がいいだろう。
アヤネは度重なる大魔法の使用で疲れているみたいだし、カメラ役に徹させるとして……。
「アキ、マキ。やってみるか?」
「はいっ!」
「任せて!」
2人が前に出て、それぞれの得物を構える。どうやらマキはカメラを装着したまま戦うようだった。
「お兄ちゃん、任せちゃっていいの? 手伝ったりとか……」
「俺の婚約者達は、皆ちゃんと強いから安心して」
「う、うん……」
2人を戦いの相手と認めたのか、最初に動いたのは『マッドロックゴーレム』だった。奴は虚空を掴むようにその泥の腕を伸ばす。攻撃のためとは思えないが、何か危険を感じたのだろう。2人はそれを避けるように左右へと分かれて行動しようとするが、足を取られてバランスを崩しかける。
「「!?」」
いつの間にか彼女達の足元には泥沼が広がっており、2人の足首までどっぷりと浸かっていた。
離れて見守る俺の視点からでも本当に一瞬で現れたように見えるし、魔法に類する現象となれば、これは『泥人形』のスキル効果かもしれないな。
しかもその泥沼は、意志を持っているかのように彼女達の足首に纏わりつき、動きを封じようとしてくるようだ。普通の冒険者なら、その泥による阻害でまともに戦うのも困難だったかもしれないが、2人は違った。俺の無茶な修行にも、見ているだけでなく自ら参加して、力を磨く事を怠らない努力家なのだ。生半可な阻害では、驚く事はあれどすぐに立て直されるのがオチだ。
「「邪魔!」」
泥の抵抗むなしく、彼女達は泥沼から飛び出すと、それぞれが武器を振るい攻撃を仕掛ける。
「せいっ!」
「ハッ!」
アキの拳が纏った泥と一緒に中の岩を粉々に砕き、マキの槍が泥ごと中の岩を吹き飛ばす。
敵が持つ操作スキルは両方ともにレベル3だ。削ってもすぐに岩のボディと泥の外膜が修復されていくが、2人の攻撃は苛烈だった。その攻撃速度は敵の再生能力を軽く上回り、あっという間に残る身体はコアが収まった胴体と顔くらいのものだった。
「もう倒しちゃっていいぞー」
俺の声が聞こえた2人は、同時にコアを貫いた。
そしてコアからは膨大な量の煙が噴き出し、身体を形成していた岩もまた、煙となって消え去るのだった。
「2人ともお疲れ!」
「「はいっ! ……あっ」」
2人は今すぐにでも駆け出そうとしたが、自分達の身体を見て踏み止まった。
どうやら身体に付着した泥が気になる様で、身を清める事を優先したらしい。
「む? 消えないのか……」
改めて確認してみれば、2人の身体に付着した泥だけでなく、阻害手段として利用されていた泥沼も煙になることなくそのまま残留していた。考えてみれば、モンスターが出現した瞬間に纏っていた泥を除けば、魔法の力でその辺の砂や水を集めて作られたものだからな。そのためダンジョンからも、あれらの泥はモンスターの身体として認識されていないらしい。
まあ俺はそんなの気にしないので抱きしめに行くが。
「あっ、ショウタさん……」
「もう、汚れちゃうよ?」
「2人が頑張った証だし、気にならないよ」
「えへへ……」
「もう……。カスミちゃんが見てるわよー?」
そんな事を言ってるが、アキも満更でもないようで嬉しそうにはにかむのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
改めて彼女達の体をぬぐい、モクモクと煙を上げ続けるレアモンスターの残骸を見守る事10分。ようやく変化が起きた。煙は膨張を開始し、中から感じる気配に胸が高鳴る。この中で唯一、レベルの低いカスミだけは緊張を隠せないようだが、これも経験だ。
『ヴォオオオ……!』
*****
名前:ジャイアントマッドゴーレム(変異種)
レベル:135
腕力:1500
器用:600
頑丈:1800
俊敏:400
魔力:9999
知力:200
運:なし
【
【
【
装備:なし
ドロップ:ゴーレムコアⅤ
魔石:極大
*****
「へぇ……。期待以上だな」
