ガチャ313回目:妹出現

 俺を兄と呼ぶ和装の女性は、確かに6年前に別れた妹のカスミに、どこか面影が重なる。

 だが、なぜ彼女がここに!? てか、その格好はなんだ!?

 とにかく、何か言わなきゃ……。


「……ええと、久しぶりだな。元気だったか、カスミ」

「うん、元気だよ。お兄ちゃんも元気そうにしてるみたいね」

「ああ。……ところで、そのコスプレはなんだ?」

「コスプレじゃなーい! 最近の第二エリアは和装防具がトレンドなの!」

「そうなのか? ……しかしカスミ、見ない間に随分と美人になったな」

「え!? あ、ありがと……。ってそうじゃなくて!」


 カスミはプリプリと怒っている。

 ああ、このノリツッコミと、怒った時に両腕をぶんぶんと振り回す動き、間違いなく妹のカスミだ。


「お兄ちゃんが冒険者を辞めたと思ったら『Sランク冒険者』になってるし、彼女が出来るどころか4人も美人さん達を侍らせてるし、ゴーレムやモンスターを連れてるし、雰囲気だけでも滅茶苦茶強くなってるのがわかるし、もうなにがどうなってるのよっ!!」

「まあ……色々とあったとしか言えないな。てか辞めたなんて一言も言ってないし。……んで、カスミはそれを確認するためにわざわざ来たのか?」

「そうだよっ! 他人の空似かもしれないし、お父さんも心配してたんだからっ!」

「そっか。……改めていうけど、俺はこっちで元気にやってるから心配はいらないぞ。彼女達とも近いうち籍を入れるつもりだし。ああそうだ、紹介しないとな」


 そうして照れる彼女達やエンキ達を順番に紹介していくと、カスミはペコリと頭を下げた。


「本当に困った兄ですが、皆さん宜しくお願いします!」

「んふふ、任せて。そういう困ったところも好きになっちゃったから」

「うわあ、ラブラブだぁ」

「カスミちゃん、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします。マキさん!」

「よろしくお願いしますわー!」

「よろしくねアヤネちゃん!」

「よろしくお願いします、カスミ様」

「は、はいっ! よろしくお願いします!」


 うん。まあ、仲良くやれそうではあるかな。マキとは同い年のはずだけど、まあしっかりしてるし年上に見えるよな。わかるぞ。


「あっ、皆さんお揃いの指輪とネックレスを着けてるんですね。それに、とっても綺麗……! もしかしてお兄ちゃんが?」

「ええ、ショウタ君があたし達の為に作ってくれたの」

「つく……!? 用意してきた甲斐性に驚いてたのに、そんな器用な事まで出来るようになったの!?」


 などとまあ、失礼な事を言われたりもしたが、カスミにもある程度今の俺達の関係は伝わったように思う。結局コイツは、今の俺が本当に『Sランク冒険者』になったのかどうか、事実を確認する為だけに、第二エリアからやってきたみたいだ。

 まあ関西と関東は遠いようで割と近いからな。電車なら数時間もあれば着くし、冒険者なら優先チケットも簡単に手に入る時代だ。


「んで、カスミはこの後どうすんの? 俺達は今からダンジョンだけど」

「……お兄ちゃん、強くなっても相変わらずなんだね」

「なにが?」

「超久々に身内が訪ねて来ても、自分の用事が最優先なとこだよ」

「あー」


 言われてみればそうかもしれない。なんて納得していると、彼女達も思うところがあったのかうんうんと頷いていた。


「まあでも、今回は俺の用事もあるけど、友達から依頼をされたのもあるしな。私用で遅らせるわけにはいかないさ。えーっと、カスミにも説明が必要だよな」

「いらない。私もその現場は、支部長室で見させてもらっていたし」

「そうなのか」

「お兄ちゃん、ここではいろんな人に頼りにされてるんだね。……なんだか嬉しいな」

「カスミ……」


 俺のステータスがあんなことになって、周りから見放されて行くのを間近で見ていたからな。思うところもあるんだろう。


「お兄ちゃん、今までずっと頑張ってたんだね」

「ああ」

「……ねえお兄ちゃん。迷惑はかけないから、私もダンジョンについていっていい?」

「え?」

「お兄ちゃんがどれくらい強くなったのか、この目で確かめたいの。お願い!」

「……うーん」


 まあカスミは『直感』的に見たところ、そこまで足手まといにはならない雰囲気は感じる。ただ俺達も日帰りという訳じゃないし、ぶっちゃけ第五層を制覇するまでは戻らないつもりでいる。そういう場面を見せるのはまあ別にいいとしても、彼女達と寝泊まりするとこに一緒に過ごすとなると、我慢できるか心配というか。特にアイラ辺り。

 目を閉じて唸っていると、背後からアイラがしな垂れかかって来る。


「ご主人様、失礼な事を考えていますね?」

「いや事実じゃん」

「ですが、ご主人様もそうではありませんか?」

「そんな事はないと思うんだが?」

「私、これでもBランク冒険者チームのリーダーなの! 今から行くのは『初心者ダンジョン』なんでしょ? 腕には自信があるからっ!」


 心を読んだいつもの問答に、カスミは不安になったのか前のめりになってアピールしてくる。

 そんなについて行きたいのか。というか、もうBランクなのか。流石カスミだと言いたいところだが……。


「カスミ、地元のメンバーにはちゃんと説明してきたのか?」

「うん。生き別れになったお兄ちゃんに会ってくるって、ちゃんと言ってきたよ!」

「生き別れって。いやまあそれはいいとして、俺達は日帰りじゃないんだ。確実に何泊かする事になると思う」

「うん、大丈夫。キャンプには慣れてる。この前も1週間ほど遠征に行ってきたし」

「それに、カスミは俺達とは別のテントになるかもしれない」

「良いよ。内緒事も沢山あるだろうし、食事も別でいいから」

「いや、そこは俺が許さん。飯は一緒に食おう。それからカスミも察してるように、俺には秘密事が沢山ある。隠れて何か、コソコソしてたり不思議な光景を見ても気にするな。詮索も無し。あと、俺のチームに同行して得た情報は俺が許可したもの以外、口外を禁止とする。それでも良いか?」

「うん! 絶対に誰にも言わない!」

「……ま、お前は俺との約束を破ったことは一度も無いからな。信用してる」

「あ、昔の事、覚えててくれたんだ」

「律儀に、俺が子供の頃にあげた髪飾りをまだ着けてるみたいだしな」

「えへへ」


 カスミの着けてる髪飾りは、ダンジョンが出現する以前に、縁日でゲットした景品だったはずだ。流石に10年以上使っているだけあって年季があるし、ガタが来ていそうだな。今度スキルを使って直してあげてもいいかもな。

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