ガチャ314回目:10年ぶりの

「話はまとまったかしら」


 カスミの登場から今まで、黙って様子を見ていたミキ義母さんが声を上げる。


「あ、義母さん。ごめん」

「義母さん!?」

「あ、言ってなかったっけ。アキとマキのお母さんで、支部長のミキ義母さん」

「えっ、じゃあ……」

「フフ。カスミちゃんも私の娘という事になるわね」


 さて、『はわわわ』と動転するカスミは置いといて。


「そういえば、何か話があったんでしたっけ」

「ええ。さっき『初心者ダンジョン』に通う冒険者達があなたに依頼を出したでしょう? それを、私達第一エリアの協会長達も一口噛ませてもらう事になったの。今日の所はその報告ね」

「えーっと……つまり?」

「『初心者ダンジョン』を完全に攻略した後、次はどのダンジョンを攻略するか。そこは君の自由意思に任せるつもりではいるわ。けど、このダンジョンで2度も起きたフィーバータイムが、他でも起きる可能性がある以上、皆自分の所を優先的に来てほしいわけ」

「なるほど」


 2度起きたフィーバータイム。特に第四層で起きたお祭りは、『初心者ダンジョン』の活性化と共に、今までにない大きな利益を協会・冒険者双方に与えた。それが自分の所でも起きればと夢見る気持ちはわかるし、俺としても引き起こせるなら引き起こしてみたい。

 ダンジョンによっては、その仕掛けも千差万別だろうしな。


「だから、君に来てもらう為に、各支部長がお礼の品を用意してあなたの興味を惹くつもりでいるみたい。勿論その報酬を一度受け取ると、以降はそのダンジョンを優先的に攻略して欲しい所ではあるわね。でも、選ばなかったからと言って他のダンジョンのお礼の品が無くなるとは限らないわ。その次以降も、支部長同士の競りが行われる可能性がある訳だから」

「……わかりました。ひとまず自分の中でも、次にどこを攻略するかはある程度決めておきたいと思います」


 『楔システム』の件もあるしな。どのダンジョンと線を優先的に結ぶかで、話が変わってきそうではある。


「よろしくお願いね。ああでも、ヨウコちゃんはフィーバー起こされたら困るから来て欲しくは無さそうだったわよ」

「あはは。……けど、攻略途中なので優先順位は割と高めですけどね」

「ふふ、やっぱりそうなのね。ま、そこは任せるわ」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 協会を出た俺達はそのままダンジョンに向かい、第一層を抜け第二層に到着する。

 このまま第四層へ真っ直ぐ向かっても良いんだが……。そうだな、少し寄り道をするか。周囲に人が少なくなってきた辺りで、俺はちらりと妹の様子を見る。するとカスミは、興味深そうに周囲の状況を探っていた。

 うん、散歩気分じゃなさそうだし、しっかり警戒もしてるな。知らない間に妹がちゃんとした冒険者になっていて、なんだか感慨深いな……。


「なあカスミ、その背負ってる荷物はテントとかそういうのが入ってるのか?」

「うん、そうだよ。……あれ? そういえばお兄ちゃんたち、荷物少ないよね? もしかして高ランクだから、ダンジョン内に専用施設とか借りてる口?」

「いや違うよ。それ、今すぐ使わないのならアイラに預けたらどうだ?」

「アイラさんに?」


 そう言えばアイラの鞄の事とか何も伝えていなかったな。

 そう思って伝えると驚かれたが、『Sランク冒険者』だからと勝手に納得したようだ。なんなら2つあるし、家が飛び出て来たりもするんだが……。まあそこは追々知ってもらうとしてだ。