スキルも美味しいが、1番の目玉はこの『ゴーレムコアⅤ』だろう。こんなモンスターなのに宝箱がないとか普通なら文句が出るかもしれないが、俺としては宝箱以上の報酬だった。
この時点で、こいつを3体倒すことが俺の中で決定した。
この後のことも考えると巻きで倒すのもアリだが、最初だからな。まずは力試しと行こうか。
「エンキ、来い。一緒に倒すぞ」
『ゴゴ!』
『ヴォオオ……』
『ジャイアントマッドゴーレム』が腕を振るうと、俺たちの足元が突如として泥沼に沈む。このスキルは先ほど見たが、効果は先ほど見た足止め効果とはまるで異なる物だった。
その泥沼から、170センチほどの泥人形が2体出現したのだ。
*****
名前:マッドドール(変異種)
レベル:――
腕力:800
器用:30
頑丈:800
俊敏:10
魔力:10
知力:10
運:なし
装備:なし
スキル:なし
ドロップ:なし
魔石:なし
*****
「足止めじゃなくて、本来は子分を呼び出すスキルだったのか。だが2体程度じゃ……」
そう言ったのもつかの間、更に泥人形が2体出現した。もしかすると、泥がある限り無限に出てくるのかもしれない。あまり放っておくのは不味そうだ。まずはコレの処理を優先するか。
「エンキ、ボスの相手は任せた」
『ゴ!』
『斬ッ!』
出現した『マッドドール』を4体まとめて切り捨てる。しかし『マットドール』は、何事も無かったかのように起き上がってきた。連中の身体にはコアなんてないためか、元凶となる泥沼がある限り無限に再生と出現を繰り返していくようだ。
ただ、『腕力』と『頑丈』の数値の高さに目が行くものの、『器用』と『俊敏』は雀の涙しかない哀れなモンスターでもある。囲まれても高さがないため、抜け出すのも容易だ。しかしこの戦いが無限に続くとなれば話は変わってくる。
エンキの方を確認してみれば、両腕で取っ組み合いをしたり殴り合ったりと苛烈なバトルをしている。『レアⅡ』になったことで岩の身体に泥のコーティングスタイルではなく、全身が泥で出来ているようだ。
だがそれでも、性能面でもスキル構成でもエンキの方が格上だ。苦戦する様子もないし、むしろコアを叩かない限り壊れないオモチャを手にしたようで、戦いを楽しんでいた。
なので俺はこっちに集中しよう。
試しに『砂塵操作』と『濁流操作』を使って泥を散らしてみたところ、その場所からは2度と『マッドドール』が現れる事はなかった。
目算通り、人形を作るための基がある程度ないと、このスキルは機能しないらしい。
「となれば……ふんっ!」
スキルでブーストした力で剣風を巻き起こし、泥を吹き飛ばしてみる。
すると雑魚はあっさりと現れなくなり、『マッドドール』も再生しなくなった。そしてしばらくそのまま待機してみたが、新たな泥沼が生成される事も無かった。
「取っ組み合いに集中していて作る暇がないのか、他に前提条件が必要なのか……。まあそこは良いか。エンキ、倒して良いぞ」
『ゴゴ!』
エンキは相手の両腕を掴み、抵抗出来なくした状態で中央のコアに向けて頭突きをかます。どうやらそれだけで決着したらしく、相手のコアは粉々に砕け散るのだった。
【レベルアップ】
【レベルが101から144に上昇しました】
今の頭突きは実を言えば技の始動に過ぎない。本来ならそこから角ドリルだったり、パイルバンカーへとコンボを繋げることもできるんだよな。けど、弱点を露出したモンスターにはそこまで必要じゃなかったという事だ。
「エンキ、よくやった」
『ゴゴ~』
しっかし、ゴーレム種はステータスが全体的に高めなのに、コアという存在が致命的だよな。ステータスの『頑丈』がコアに対してはほとんど機能してないのが問題だ。無限に再生できるボディを思えば、弱点もある事で差し引きゼロなのかもしれないが、それで得するのは敵にした場合だけだ。
エンキ達もその弱点は受け継いでるし、何とかしてあげなきゃなぁ。
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