ガチャ315回目:指輪の実験
「えへへ、お兄ちゃ~ん」
「よしよし」
大泣きする妹を慰め、落ち着かせたのは良いものの……。それからのカスミはひたすらにベッタリとくっついて来て、離れる気配が無かった。そういえば、昔はこんな風に甘えて来てたっけ。
昔に戻ったみたいで嬉しいが……それは10年以上前の話だ。小学生の頃と違って今は俺達も良い年した大人な上に、会うのも6年ぶりだ。ダンジョンのレベルアップの影響で、見違えるくらい美人になってるし、先程垣間見たようにスタイルも良すぎる。だから、どうにも妹というより一人の女性として意識してしまう。なので彼女達が見ている中で、こういう風に引っ付かれるのは非常に困るんだが……。
そう思って無理に引き離そうとしたら、カスミは滅茶苦茶悲しそうな顔をするんだよな。昔はここまで甘えん坊ではなかったはずなんだが、これも10年ぶりに本音を出せた反動か? カスミにそんな顔されて、俺が耐えられる訳もなく、仕方なしに彼女が満足するまでそのままでいさせてやることにした。
「「「「……」」」」
最初の内はカスミとの顛末を事前に聞いていたからか、彼女達も抱き合う俺達の姿に涙していたが、いつまでも引っ付き続けるカスミに対し、思うところがあるらしい。次第に皆から発せられる気配が変質し、黒い感情を湛えた目が俺達へと注がれ始めていた。
「むぅー。カスミさんばかりずるいですわー!」
最初に我慢できなくなったのは、いつも甘えて来るアヤネだった。彼女にしてみれば、いつものポジションをカスミに奪われたような気持ちなんだろう。
「やだー。久々のお兄ちゃんだもん」
「むぅー!」
カスミは猫を被るのをやめたのか、口調が子供の頃のものへと変化していた。カスミとアヤネによる可愛らしい攻防は、見ていて微笑ましい気分にさせられるが、正直あんまりここで時間を潰したくもないんだよな。そろそろ移動を再開したい。
そう思っていると、いつもの笑顔のはずなのに圧が強めのマキがやってきた。
「カスミちゃん」
「マ、マキさん?」
「ショウタさんが困っていますよ。カスミちゃんは、ショウタさんの邪魔をしたくはないでしょう?」
「うー……。わかりました」
そう言ってカスミはすごすごと下がって行った。やれやれ。
マキ達もあとでケアしてあげるとして、まずはマップ確認をしなきゃな……。よし、奥が空いてるな。
「それじゃ、あっち方面に移動するぞー」
ステータスが劣るカスミをエンキに乗せて、全員で目的地へと移動した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
到着したそこは、第二層に4カ所あるゴーレム地帯の1つだ。
誰もここにはしばらく近寄っていないのか、ゴーレムもMAXで出現しているようだ。
「砂地……? こんなところに何かあるの?」
「ここにはゴーレムがいるのですわ!」
「ああー、ゴーレムコアってここから産出されてるんだ。お父さんも喜んでたよ」
「あ、てことは父さん研究職に戻れたんだ?」
「そうだよ。私とお兄ちゃんの……ううん、ほとんどお兄ちゃんの仕送りのおかげかな。お金の心配がなくなったから、お父さん好きな事出来るって喜んでたよ」
「そうか……。それは良かった」
「そのお話も気になりますが、ショウタさん、ここに一体どんな用が?」
おっと、脱線してしまった。
「ほら、セレンの操作スキルは二段階目のMAXまで一気に駆け上がったけど、2人はまだLv1だろ? だからここで『砂鉄操作』を、そんで第四層では『風雷操作』を1レベル分くらいは確保しておこうかと思ってさ」
「なるほどね。この先もこの子達は活躍してくれるだろうし、スキルでお手軽にパワーアップ出来るならしておくべきね」
皆が納得したところで、さっそくアイラが砂の上を駆けだした。いつもの釣り戦法だ。
「えっと、お兄ちゃん。スキルを取りに来たのは分かったけど、急ぐんじゃなかったの?」
「急ぐよ?」
「じゃあこんな所で足踏みしてる暇はないんじゃないかな。お兄ちゃんが受けた依頼って、詳しくは知らないけど緊急性の高いものなんでしょ?」
「そうだな。なるべくなら今日中に終わらせたいと思ってるけど、まあ問題ないだろ」
「??」
カスミはよくわからないといった表情で首を傾げる。まあスキル=レアモンスター、もしくは宝箱って認識だろうからな。そんなすぐには出現させられないと思ってるんだろう。ある意味これが普通の反応ではあるよな。
そうしてやり取りしてる間にアイラが戻ってきた。
「お待たせしました」
「お疲れさま。それじゃアヤネ、打ち合わせ通りに例の方法で一掃してくれ」
「お任せくださいですわ!」
アヤネが一歩前に出て、アイラを追ってきたゴーレムの集団が集まるのを待つ。そして良い感じに集まったところに、『モーセの杖』を向けた。
「……タイダルウェイヴ!!」
『海魔法』のレベル2。義姉さん達が『津波』と呼んでいた『クラーケン』の持っていた魔法を行使した。
『モーセの杖』から大量の海水が噴き出し、押し寄せていたゴーレムを飲み込み押し流していく。その勢いはゴーレムだけに留まらず、砂場地帯の全てを飲み込み、全ての存在を覆いつくした。そうして魔法の行使が終わった頃には、目の前にある光景は砂場地帯ではなく、巨大な泥沼地帯へと変貌していた。
飲み込まれて倒されたゴーレム達は全て煙になり、その内の1つが膨れ上がり、岩場の上へと登って行く様子が見てとれた。
「うん、見事に環境破壊な魔法だな」
「旦那様、わたくしにも煙がハッキリと見えましたわ!」
「お、そうか。俺にも見えてたし、皆にも見えていたか?」
「アヤネちゃんすごい……!」
彼女達が頷く中、カスミは展開について行けず驚くしかないようだった。
しかし、指輪の効果で『運』が俺と共有されてるのは本当に間違いないようだな。レアモンスターもバッチリ出現するようだし、煙も見えた。残る問題はドロップアイテムの回収だが……。
『~~』
「おお、ご苦労様」
セレンが『濁流操作』で水を操り、ゴーレムのドロップ品を泥沼の中から全て集めて来てくれた。そこには116個のゴーレムコアと『小魔石』があった。
うん、水さえあればそこはセレンの管理下。回収も問題なさそうだな。
「これで指輪がしっかり機能する事が証明された。アヤネや他の皆も、レアモンスター戦で前に出ても問題なさそうだな」
「はいっ、ショウタさん!」
「旦那様と一緒に戦えますわ!」
「楽しみね! あ、でも強化体はどうなるのかしら?」
「あー、そっか。それも参照先が俺になるかは不明なのか……」
「そうですね。そこは機能しないかもしれませんし、エンキ達と同じ扱いかもしれません。手軽に試せる相手が来た時にでも実験するとしましょう」
「だな」
そうしてその場から『紫電の矢』と『雷鳴の矢』を順番に放ち、遠くに出現した『ストーンゴーレム』と『ジャイアントロックゴーレム』の胸のコアを射抜くのだった。
ちなみにレベルは上がらなかった。
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