「カスミ、今更だがついてくる以上お前の強さも知っておきたい。直接視てもいいか?」

「あ、うん。良いよ。……って、お兄ちゃん『鑑定』持ってるの!?」

「ああ、な。なんならチーム全員が『鑑定』持ちだ」

「流石『Sランク冒険者』のチーム……。あ、皆さんも見て良いですよ!」

「んじゃ早速」


*****


名前:天地 香澄

年齢:19

身長:157cm

体重:49kg

スリーサイズ:85/56/87

レベル:96

腕力:769

器用:769

頑丈:389

俊敏:579

魔力:293

知力:293

運:10


装備:第七世代型・雲母【真打】、第七世代型・花ノ振袖【改】


ブーストスキル】剛力、俊足、鉄壁

パッシブスキル】身体強化Lv1、体術Lv1、剣の心得Lv4、抜刀術Lv2

アーツスキル】気配感知


*****


「ほー……」


 妹のスリーサイズが見れてしまうのは少し気まずいが、これは『鑑定LvMAX』がないと見れない情報でもある。言わなきゃバレないだろう。

 それにしても、やっぱり成長したカスミは、な。


「……えっ? カスミちゃん、全体的にステータスが高いですね」

「うわ、ちょっと前のあたしより断然強い!」

「す、すごいですわー」

「ご主人様との違いが明確ですね。身近にこんな成長株がいては、離れようと思うのもわかるかもしれません」

「あうっ……」


 そうなのだ。カスミは初期ステータスもそうだが、成長ステータスも『SP』も全てが最高峰のスペックを持っているのだ。

 初期ステータスは、『腕力』から『俊敏』までの4ステータスが驚異の9。『魔力』と『知力』も8と高水準で、『運』は最初から10もあった。それだけで協会からスカウトが来るのは当然と言えたが、それ以外にも幼い頃から武術の才能も有り、高いステータスと合わせてLv1でも簡単にゴブリンを蹴散らせる腕前を持っていた。俺が全寮制の高校に進学するよりも前に、協会の人から熱心なスカウトをされ、正式な冒険者でもないのに成長値や『SP』を確認する為にゴブリン討伐の許可が降りたりと、破格の待遇を受けていた。

 そして判明したのが『腕力』『器用』の成長値は最大値の5。『頑丈』『俊敏』は4。『魔力』『知力』は3と、文句なしの前衛スタイルで、『SP』も最大値の8だった。

 もう絵に描いたような最高の人材に、協会は大喜びでカスミの支援を名乗り出た。


 その時からだな。周囲の俺に対する目が、より一層冷淡な物に変わり果てたのは。

 今思えば、カスミや父さんは庇ってくれていたと思う。だが、当時の俺からしてみれば、正直惨めさが増すだけだったし、耐えられそうになかった。だから逃げるように家を出たんだ。

 そして故郷の悪評は届かなくても、ゴミのようなステータスであることに変わりはないため、学校でも似たような扱いを受けた。むしろ閉鎖空間だったからもっと酷かったかもしれないな。最後に卒業を前後するタイミングで『アンラッキーホール』の噂を聞き付けた俺は、一縷の望みに賭けて、投げ売りされていた部屋へと転がり込んだんだ。


「お兄ちゃん、その……」


 少し前までは、こんなステータスを見せられていたらへこむどころの騒ぎじゃなかっただろうが……。今なら純粋に、カスミの頑張りが見える気がする。こんなステータスを持っていたら、きっと俺が受けていたのとは真逆の、際限のない嫉妬を一身に受けていただろうし。

 本当なら兄である俺が、支えてやるべきだったのかもしれないが……今でもまだ、間に合うだろうか?


「カスミ」

「は、はいっ」


 沢山苦労をしながらも、カスミは折れたり腐ったりせず、真っ直ぐ走ってBランクまで上り詰めたのは事実だ。だから今は、それをめいいっぱい褒めてやらないとな。


「今まで、俺の知らないところで頑張って来たんだな」

「……! う、うん。私ね、頑張った。頑張ったんだよ……!」


 今までカスミには、甘えられる相手がいなかったんだろうか。まるで10年前の、仲良しの兄妹だったころに戻ったように、涙を見せる彼女を俺は抱き寄せる。そしていつもしていたように、頭を撫でてあげた。

 するとカスミは、堰を切ったようにわんわんと泣き出した。

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